第3話「シヴュラとマスター」 2
「ふふふ、話は聞かせて貰った」
声掛けにそちらを向くといつから居たのかルーテシアがドアに背中を預けてこちらを見ていた。
「ルーテシア、見回りは終わったの?」
「今帰ってきたところだ、そして話は聞かせて貰ったぞ」
ルーテシアはリリウムの部屋に入るとスーも続いて後ろから入ってきた。
「ようは国境付近に出る賊を退治するのだろう?ならばわたしの出番という訳だ」
「でもいいのか?ルーテシアはオースティンの人だからその外交っていうの?」
アルスは政治的な事は分からないが不都合がありそうな気がした。
「案ずるな、今の私は巡回騎士だ。その任務は国の縛りなく民の生活を脅かす輩を成敗する事…問題は無い」
そう言うルーテシアからスーに視線を向けた。
「はい、ルーの言うように問題は無いと思います。アルス様の立場はあくまで委託を受けた傭兵ですし、我々もジグムント帝国の為に働く訳ではありません。民に理不尽な戦火が及ばない為です」
「無論、祖国オースティンに害が及ぶことは出来んがな、まあそんな事はあるまい」
スーも問題が無いと言っているし大丈夫なのだろう。
「そっか、それなら心強いよ」
「ふむ、任せるがいい」
「報酬はどれくらい払えばいいかな?」
「必要無い、金の為にやるのではないからな」
「いや、それは…」
彼女は報酬は要らないようだがアルスとしては流石に気が引けた。
「それなら、仕事が終わったらルーと食事でもして下さいアルス様」
「んなっ!」
スーがそう提案してきた、つまりは食事を奢れという事だろう。
それを聞いたルーテシアは驚いて固まっている。
「お、おいっ!スー!勝手な話をするな!!」
「リリウムもそれで構いませんか?」
「マスターの言う事を聞け!」
ルーテシアが赤くなって怒るのをスーは笑顔で流して話を進める。
「ええ、構わないわスー。マスターが良いと言うのならだけど」
リリウムも納得しているようだ。
「えっと、それじゃ食事でいいのかな?」
「か、勝手に話を決めるなお前達!」
「じゃあ、食事以外で」
「嫌とは言ってないだろう!!それでいい!食事に行ってやる!だがこのわたしを連れて行くのだからちゃんとした店を選べ!いいな!!!」
ルーテシアも怒りながらだが納得したようだ。
とはいえ店など知らないので調べなければならない。
「ふふふ、羨ましいですね。マスター?私も別の日で構いませんのでどこかへ連れて行って下さい」
リリウムの言葉が意外だったのかルーが反応した。
「意外です。私たちシヴュラは本来食事を必要としないのに」
スーには落ち着いていて合理的なリリウムが不合理な事を望むのが腑に落ちなかったようだ。
「え?シヴュラってご飯要らないのか?」
アルスは初めて知った事実にかなり驚いていた。
というのもリリウムとは今まで一緒に食事をした事が何回もあるからだ。
「はい、黙っていて申し訳ありません。実は私、食べるというのが好きなんです」
リリウムは少し困った顔でそう言った。
「シヴュラはエネルギーセルという物を定期的に補給すれば食事を必要としません。しかし、食事をする機能は備わっています…味覚で感じる刺激と言うのでしょうか?それはとても充実感があります」
つまり美味しい物を食べるのが好きという事だろう。
「そうだったのか」
「味覚から伝わる刺激もそうなのですが、特にマスターと一緒にする食事は幸福感があるのです。私にとっては精神にとても良い影響があると感じています」
そう言われると食事中の彼女は何だか嬉しそうな事が多かったように思える。
レジーナさんの料理もそうだし、具の無いパンだけでさえそうだったかもしれない。
「そっか、ならこれからも沢山食べないとな」
「よろしいでしょうか?」
「そこまで言われて駄目って言うような悪魔じゃない」
まあ、どこかの服屋には変態鬼畜の悪魔マスターなどと言われているが…。
「うむむ…」
それを何だか微妙に気に入らない顔でルーテシアは見ていた。
これだけ恥ずかしい思いをした食事の約束の価値が下がった気がしてならないのだ。
「頑張って下さいね、ルー」
「な、何の話だ!!?」
スーは困ったような意地悪なようでもある顔でそう言った。




