第2話「巡回騎士」 12
テロリストの引き渡しと事情説明の為にアルス達は役所を訪れていた。
「という訳で、泥棒を追っていたらテロリストどもを見つけて成敗したのだ」
ルーテシアはざっくりとしているが状況を役人に説明した。
雑な説明ではあるがそれを加味しても役人は面倒臭そうな態度だ。
「あーはいはい」
何ともやる気の無い態度は見ていて気分が悪い。
「いえねーこちらとしてもありがたいんですがねぇ、と言ってもこっちにも都合とか手続きってのがあるんですよねぇ」
仕事を増やされたからなのか嫌味のような言い方だ。
「わざわざオースティン公国の貴族殿にこんな地方都市で働いて頂かなくてもこちらで対応したのですが…ねぇ」
ルーテシアは不快そうだが思う所があるのか態度には出さないように努めている。
「それに巡回騎士って言われても、勝手な事されちゃどこでも迷惑を」
「おい」
我慢が出来なかったのかアルスは声を上げた。
「それは無いだろう?彼女が見つけてなかったら今頃街でMAが大暴れしてたんだぞ」
「いや、それはこちらの警備隊が」
「そんな訳あるか!どっちにしたって街中で戦闘になってるだろう!」
「まあ、そうかもしませんがね」
「あんた言ってること分かってるのか?街で戦いになったら沢山の人が死ぬかもしれないんだぞ!」
アルスが激怒して立ち上がるとルーテシアはそれを諫めた。
「もういいアルス、ともかく犯人は引き渡すし、取り調べも頼みたいのだが?」
「ええまあ…」
これ以上は揉めたくないのか役人も何も言わなかった。
部屋を出るとトーションが待っていた。
「いやすまんな、どうにも役人と言うのは横柄でな」
「トーションさん、あれは無いと思いますよ?どう考えたって連中の計画が実行されたら大きな被害が出た」
「否定は出来ん、無論警備隊も全力で対処はするが」
「だとしても被害は出ましたよ、きっと」
アルスは納得が出来ず食い下がる。
「トーション武官、ではわたしはこれで失礼させて頂く。以後はお任せしてよろしいか?」
「ええ、尋問は私が責任を持ってさせて頂くつもりです。少ないですが謝礼も出させて頂きます」
「わたしは必要ない、この男にやってくれ」
「はっ!」
そう言うとルーテシアは廊下を歩いて行き、アルスはそれを小走りに追った。
ロビーのベンチでリリウムとスーが待っており、合流して役所を出た。
「せっかく大事件を未然に防いだのにこれじゃ納得出来ないな」
アルスはやはり気に入らないのかそう零した。
「良いんだ、確かに巡回騎士というのは役職だけで働かない者も多い。だが、偽り無くそこに権限は存在しているのだ」
ルーテシアは振り返るとアルスを見た。
「例え歓迎されずとも認められなくともわたしはこの職と使命を与えてくれた公国に感謝している。その使命を全うする事がわたしの誇りなのだ」
彼女の瞳は真っ直ぐで強い意志があった。
その力強さにアルスは少しの憧れを感じ、視線を逸らさずに見つめた。
迷いなく使命を果たそうとする彼女の薄青の瞳は純粋に美しかった。
「それにな、それを認めて力を貸してくれる者も居る。それだけで充分だ」
ルーテシアはそういうと照れ臭そうに横を向いた。
「?」
アルスは良く分からなかったのか呆けた顔をした。
「その、まあ、そのだな…嬉しかったというか、心細くて困っていたというか」
先ほどの自信はどこへ行ったのかルーテシアはぼそぼそと小さい声になってしまった。
「オホン!そんな事より!腹が減ったから食事に行くぞ!!」
ルーテシアはアルスの腕を掴むと昼間のように引きずって行く。
「お、おい!引っ張るな」
その様子をリリウムとスーの二人のシヴュラは微笑ましく見つめて着いて行った。