第16話 帝国印のポーション
「なんだって、こんなに安いの?」
いままでずっと、薬草を仕入れてきたけど、こんな安い薬草は初めてだ。
だけど、安い物にはちゃんと訳があるんだよな。
「まぁ、いちおう薬草だっていうのは間違いないし。出している存在はよく分からないけど。まぁー、ダメ元で使ってみるか」
100本も買ってしまった薬草。
もしかしたら安物買いの銭失いってなるんじゃないか。
そんな恐れを持ちつつ、エッセンス抽出器にかけてみる。
「嘘!」
なんと、綺麗なグリーンのエッセンスが出てきた。
それも普通の2倍量はあるんじゃないか。
「これは相当上質な薬草みたいだぞ。なんでこんな薬草が格安で出せるんだ?」
理由は分からない。
だけど、もし、また出たらすぐに買わないと他の誰かが気づいたら絶対もっていってしまう。
「よし、気づかれる前に全量、取ってしまおう」
薬草購入のコマンドを送って一安心。
「あとは、また、出してくれるのを待つだけだ」
うん、薬草仕入れはオッケーだ。
次はちゃんとポーションに仕上げるだけだ。
帝国印の虎ブランドに恥じない物にしないといけない。
「全手順をしっかりとミスなく行うとしよう」
時間は掛かるが、それが一番確実だ。
こんなに質がいいエッセンスなのだから、ミスさえしなければ良質になるに違いない。
・・・・・
「うん、完成。鑑定をしてと。やった!」
ポーションの上にBって文字が浮かび上がっている。
鑑定結果がBランク。
いつも作っているのがC+だから、2つも品質が上だ。
「よし、明後日の定期納品は、こっちを使うおう」
すると、昨日まで作ってきたポーションが余るな。
うん、もしかしたら。
薬草を出してくれた人は、ポーションが欲しいのかもしれないな。
ポーションがたくさん出るように、上質の薬草を格安で出した。
そう考えるのが自然ではないか。
「まぁ、違うかもしれないけどな」
すべての色の中級までのポーションは出品してあるし。
グリーンポーションは多めに出しておいてもいいだろう。
納品前の物を全部、出してしまうことに決めた。
「まぁ、今日作ったポーションじゃないからC+だけどね」
薬草出した人は怒るかもね。
こんなに質のいい薬草が普通のポーションになったって。
ごめんなさい。
質がいいのは、納品に使いたいんだ。
今は勝負の時だから、あいつに負ける訳にはいなかいんだ。
そのためにはBランクのポーションは絶対に欲しいとこだからね。
☆ ☆ ☆
「うひょい! いいのかよ、こんな高い店」
「だって、この街で一番肉が美味いのはこなんだよね」
「そりゃ、そうだ。もちろん貴族区の店は知らないけど、市民がいける店でトップなのはこの店だって、みんな言ってるからな」
お店の情報ひとつにしても僕は全然知らない。
だから、ジョンに聞いたら、すぐに街の人に聞いて、この店だと教えてくれた。
ジョンって本当に行動的なんだよな。
「俺、本当に金ないからな。おごりだぞ」
「うん、大丈夫さ」
なんと言っても、時空収納には金貨が32枚も入っている。
さすがにそんなにしないよね。
「いらっしゃいませ……君たち、店を間違っていますよ」
「なんだって。この店が一番うまい肉を食べされるからって聞いてきたのに、違うっていうのかよ」
「それは正しいですね。この街の市民区でここよりうまい肉料理店はありませんから」
「じゃーいいんじゃん。席はどこでもいいのか?」
「そうではありません。君たちのような貧乏人が来る店じゃないって言ってるのです」
あ、ちゃ。
やっぱり、服をなんとかしないとマズかったのか。
「はぁ? どうして、俺達を貧乏人と決めつけるんだよ」
「そんなの、20年もウエイターをしている私の目にはすぐに分かるんです」
あー、やな感じ。
なんか、値踏みされたんだね。
「金くらい持ってきているさ。だから、お客だろう?」
「いいですか。この店の一番安い料理がいくらか知って言っているんですか?」
「いくらなんだ?」
「一番やすいのだって、銀貨2枚するんです。ふたりだと4枚ですよ。ほら、無理だと分かったら帰った帰った。邪魔だから」
ジョンが目くばせをしてきた。
お金を出すのが僕だから大丈夫なのかって。
よーし。
「あー、銀貨2枚かぁー、無理だね」
ジョンがびっくりしている。
ウエイターは薄ら笑いしている。
「そんな安い肉なんて喰うつもりないからさ」
「そーだよな。もっとうまいのがいいんだよな」
僕が切り返したら、ジョンがのせてきた。
このあたりの対応、ジョンはうまいんだよな。
「もっといい肉ですか。それでは、一番の肉料理を頼んだらどうですか!(怒)」
「それはいい案だね。いくらだい?」
「金貨1枚ですよ。それもひとりあたりです。ふたりなら金貨2枚です」
「じゃ、これで」
《スピダ》
時空収納から金貨2枚を取り出すと、弾いてウエイターに飛ばす。
「うわっ、金貨2枚! し、失礼しました!!」
こそこそとウエイターは逃げて行った。
代わりにボスが出てきた。
ダンジョンの魔物じゃないんだから、ボスが出てくる必要ある?
「うちの店員が失礼しました。特製骨付きステーキのコースですね」
「それが一番高いのだったら、それで」
「はい。それでは、一番いい席に案内させていただきます」
「「やったー」」
これで、うまい肉を食べられるぞ。
どんなにうまいんだろうか。
「あっ…」
「なに?」
「あなた達、伝説級マグロを獲った少年達じゃないですか」
「うん。えっ、なんで知っているの?」
「昨日のマグロ解体ショー、見にいきましてね。いやー、あのマグロの中トロすごくうまかったです」
なんだ。
昨日のショーをみてくれていたんだ。
僕とジョンも呼ばれて舞台にたったんだっけ。
マグロを獲った仲間ってことで。
「それじゃ、最高の肉料理をださないといけませんね。マグロも美味かったですが、うちの最上肉もうまいてんですよ」
「「うわっ、楽しみ」」
☆ ☆ ☆
「なんだ、この肉。肉汁がすごいぞ」
「おいしいっ。この骨の近くが一番おいしい」
「そうだな。しゃぶってしまおう」
「うん。それが一番だ」
もう、特製骨付きステーキがうますぎておどろいた。
でっかい肉だから嚙み切るの大変そうだったけど、一口食べらたびっくり。
驚くほど柔らかくて、肉汁がじゅわっと出てきて。うますぎ。
「どうですか? うちの一番の肉は」
「最高っ」「うますぎ」
「気に入ってもらえて、よかったです。あ、お客様が来たようです。ちょっと失礼します」
人気店なんだね。
それなのにボスがわざわざ挨拶に来たって、すごいことかも。
「あ、ガンシャさん!」
「おい、知り合いか?」
「うん」
手を大きく振ったら、向こうも気づいてくれた。
手を振り返してくれる。
ダンジョンで僕のレベリングをやってくれた冒険者さん。
あ、リーシャさんとメッシャさんもいる。
「よう、坊主。ずいぶんいい店に来てるじゃんか」
「うん」
「それもうまそうなのを喰っているな」
「うん、一番の肉だって」
「すると、ミノタウロスのドロップ肉か!」
「よくわかんないけど、うまいよ」
「それ高いだろう。金持ちだな」
「うん。臨時収入があったの」
「それはいいな」
そんな話をしていたら、一緒のテーブルで食べることに。
ガンシャさん達は真ん中の値段の肉を注文してた。
「なんだって。お前が噂のマグロを獲ったのか?」
「あ、ガンシャさん達も解体ショー見てくれたんだ」
「いや、昨日はダンジョン泊まりだったからな」
「そうなんだ」
「街にいたら絶対、見に行ってマグロを喰ったんだけどな。残念だ」
「で、こっちが一緒にマグロを獲った漁師のジョンだよ」
「おまえもか。まだ成人前なのに、すげーな」
「いやー。それほどでも……あるかな」
「なんだ、それ」
みんなで笑った。
で、今日はマグロのお祝いと残念でしたのセットの食事だって言ったら、残念はなんだって聞かれちゃった。
「それはな。シオンはすごいんだぞ。錬金術ができるんだ」
「なんだ、そうか! やっぱりな」
「えっ、知っていたのか?」
「いや。錬金術士だとはしらなかったが、レベルがすごく上がりづらくてな。特別のジョブじゃないのかと皆で話していてな」
「そうかー」
あ、レベルが上がらなかったのは、錬金術のせいだったのか。
なんか、安心した。
僕が変だった訳じゃないのね。
「だけど、ひどいんだぜ。せっかく作ったシオンのポーション。買い取ってくれなくて。それも勝手に売るのもダメだって。だから、残念食事会なんだよ」
「おい。それは聞き捨てならないな。シオンが作ったポーションがあるのかい。ちょっと見せて欲しいな」
「どう? シオン」
「うん、いいよ」
時空収納からではなく、バックからひとつ出した。
「時空収納持ちというのは秘密にしておけ」ってロジャーにも言われているしね。
「なんだ? このポーション。封印が虎だな」
「えっ、封印が虎だって? それって……」
「メッシャ、何か知っているのか?」
「まだ、パーティをくむ前、ソロで世界をまわっていた時、一度だけ虎封印のポーションを見たことがある。ちょっと見せてくれない」
「いいぞ、ほれ」
「うん、虎が飛び掛かる直前の姿。この封印を作れるのはたったひとつのとこ」
「どこだ?」
「帝国さ」
「「「「ええーーー」」」」
意味が分からない。
なんで、僕が錬金術で作ったポーションなのに、帝国製になるの?
どういうこと?
「おい、坊主。これ、どうやって作ったんだ?」
「どうやって、って。薬草を入れて、ポーションにして」
「そうじゃない。ポーションの中身のことじゃなくて、この封印紙のことだ」
「えっと、ポーション作ったら、ついてきたって感じかな」
「そんな錬金術ある訳ないだろう」
「えっ、錬金術って違うの?」
《ソルア》と《ソルダ》って、時空錬金のことだと思ったんだけど、違うのか。
じゃあ、なんだろう。
「ポーション作りの錬金術は薬草とかの素材を魔法を使って加工して、ポーションの液体を作るものだ。できあがったら瓶に入れて封印紙を貼る。そんな物だぞ」
「えっ、瓶も作らない?」
「作らんよ」
ますます分からなくなった。
どうしたらいいんだろう。
「まー、どうなっているかは不明だが、とにかく、坊主は帝国印のポーションを持っているってことだな」
「うん」
「じゃあ、こうしよう。そのポーション、俺が預かろう」
「えっ、いいけど」
「そして、ダンジョンの中で危険が少ないところで試すことにしよう。もし、効果がなくても大丈夫なようにな」
「うん。そうして」
「もし、効果があると分かったら、買うことにしよう。街の外でな」
「あ、それいいっ。な、シオン。そうしてもらおう」
「うん、ジョンもいいなら、そうしてね」
ポーションギルドの封印じゃないポーションを街で売ったら捕まる。
だけど、街の外だと関係ない。
さすが、ガンシャさんだなぁー。
冒険者やっているだけあって、頭がいいね。
結局、今もっているポーションすべて預けることにした。
「そうと決まれば、善は急げだ。明日、ダンジョン潜るぞ」
「まぁ、そうくると思ったわ。今回は休みなしってことで」
「まぁ、仕方ないね」
作ったポーションが利用されるって聞いてよかったなーと思う。
効果があるかどうかは心配だけど、いい感じに進んでいるみたいだね。




