第3話「シヴュラとマスター」 1
第3話「シヴュラとマスター」
その日、アルスはトーションに呼ばれて役所を訪れていた。
なんでも頼みたいことがあるらしい。
部屋で待っているとトーションが入ってきた。
「やあ、アルス君。呼び出してすまんね」
「大丈夫ですよ、それで話って?」
「うむ、それなんだがね」
トーションは椅子に座ると話を始めた。
曰く、隣国との国境付近で不審な動きがあるらしい。
このシュヴァルツェンベルク領は帝国の隣国であるベラージと国境を接していて、そこは険しい山岳地帯になっているようだ。
その国境付近で不審なMAが複数回目撃されたとの情報入ってきたと言うのだ。
「でも、それって正規軍とか騎士団の仕事じゃないんですか?」
「確かにね、だがそうもいかんのだ」
ベラージは小国だがルッツ連邦と関係が深く、下手に正規軍を国境まで動かせば問題が起きかねない。
領主である侯爵はそこで問題が起きる事を望んでおらず、内々に解決を図りたいらしいのだ。
「正規の軍や騎士は動けないので俺に調べてこいってことですか?」
「そうだ、調査及び場合によってはその排除をして貰いたい」
「うーん…」
アルスは正直あまり乗り気ではない。
きな臭いし国の為に戦うというのに気が進まない。
「報酬は弾む、前金も渡そう。どこも人材不足であるし、最近の活躍が目覚ましい君に是非頼みたいのだ」
トーションは相当困っているようだ。
「分かりました。お金は大事なので」
「そうか…助かる!」
高額な報酬もあってアルスはトーションの依頼を許諾した。
帰っていくアルスを窓から見ながらトーションは薄い溜息を吐くと口を開いた。
「これで良かったですか?」
すると扉が開いて男が入ってきた。
「上出来ですよ、トーション武官。まあ、前金ありの高報酬ですからね」
その男は領主に仕える青年、ヨハン・バルツァーであった。
「しかし、彼に何をさせようと言うのです?領主様のご意向という話ですが」
「トーション殿、貴官は貴官の職務を行って頂ければ良いのです…管轄を守る、それが役人の仕事の在り方かと思いますが?」
ヨハンは顔は笑っているが眼は笑っていない、踏み込むなという事だろう。
「…分かりました。老婆心ながらバルツァー卿も無茶をなさらぬように」
「お気遣い痛み入る、では後はこちらで進めます」
ヨハンは踵を返すと扉を開けて出て行った。
「ヨハン・バルツァー…侯爵閣下の側近と聞くが何を考えているのか」
トーションは小さくと呟いた。
アルスは宿に戻るとリリウムの部屋を訪れていた。
自分のシヴュラとは言え女の子の部屋を訪れるのは妙に緊張する。
「リリウム、いいかな?」
部屋をノックしながらそう呟くとドアが開いてリリウムが顔を出した。
彼女はアルスを部屋に招き入れた。
「おかえりなさいマスター、どんなお話でしたか?」
「それなんだけど、仕事の依頼でさ。まあ、受ける事にしたんだ」
「そうですか、マスターがお決めになった事でしたら私は従います。それでどのようなご依頼ですか?」
「うん、ちょっと怪しいんだけど」
アルスは聞いた依頼内容をリリウムに説明した。
彼女はそれを表情を変えずに真剣に聞いている。
「成る程、確かに妙な点はありますね」
「うん、そこがちょっと気になるけど報酬が良いからね、借金もあるし」
「申し訳ありません。私のせいですね」
「いいや!そういう意味で言ったんじゃないけどさ!ベンさんをあんまり待たせるのも悪いし」
「そうですね、では依頼を頑張りましょう」
リリウムはそう言うといつもの柔らかい笑みを浮かべた。




