第15話 パープルポーション量産化計画
「おーい、シオン!」
さすがに疲れて宿に帰ったらベッドに横たわった瞬間にバタンキュー。
陽が登ったのに、目が覚めなかった。
気が付いたらのジョンの声が下からしてくる。
「おー。今、行く」
服を脱がずに寝てしまっていたから、ちょっとだけ皴を伸ばしてから階段を降りた。
「おはよー」
「おはよって、遅いよ。もう昼前だぞ」
確かに太陽はずいぶん上の方にある。
朝って感じじゃなくなっている。
「で、どうしたの?」
「どうしたじゃないだろう。パープルポーションだよ、パープル」
「あ、そういえば」
ジョンとパープルポーションを錬金しようって話していたら、マグロ獲りの話になって解体ショーになった。
忘れてた。
「ちゃんと手筈は整えておいたから。もう少ししたら、薬草が集まってくるよ」
「へぇ。どうやったの?」
「チビ達を集めて、薬草取りの指示を出したのさ」
「えっ。でも、この街には知り合いいないでしょ」
「そんなの簡単さ。俺達より3つも下のチビ達なら、ちょっとした金で簡単なことならやらせるはできるさ」
ジョンは元々、ガキ大将だったみたいで、自分より下の子供をうまく使うのが得意だそうだ。
もっとも、チビ達を働かせるために、ずいぶんと散財したみたい。
「銅貨3枚の屋台飯を10人分だぞ。大銅貨3枚。昨日親方にもらった金をずいぶん使っちまったよ」
「あ、親方からいくらもらったの?」
「銀貨1枚だぜ。すごいだろう」
「えっ、それだけ?」
「それだけって……シオンはいくらもらったんだ?」
「あー、金貨をもらったよ」
「ええーーー」
金貨を32枚なんだけど、金貨をもらったのは嘘じゃないよね。
あんまり大金の話をすると、ジョンの頭がぶっ飛びそうだから。
「いいなー。でも、大丈夫だぞ。俺だって、シオンがパープルポーションを作ってくれれば、金貨だって夢じゃない」
「「「「「ボーーース、薬草もってきたぁーーー」」」」」
チビ達が10人ほどやってきた。
そのうち3人は籠を背負っている。
「おー、よくやった。こっちへもってこい」
「うん」
ずいぶんと手なずけているなぁー。
男の子が6人に女の子4人か。
「がんばったんだよーー」
「うん、すごいぞ。よくやった」
「えへへへ」
たぶん、ここらのガキ大将なんだろう。
一番背が高くてがっちりしている子が報告してる。
まぁー、それでも僕の方が背は高いんだけどね。
「これだけ薬草あれば、パープルポーション3つくらいできるだろ」
「うん、大丈夫だと思う。ちょっと待っててね」
まずは、薬草をしまおう。
《スピア》
「うわっ、薬草がなくなっちゃった。どこ行ったの?」
「えーーん。がんぱって集めたのにぃーーー」
「あ、大丈夫。魔法で仕舞ったから。ちゃんとあるよ」
「すげーー、そんなことできるんだーーー、すげーーー」
うん。僕の魔法はすごいんだよ。
ラバなんか、目じゃないんだから。
「じゃ、15分待っててね。作ってみるから」
「おう、頼んだぞ」
部屋に戻ったら、まずは薬草のチェックだ。
薬草じゃないのも混じっていたみたいで、薬草が321本で、雑草が54本だって。
最近、時空収納に何が入っているのか分かるようになった。
前はなんか入っている、みたいな感じだったのにね。
「よし、次は奥に仕舞わないとね」
《ソルア》
よし、全部薬草が奥に行った。
これだけあれば、パープルポーションは錬金できるだろう。
パープルポーションをイメージして。
《ソルダ》
《「アイテムがありません」》
えっ、なんで?
薬草321本も入れたのに、1本もできないの?
もう一回だ。
《ソルダ》
《「アイテムがありません」》
うわっ、どうして?
前はできたのに。
ヤバイ。なぜかできない。
せっかくチビ達が薬草集めてくれたのに、どうしよう。
なんか、方法はないか。
どうしたら、パープルポーションができるのか?
うーん、どうしたら? うーん。
「あっ」
思いついた。
パープルポーションがダメなら、普通のポーションはどうなんだろう。
別にエレンのお母さんの病気を治す訳じゃないから、パープルポーションじゃなくてもいいんじゃないか。
今度は普通のポーション。
怪我とかを直すグリーンポーションを作ってみよう。
こっちの方が普通に売っている物だから、作るの簡単なはず。
グリーンポーションをイメージして。
《ソルダ》
やった、成功だ。
グリーンポーションが1本、時空収納に入っている。
だけど、グリーンポーションだと値段が銀貨1枚くらいだから、ショボいな。
もっと作れないかな。
《ソルダ》
おー、今度は一気に5本できた。
時空収納に6本になった。
もっとだ。
《ソルダ》
おおーー、まだ増える。
どこまで増えるかやってみよう。
・・・・
《「クレジットが足りません」》
ふうっ。
43本もできた。
これなら、いいだろう。
☆ ☆ ☆
「できたぞーーー」
「やったな、シオン」
「だけど、パープルポーションじゃない」
「えっ、どういうことだ?」
「普通のグリーンポーションだ。パープルのはなぜかできなかったよ」
「うーん、グリーンか。グリーンだと安いんだよな」
「それはどうかな」
ジョンとチビ達10人が見ている前でポーションを取り出してみた。
《スピダ》
ずらっと43本、グリーンポーションが並んだ。
「「「「「「おおおおーーーーー」」」」」」
うん、実際に取り出してみるとすごい数。
楽しいな。
「これだけあれば金貨5枚くらいになるんじゃないかっ」
「そうかもね。だけど、どうやってこれを売るの?」
「そんなの道具屋に買い取ってもらえぱいいじゃん。いろんなポーション売っているんだから買い取りもしてるでしょう」
「あ、そうか」
「お前らにもちゃんと分け前やるからな、これが売れたらひとり大銅貨3枚だ」
「「「「「おーーーー」」」」」
☆ ☆ ☆
「これは買い取りできないな」
「なんだって! なんでだよ!!」
「いいかい、坊主。ポーションというのはな、冒険者の命に関わる物なんだぞ。訳も分からない子供から買い取りできるはずはないだろう」
「だけど、このポーションは本物だぞ。俺の母ちゃんが直ったんだぞ」
「仮にだ。それが本当だとしても駄目だな。これはこの店だけじゅないんだ。少なくてもこの街のポーションを扱っているすべての店では、ポーションギルドの保証がないポーションは売ることはできないんだ」
「ぐぐぐ」
そうなのか。そんなルールがあったのか。
チビ達ががっかりしている顔は可哀そうだけど、ルールがあるんじゃしょうがないなぁ。
「おい坊主。露天市場で売ろうとか、冒険者に声をかけて売れろうとか考えているんじゃないか?」
「む。バレたか。店が買い取りしないんなら、自分で売るまでだろう。割引したら売れるよな。なんていっても、この街はダンジョンがある街なんだから」
「そう、ダンジョンがある街だからこそ、ちゃんと保証がないポーションを売る奴は、冒険者を危険にするからな。すぐに捕まって強制労働場送りだぞ」
「なんだって」
うーん、確かにそうだろうなぁ。
このポーションがちゃんと効果があるかどうかが分からないんじゃ、危険があるのは間違いないなぁ。
そもそも売っていることをタレこまれたら、どうしようもないな。
☆ ☆ ☆
「ごめん」
「駄目なの? 薬草、役に立たないの? お小遣いもらえないの?」
「ごめん、俺がバカだった。ちゃんと調べないでお前たちを巻き込んでしまって」
「ううん、いいよ。どうせ、暇だったし。おごってもらったし」
「今日のところは、解散ってことで。すまない」
「うん。また、なんかあったら呼びに来て。次はうまくやろうね」
「おう」
うーん、ジョンはしっかりしているな。
僕だったら、無理だなー、こういう時。
頭が真っ白になってしまうしな。
チビ達はしょんぽりして帰って行った。
「シオンもごめん。せっかくポーション作ってくれたのに」
「いや、僕には謝んなくていいよ。僕とジョンのために考えてくれたんだよね。うまくいかなくても、しかたないよ。初めてのことだし」
「そう言ってくれると……助かる」
「気にするなって」
まぁ、ポーションが売れなかったのは残念だけど、お金はたんまりあるし。
がんばってポーション売らなくてもいいかなってちょっと思っちゃった。
「じゃ、気分転換に飯でも喰いにいくか」
「あー、ごめん。俺、金あんまりなくなっちゃった。チビ達におごったから」
「大丈夫さ。僕はまだあるから、おごるよ」
「いいのか、シオン」
「よし、いくぞ。美味い物と言えば」
「言えば?」
「肉だ! 肉を喰いにいくぞ」
「おー、肉か! 肉、肉!」
「いこうーーー」
うん、お金があるっていいな。
うまくいかなくても、楽しくできるしね。




