1人の姫が創るもう1つの世界
こんにちは。月影呼宵です。
このお話は決められた結末を変えるために奮闘するお姫様とその取り巻きたちを描いていこうと思っています。
おとぎ話の世界では決められた結末に沿って物語りが進んでゆく。
そんな中運命に抗おうとする1人の姫がいた。
「黒雪姫、もうそろそろで式が始まります。」
黒の正装に身を包んだ少年が双眼鏡から目を離し、後ろにいる人物を振り返る。
「ええ、わかっているわ。白雪が大勢の前で苦しむ様子が楽しみね。」
黒雪姫と呼ばれた人物はギラギラと目を光らせながら、国民の前に立ち微笑を浮かべる次期王妃候補に目を向けた。
白雪姫と黒雪姫ーこの2人は母違いの姫であり、王の寵愛を多く受けていた母の子供である白雪が次期候補として育てられた。一方この国では王と王妃、次期候補以外は王族としての権威を持たない。そのため黒雪は使用人と変わらぬ扱いを受けて育ってきた。
黒雪姫が次期王妃になるという未来は白雪姫が存在する以上変えることができない。
しかし、もし白雪姫が死んだとしたら?王家の顔に泥を塗るような失態を犯したとしたら?その権限は王の血をひく黒雪姫に与えられるだろう。
そして今日は王国建国の記念式典の日ー。黒雪姫は白雪姫を陥れるためにある罠を仕掛けていた。
そしてその様子を見るために、離れた展望台から双眼鏡を覗き込んでいた。
「それにしてもスープに解毒剤って、やり方が姫とは思えませんね。」
黒雪姫に協力をしている使用人の少年があきれたような口調で言う。
「う、うるさいわね。他に国民の前で恥じをかかせる方法が思いつかなかったのよっ」
「はぁ、、。しかし白雪姫がいなくなればいいのですから、手っ取り早く解毒剤ではなく、毒薬を混ぜて殺してしまえばいいのではないでしょうか。」
「そんなことをしたら真っ先に次期候補になる私が疑われるでしょうがっっ!白雪は国民からの支持も高いし表向きの顔はいいのよ、、」
やり方が回りくどく、相手への悪口にも勢いがないところが彼女らしいと思い少年は苦笑する。
「まぁ、性格では断然白雪姫様のほうが上ですからね。」
「ふんっ、好きに言うといいわ。この日のためにコック1人の雑用を一週間変わってあげたんだから。あのコックちゃんとやったんでしょうね。」
「こればかりは、信じるしかありませんね。」
「本当なら私の手で確実に入れたかったんだけど、、」
「仕方ありませんよ。キッチンはコック以外立ち入り禁止なんですから。心配要りませんよ。あのコックは約束は守ります。」
「そうよね。うん、大丈夫よ。」
少年の言葉に元気づけられ、黒雪姫もまた自信を取り戻していった。
「遅いわね」 「遅いですね」
式は終わりの時間に近づいてきている。しかしながら、白雪姫は余裕の表情で国民に手を振っていた。
「もう飲んでから大分時間が経ちますが、姫が手に入れた解毒剤は本当に効き目があるのでしょうか。」
「間違いないわ、だいぶ高かったけどその分効果があるって言っていたもの。」
「ちなみにいくらですか?」
「10万ペルよ」
「、、、」
「どうしたのよ?」
「姫、それは多分だまされています。」
「そ、そんなはずはないわ。」
「いえ、だまされています。」
「きっと我慢しているのよ、今に苦しみだしてトイレに駆け込むわ。」
「今回は諦めましょう。」
少年の言葉がが終わる前に、黒雪姫は泣き出していた。
「いやよ、今日が失敗したらこれで10回目なのよ。いつもいつも失敗ばかり。やってられないわ。」黒雪姫が泣きながら展望台の階段を駆け下りていく姿に少年は大きな溜息をついた。
黒雪姫の作戦は毎回何らかの形で失敗してしまう。それは白雪姫が王妃となるこの世界の運命を形作っているようにも思えた。黒雪姫はこの運命を変えたいと本気で願っている。そのやり方は少々変わっているが、少年は嫌いではなかった。
(また新しい作戦を思いついた時は手伝わさせるだろうな)
少年はまた溜息をついた。あきれと笑いが混じったような溜息だった。
ちなみにその後、解毒剤を売った店は姿を消し、解毒剤の中身は少年が飲んで水であることが分かった。