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第2話「巡回騎士」 1

「え?こんなに貰っていいんですか?」

「ああ、君が居なければ我々は全滅していた。まさかMAが居るとは思わなかったし、それを考えれば少ないくらいだ」

あれから数日、アルスは先日の山賊退治の報酬を受け取りに役所を訪れていた。

本来の傭兵料とは別の特別報酬でそれなりの金額を受け取る事が出来たのだ。

「いえまあ、そういうなら」

「しかし、君も人が悪いぞ?ライダー・ナイトと知っていれば対応も違ったのだが」

「いや、俺も初めての実戦で」

トーションは少し意地の悪い視線を向けるとアルスは困ったようだ。

「暫くはこの街に居るんだろう?もし何かあったら仕事を頼むかもしれん。国境警備や遠征などで常にライダー・ナイトは足りていない、宜しくな」

「はい」

アルスは報酬を受け取るとベンのところへ向かった。


リリウムの調整代を賄うにはまだ足りないがベンは返済は分割で良いし、急がなくても良いとの事なので報酬の半分を返済に回して残りは町での生活を整える資金に回す事にした。

あの戦いの後はとにかく大変だった…。

トーションや傭兵たちには色んな事を聞かれるし、シヴュラを初めて見る人間も多かったのでリリウムは視線を釘付けにしてしまった。

役所では半ば尋問のように色々調べられて凄く不快だったがトーションが間に入ってくれた事でやっと解放されたのだ。

借金の返済もあるので、とりあえず暫くはこの街を中心に活動する事に決めたのだ。


宿に関してはベンの紹介で知人のやっている宿屋を教えて貰った。

レジーナさんという30代後半くらいのおばさんが経営していて、どうやら数年前に夫に先立れてから一人でやっているらしい。

宿の名前は「星の丘亭」、亡くなった旦那さんが着けたようだ。

位置的には少し街外れだが交通に関してはそれ程悪くない場所で、大きくはないが綺麗な建物だ。

ベンの紹介という事で少し安くして貰って長期滞在する事になったのだ。

レジーナさんは快活な人で夫を亡くしてるとは思えないような明るい雰囲気だ、年若いアルスや少女の姿をしているリリウムを見ると子供でも居ればこれくらいの年かもしれないと笑っていた。

土地の地下に温泉が湧いているらしく、それを未だに動いている大昔の機械が汲み上げているので一日中お湯に入れるのが密かな自慢らしい。


宿が決まったので今はリリウムの新しい服を買いに来ている。

今の服はあまりにもボロボロで可哀そうだし、奇異の視線に晒されるのでお互いにいたたまれない。

シヴュラ服の専門店「プリティーチャイム」…この街では唯一の専門店らしい。

外観は派手というか毒々しいと言うべきだろうか、ピンクやハートの装飾が沢山されている。

恐る恐る入ってみると中にはまた派手な衣装が沢山並べられていた。

見慣れないアルスは眼がチカチカして入店数秒で既に疲れてしまった。

すると店の店主がこちらに気づいたのか早足で近づいてきた。

「はぁ~い、いらっしゃいませぇ~…やーん!何て綺麗なシヴュラちゃんなのぉ!!!ねぇねぇお名前は???」

「はい、リリウムと申します」

店主らしい店内で一番派手な格好の女性はアルスには目もくれずリリウムに一直線に向かいなにやら質問したり手を握ったりしている。

黒とピンクとしましまが多用された服は見ているだけで目が疲れる。

化生もとても濃く、年齢は20歳は超えていそうだが…。

「まぁっ!!!なんてボロボロの服!酷いマスターに虐められているのね!!許せないわ!きっと甲斐性無しのダメマスターに違いないわね!!!」

店主は一人で解釈して一人で怒っているようだ。

「あ、あの…この子の服を」

「きゃっ!!現れたわね!甲斐性無しの変態鬼畜マスター!」

恐らくアルスなど眼中に無かったのかこちらを見た店主は謎の敵意を向けてきた。

アルスはダメマスター、変態などと言われて色々言い返したくなってきた。

「あの、だから服を」

「可哀そうに若い男に騙されたのね、分かる分かるわよ!!あたしだっていっつも男に騙されるの!優しいのは最初だけなんだから!!!」

店主はリリウムに勝手に同情して勝手にシンパシーを感じているようだ。

「いやだから服を…」

アルスは今すぐに帰りたい気分だが服を買わない訳にもいかない。

「すみません、私は虐待などはされていませんよ。服が古くなってしまったので新しい物を頂きたいのです。見繕って頂けますか?」

「はぁ~~~い分かりましたぁ!リリウムちゃんにとびきり似合うのを選んであげるからね!!あ、あたしはプリシーラって言うの親しみを込めてプリンって呼んでね!!」

「あの、じゃあプリンさん、出来ればあんまり派手じゃないのを…」

「あんたに言ったんじゃないのよ、クソガキ!」

リリウムに向けるのとは正反対のキレ顔で返されてしまった。

「帰りてぇ」

思ったことがそのまま口から出た。


そこからは早着替えのファッションショーが始まってしまったようだ。

最初のはショッキングピンクの良く分からないがド派手な衣装で却下。

次に出て来たのはもこもこが沢山着いた羊か山羊のような服で却下。

次のは黒のピチピチのボンテージのような服でそれこそ変態呼ばわりされそうなので却下した。

次は男性的なスーツファッションだが肩パッドが入り過ぎて何かがおかしいので却下。

次のは最早危ないお店としか思えないうさぎの耳が着いた露出の多い服で、リリウムの大きな胸がこれでもかと強調されるのでこれも却下した。

「何よあんた!文句ばっかりじゃない!服選ぶ気あるの???」

「もっと普通の出してくれって言ってるでしょうが!!」

流石に怒鳴られたので勢いで怒鳴り返してしまった。


次に出てきたのは白をベースに青や黄色のラインの入った上品なデザインだった。

細身のシルエットにロングスカートが合わさってリリウムの雰囲気に合っているように思える。

どうやら伝統的なシヴュラ衣装を踏襲しつつアレンジしたものらしい。

「如何でしょう?マスター?」

「うん、これがいいんじゃないかな。というかこれしか良いのが無い」

「えー?地味じゃない?もっとフリルとかリボンとか」

「いや、そういうのいいので」

「マスターもそう言っていますし、私も気に入りました。こちらでお願い出来ますか」

「まあ、リリウムちゃんがそれでいいって言うならいいですけどぉ~」

店主プリシーラは露骨につまらなさそうだ。

「はい、これお代」

値段を教えて貰うと驚愕した。

「(高い…)」

服としては凄い値段だ、普通なら買えないが報酬のおかげで手持ちはあるしリリウムには必要なものなので黙って払う事にした。

「ふふふ、ありがとうございますマスター、新しい服嬉しいです」

笑い掛けてくれるリリウムを見ると高い買い物だが悪い気はしなかった。

「こちらの服はプリンさんが?」

「そうよぉ~あたしのお手製、シヴュラの服は命を掛ける服ですもの、戦って散る事になったら人生最後の服なのよ、せめて素敵な服を着て貰いたいわよね」

プリシーラは会計処理をしながらそう呟いた。

「それじゃリリウムちゃん用に服を調整するからあんたは1時間くらいどっか行ってなさい、というか邪魔よ金払ったならとっとと出てけ!」

プリシーラはアルスの背中を押すと店の外に放り出して扉を力強く閉めてしまった。

ドアの隙間から見えたリリウムは困ったように笑っていた。

「…はぁ~、帰りたい」

アルスはこの店に居た時間でどっと疲れてしまいふらふらと歩き出した。

ある程度、書き溜めが出来ました。

ゆっくり投稿したいと思います。

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