第17話 ダンジョンの異変
「ね、この依頼、ヤバイ奴だったんじゃないかしら?」
「リーシャ、そういうなって。お前だって賛成したじゃないか」
「そうだけど」
「ふたりとも、今は口じゃなくて手を動かせよっ」
ダンジョンの通路の前と後ろから、オークが湧いてくる。
倒しても、またすぐに湧いて出てくる。
「よし、これで最後だ」
後ろから来たオークをリーシャと共にやっとこさ倒した。
もう、オークの襲撃は4回目だ。
「戻るにしても、オークは出てくるから、突っ切るしかないな」
「そのようね。でも、このポーションが無かったら全滅だったわね」
「もう、メッシャの魔法も使い切ったしな。あとはダメージ覚悟の肉弾戦しかないからな」
俺は虎の封印紙を破いてコルクの蓋を外し、ポーションを一気飲みする。
「ふう。しかしまぁ、この帝国印のポーションは効果が高いな。ギルド印の倍はあるんじゃないか」
「本当よね。ギルド印のは高いのに、大したことないわね」
「シオン様々ってことだな」
シオンから預かったポーションが俺達の命をつないでいる。
もう半分以上使ってしまったが。
「あと、このフロアの出口まで来た道の半分くらいだ。一気に行くぞ」
「はいよっ」「おうっ」
☆ ☆ ☆
この日、ダンジョンの3番ルートの入口に立ち入り禁止の札が立った。
通常の何倍も魔物が湧くという報告が、ガンシャパーティによって報告されたからだ。
今、ダンジョンに異常現象が起きている。
3番ルートだけでなく、他のルートでも魔物発生が増えているのだ。
このままいくと、魔物があふれてスタンビートすら考えられる。
街を守るためには、魔物を減らさねばならないのだが、準備をしていない冒険者だけでは太刀打ちができない。
衛兵も騎士団も予備兵も、すべて動員して魔物殲滅を実施するしかない。
その号令が掛けられようとしていた。
同時に動員に必要な物資の調達も始まっていた。
☆ ☆ ☆
「お、いたいた」
宿屋の前でジョンとだべっていたら、道具屋のオヤジが来た。
ギルド印じゃないポーションなんて買い取りできないと断ったオヤジだ。
「ん、なんのようだ?」
ジョンが早速、噛みついてる。
ジョンって敵か味方か分ける癖があって、道具屋のオヤジは敵認定されている。
「今日は特別に、お前らのポーションを買い取りしてやろうと思ってな」
「はぁ? ギルド印じゃないのは買い取れなかったんじゃないの?」
「だから、特別だと言ってるだろう」
「ふーん。で、いくらで買い取るつもりなんだ?」
あ、ジョン、なんか思いついたみたいだ。
にやりって笑ってる。
「いいか、聞いて驚くなよ。大銅貨5枚だ」
「なんだ、売値の半額じゃないかよ」
「当たり前だろう。ギルドの保証がないポーションが売れるのはワシの信用力だ。それ以上期待しても無駄だぞ」
「そうなのか……確かに他でも無理みたいだけど」
「そうだろう、そうだろう。今だけ特別に大銅貨5枚だそう。それもあるだけ全部買い取ろう。何本持っているんだ?」
「今、何本あるの?」
うん。さっき、ジョンの手下が集めた大量の薬草から、ポーションを錬金したから100本ちょうど時空収納に入ってる。
「100本あるよ」
「おお! 100本、全部買い取ろういい話だろう?」
「いい話だな。だが断る!」
あ、それやりたかったのね。
冒険物語によく出てくるセリフ、だが断る。
ション、最高のドヤ顔だーーー。
「お、お前。何言ってるのか! いくら100本あっても、街じゃどこも買い取らないぞ」
「知っているよ。だから、俺達は街じゃ売らないで街の外で売ることにしたのさ。なんか文句あるのか?」
「ふ、ふざけるな。街の外だって買い取る奴なんていないぞ」
「そんなことはない。もう予約で一杯なんだよ。うちのポーションは効果が高いって冒険者の間で噂になってな」
あ、「しまった」って顔している。
道具屋オヤジ、先見の明がないって奴だね。
「お、そろそろ。朝の3刻になるね。シオン、行こう」
「うん。常連さんを待たせたら悪いしね」
「そうそう。商売は信用が第一なんだよ、道具屋さん」
うん、ジョン、決め文句も決まったね。
足元を見る商売人は、足元を見られるって格言通りだね。
☆ ☆ ☆
「おー、シオン。来てくれたか」
「うん。今日は100本、作ったよ」
「それは助かる。悪いがいつも通りの1本銀貨1枚でいいか」
「もちろん」
なんと言っても、ガンシャさんは僕のポーションを評価してくれた最初のお客さんだから。
いくらポーションが品薄で値段が高騰していても、値上げなんてしたくないし。
「俺もちゃんと冒険者仲間に銀貨1枚で分けてやっているからな。途中マージンは取ってないぞ」
「うん、信じてる。転売ヤーじゃないしね」
「もちろん、転売ヤーみたいな卑劣なことはできないな」
うん。
ガンシャさんから冒険者仲間に虎印ポーションが行き渡っている。
販売ルートを持たない僕達としては、すごく助かる。
「ところでもっと、たくさんポーションって作れるのか?」
「たくさんってどのくらい?」
「そうだな。たぶん500本くらいは必要なんじゃないか」
「そんなに? どうするの?」
「騎士団の使いが来て、ポーションを分けて欲しいって言ってきたのさ。騎士団だけでなく兵士とかにも持たせるための物らしい」
「へぇー。何人くらいいるのかな」
「この街の正規兵は200人程度だ。ひとり2本として、合計400本、騎士団の分もあるから500本」
どうなんだろう。
そんなにいっぺんに作ることはできるのかな。
やってみないとわからない。
「どうかなー」
「やってみてくれないか。いつもは偉そうにしている騎士団の使者が冒険者の俺に頭をさげたのさ。とっても気分がいいから、頼み事を聞いてやろうと思ってな」
「そうなんだ」
ジョンと話しても、悪い話じゃないってことになった。
ただ、薬草がもっと必要になるからチビ達じゃ無理だってなった。
「薬草がいるんだけど、今、採取している街の周りの安全な所だと、そろそろ採取が難しくなっているんだ」
「薬草担当はジョンなんだな。それなら、護衛でも採取の人手でも用意させるぞ。騎士団に」
「やった! 人手はなんとかなるから、護衛する人を用意して。ダンジョンの近くなら薬草たくさん残っているはずだから」
「よし、分かった」
なんだか、僕のポーション作りが大規模になってきた気がするんだけど。
どうなるのかな。
わくわく。




