第2話「巡回騎士」 10
イブリスはもう一体のファング・ドッグと斬り合っていた。
武器はどちらもエネルギーブレード、刀身に重量が無く軽いので扱いやすく、MAの装甲を切断するのに充分な威力があるので広く採用される標準的な武装だ。
お互いに決め手を欠いており暫く膠着状態が続いている。
「マスター、仕切り直しましょう。一度、距離を取って下さい」
リリウムの助言を聞き、アルスは牽制すると後ろに飛んで距離を取った。
「どうしたらいい?」
「実体剣に切り替えます。武器の特性を知る良い機会です」
するとエネルギーブレードの発生器の実体化が解除され代わりに実体を持つ長剣が握られた。
「うわっ!」
右手に現れた実体剣の重量にバランスが傾きイブリスがよろける。
「実体剣は重量があるので取り回しはエネルギーブレードとは異なります。こちらでも補正しますが感覚に慣れて下さい」
「お、おう!」
アルスは機体を立て直すと敵に向かって行く。
「戦いながら武装を変えた?ちっ!相当な高性能機か」
敵MAは武器を構えてアルスに向かう。
「たあ!」
剣を振るうアルスだが実体剣は重量がある分、振りが遅く思ったように扱う事が出来ず攻撃を当てる事が出来ない。
「未熟な!」
大振りした所に敵の蹴りが入ってイブリスがよろけた。
「ぐぅ!」
「マスター、武器に振り回されないで!普段使っている剣の感覚を思い出して下さい」
「そうは言っても」
「貰ったぁ!」
集中力を欠いたアルスにファング・ドッグが斬り掛かる。
「っ!」
何とか反応して横薙ぎを躱したが後ろに過重が掛かり過ぎて転倒しそうになったイブリスはアルスの意志を正確に読み取り、倒れながら左手を地面に着いて一回転して着地した。
機体の優れた柔軟性が無ければ出来ない芸当だろう。
イブリスの胸部はエネルギーブレードが掠ったのだろうか少し赤熱していた。
「少し掠めたようですが損害はありません。大丈夫です」
「はぁはぁ…」
思ったように進まない戦いにアルスは焦りと苛立ちを感じていた。
「マスター、大丈夫です。この子と私とマスターなら勝てます」
リリウムの落ち着いた声でアルスは冷静さを取り戻す。
「(生身で使っている剣のように…)」
アルスは機体から伝わる感覚に集中する。
実際に体で剣を扱うようにイブリスを動かすのだ。
「ちっ!今度こそ!!」
ファング・ドッグはエネルギーブレードで突きの構えを取りながら突撃した。
それをイブリスは剣を正面に構えて迎え撃つ。
「串刺しだ!」
勢い良く突き出されたエネルギーブレードをギリギリで回避するとイブリスは剣を素早く下から切り上げるように振ってそれを弾き飛ばした。
「なにっ!」
急に素早くなった剣で武器と落とされた男は焦りの声を上げた。
「てやぁあああ!!!」
アルスはこの期を逃すまいと声を上げながらイブリスをジャンプで飛び上がらせ落下の勢いも利用して斬り掛かった。
「くっそっ!」
ファング・ドッグは予備だろうもう一本のエネルギーブレードを構えてイブリスの剣を受けるつもりだ。
だが、落下と共に叩き付けられた実体剣はエネルギーブレードごと切断してファング・ドッグの頭に直撃し、そのまま胸部のコアブロックまで破壊した。
これでは中のライダー・ナイトもシヴュラも即死であり、急速に実体化が解けたファング・ドッグは消滅した。
「はぁはぁ…」
アルスは肩で息をしながらも何とか勝利した。
「お疲れ様です。マスター、実体剣は取り回しに慣れが必要ですがこのようにエネルギーブレードそのものを断ち切って攻撃する事も可能です。状況に応じて使い分けましょう」
リリウムはアルスに微笑み掛けた。




