表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/22

第1話 「少年少女」 1


かつて繁栄を極めた超文明はその力を持って大戦争を引き起こした。


発達した技術は兵器に用いられ想像を絶する破壊をもたらした…。


破壊の果てに人も文明も衰退し皮肉にも世界は平穏を取り戻す。


それから数百年………。


人類は復興し、人々はかつての大破壊など知らずに生きている。


しかし、人間は争う事を止められないものだった。


乱立した国家は再び戦争を始め土地を、利権を、野心を、名誉を巡って戦い合う。


旧文明の遺産…超兵器「マテリアル・アーマー」を生み出す人型生体アンドロイド「シヴュラ」とそれを操る人間「ライダー・ナイト」


その人智を超えた力によって行われる戦いに人々は恐怖した…。


ここはミッドランド大陸、人類の過ちから立ち直った土地で未だに人間は戦いを続けている。



第1話「少年少女」


ジグムント帝国 シュヴァルツェンベルク侯爵領 地方都市クトーナ


「死ねぇ!」

がらの悪い男の声が裏路地に響くとそのまま少年にナイフで斬り掛かる。

振り下ろされたそれを少年は軽い身のこなしで避けると男の顔面を拳で殴りつけた。

硬い打撃音がすると男は殴り飛ばされて倒れ込んだ。

「この野郎ぉ!」

別の男が木材で殴り掛かると少年はそれも余裕を持って避けると姿勢を低くし男の顎目掛けて拳を放った。

それを受けた男は白目を剥くと崩れるように倒れ込んだ。

「畜生!!」

最後に残った男はボウガンを構えると少年に向けた。

「っ!」

少年は地面に落ちた木材を拾うとそれを男に向かって投げつけた。

「ぐあっ!」

木材が飛んできた男は咄嗟に手で体を庇ったがそれは少年が詰め寄るのに十分な隙だった。

助走を着けた飛び蹴りが男の顔面に炸裂すると男は吹き飛ばされた。

「がっ!!」

「ふぅーこんなもんかな」

男3人を倒した少年は息を吐くと状況を確認した。


「田舎もんだと思って馬鹿にしやがって、稼ぎ口紹介してやるからって言うから着いて来たらいきなり金出せとはな」

少年は殴り倒した男達をまさぐると財布などを取り上げた。

「泥棒や追剥なんてやる気はないけどそっちが売って来た喧嘩だ、対価くらいは貰ってくからな」

そう言うと少年は裏路地を出て行った。

「街って言ってもろくなもんじゃないな、あんなのが居るようじゃ」

少年の名はアルス、ここクトーナから少し離れた場所にあるオレープ村からこの町へとやってきた。

年齢は最近15歳になったばかりだが、腕っぷしには自信があり大人であっても荒くれ者程度なら倒す事は容易い。

「…やっぱ気分が悪いな、売られた喧嘩とは言えこれじゃカツアゲだ。と言っても金は必要だし、むむむ」

アルスは曲がった事が嫌いな性格であった。

荒くれ者とは言え金を取り上げる行為には後ろめたさがあった、とは言え寒村の小さな家の生まれなので大した路銀も無く街へ来たのは良いが何をしていいのかも分からず途方に暮れていたのだ。

「どうすりゃいいんだ、街なんか来たの久しぶりだしそもそも子供の頃で覚えてねーよ。村じゃ畑と家の手伝いと少し勉強と後は鍛錬しかしてねえもんな」

トボトボと街を歩きながらアルスは呟いた。

お分かりだろうが生粋の田舎者であるこの少年には街での暮らし方など分かるはずもない。

「母ちゃんとロッティに一人立ちするんだ!とか言って出て来たからな~流石にここで帰っちゃあまりにもあんまりだ」

ブツブツ言いながら徘徊する姿はやや不審者気味だろう。


「ん?」

道を歩いているとゴミ箱の陰で音がしたような気がしたのでアルスはそこを覗き込んだ。

するとそこには古びたフードを被った人間が倒れている。

「お、おい!大丈夫か?」

アルスは駆け寄ってその人間を抱き起すとその体は非常に軽かった。

抱き起した拍子にフードが外れるとそれは見目麗しい美少女であった。

「えっ」

見た事も無い程の美しさにアルスの思考は停止し少女を抱き起したまま暫く固まった。

「うっ…」

少女は小さく呻くと呟いた。

「4番通りの25号へ…連れて行って貰えませんか?」

「えっ?ああ、ああいいけど、でも俺来たばっかで場所が」

絞り出すような声にアルスは答えるが通りも場所も分からない。

「…路地を出て左に、200m先の通りを右に…その後は」

少女は辛そうに声を出してナビゲートを開始した。

「分かった!そこへ連れて行くよ!!」

アルスは少女を背負うと歩き出した。


少女の指示に従い着いた場所は古びた建物の何かの店だった。

「ここで合ってるのか?」

少女は声を出さず小さく頷いた。

アルスは扉を開けると中も整理されているとは言えない雑多な店内だった。

「すみませーん!誰か!誰かいませんか!!」

店内で叫ぶと奥から足音が聞こえて男が出て来た。

「はいはい…大声出さなくても聞こえてるよ」

現れたのはくたびれた服装の似合うこれまたくたびれた冴えない眼鏡の男性だった。

年は30代の後半か40歳くらいだろうか?

「この子がここに連れて来てくれって言うんだ!」

「んー?」

男はアルスの背負った少女を覗き込むと表情を硬くした。

「とりあえず奥へ運んでくれ話は追々しよう」

男性はハンガーに掛けてあった薄汚れた白衣を着ると店の奥に案内した。


店の奥は何やらアルスには理解出来ない機材や機械が並べられていた。

ベッドに寝かされた少女に線のような物や吸盤のような物が取り付けられて男は機械を操作していた。

「…成る程な、随分と長い間、調整もメンテも受けていないようだ。そりゃ機能不全も起こすよね」

男は状況を理解したようだがアルスにはさっぱりと理解出来ない。

「あの、どうなんですか?」

「とりあえずは大丈夫だ、ここの機材でも調整は可能だよ何時間か掛かるけどね」

「えっと、その子は病気じゃないんですか?」

「その前に一つ聞きたい、君とこの子はどういう関係なんだい?」

「えっ?いや、その子が倒れててここに連れて来てくれって言われたから連れて来ただけだけど」

「となると君はこの子のマスターでも所有者でも無いって事だね?」

「いや、そんな人を物みたいに言うのは…」

所有者という言葉にアルスは不快になった。

確かに王侯貴族や富豪であれば人間を物のように扱う事だって出来るだろう。

だけど、自分はそんな身分では無いしそんな事をしたいとも思わない。

「この子は人じゃない、「物」だよ」

男性は眼鏡を掛け直すとアルスを見た。

「知らないようだね、この子は人じゃない…シヴュラだ」

「シヴュ…ラ?シヴュラってあのシヴュラ?!」

「そうだ、超兵器マテリアル・アーマー(MA)の要ともいうべき存在であり、それ故に戦場の花であり、その力が故に人と同じ姿と心を持ちながら定められた生き方しか出来ない哀れな妖精だよ」

アルスは目の前で眠る少女をジッと見つめた。

美しい顔に銀色の髪…細く透き通るようなそれはまるで銀の糸を束ねたような優美さと儚さ感じさせた。

外見は10代の後半ハイティーンくらいに見えた、アルスからすれば少し年上くらいだろうか?

とてもこの少女が超兵器を生み出し、ライダー・ナイトと共に戦場を駆けるとは思えない。

「彼女の調整には時間が掛かる、その様子だと田舎辺りから出て来た口だろう?泊まっていくといいさ」

白衣の男は立ち上がるとアルスに近寄った。

「僕はベン、ここでシヴュラ屋…まあ、シヴュラを調整したりする仕事をしてるのさ」

「アルスです。なんかもう色々と分かんなくて」


その後、軽食を出して貰ったアルスはシヴュラの少女を調整するベンを眺めていた。

と言っても何をやっているのか分からないのでただぼーっと見ているだけだ。

「うーん…」

ベンは色々と調べたりしているようだが、あまり芳しく無いようだ。

「どうかしたんですか?」

「ん?うーん」

ベンは気まずそうに返事をした。

「シヴュラっていうのはね、大体が過去の技術がそのまま残った工場で作られるんだ。だから、シヴュラにはその記録が残ってるはずなんだけど、どうにもこの子にはそれが無いみたいなんだ」

「それって?」

「考えられるのは2つかな、一つは工場じゃない個人製作のシヴュラだって事だ」

「そんな事が出来るんですか?」

「出来るよ、世の中には過去の技術や知識を生まれつき持った人間が居たりするんだ。例えば僕がそうだ」

「そんな事があるんですか?」

「嘘じゃないさ、現に僕がシヴュラの調整なんて事が出来るのもそのおかげだし、ここの機材だって全部発掘品だよ。それがどうすれば動いて使えるのか何故か知ってるんだ僕は」

アルスには信じがたいが嘘では無いらしい。


「で、中にはシヴュラを作り出す方法を知ってる人も居るって訳さ。そういう人が個人で作ったシヴュラも居る…ただ、そうだとしても記録が残ってるはずなんだよね」

「それじゃあ、もう一つは?」

「そうだね…もう一つは正規のシヴュラじゃない可能性だね」

「正規じゃないっていうのは?」

「シヴュラは軍事戦略上の最重要要素だ、その生産…つまり工場や個人は国家によって厳密に管理されるんだよ。でも、中には正規の手続きをしてない事もある」

「一応は大陸共通法なんてものもあるけど、ちゃんと守られる訳がない。これだけ国が乱立してお互いに争ってるんだからね…つまりこの子はそういう闇の産物かもしれないって事だよ」

ベンが言っている事はアルスには良く分からない、世間知らずの田舎者に過ぎないからだ。

だけど、目の前の少女があまり幸せでない事は理解出来た。

死んだように眠る美しい少女にどんな過去があったのかは想像するしかないが、行き倒れていた事からもあまり良かったとは思えない。

「あーやっぱりダメか…何も読み取れない。困るな~これじゃ調整してもどうにもならないかも…おっと?」

ベンは何やら機械を見ていると変化があったようだ。

「どうしたんです?」

「ああ、やっと一つ読み取れたよ、この子の名前だ」

「名前ですか?」

「そうそう、んー………リリ…ウム」

「リリウム?」

アルスはそう口にすると再び少女を見た。

どうやらこの少女はリリウムと言うらしい。

「でもそれ以外は分からないままだ、まあいいやとりあえず体のバイタルは安定したし危険は無いだろう」

「助かったって事ですか?」

「まあね、問題はあるけど考えても仕方ないさ」

「そうですか…」

「今日はもう寝よう、明日は色々決めなきゃならない」

調整室を出て行くベンを追ってアルスも部屋を出た。

「あー、一ついいかな?」

「?」

突然の問いかけにアルスは無言でベンを見た。

「君は剣士なのかい?」

ベンはアルスの腰にぶら下がったそれに視線を向けた。

「あ、いやこれは」

アルスは腰に下がった剣を押さえると下を向いた。

立派な装飾のされた恐らくは業物の剣はこの少年の持ち物としては少々立派過ぎて見える。

「話したくない事なら別に構わない、剣なんか持ってシヴュラを連れてきたからてっきり若いライダー・ナイトだと思ったんだ」

「シヴュラに選ばれるかどうかは才能や実力だから年齢は関係無い、過去に10歳にも満たない子供が高名なシヴュラのマスターに選ばれた事だってある」

アルスは毛布を貸して貰うとソファーを使ってくれと言われた。

ソファーで毛布に包まり街に来て色々な事があったが、とりあえず1日が終わったと僅かな安堵を抱えてアルスは眠りに落ちた。


「う、うーん…」

朝の日差しを受けてアルスは目を覚ました。

「あ、目を覚ましたかい」

するとベンが歩いて来た。

「丁度いい彼女が目覚めたから呼びに来たんだ」

「目覚めたんですか!」

アルスはスッと起き上がると調整室へ歩いて行く。


調整室のベッドの上に彼女は起きて座っていた。

やはり美しかった、銀の髪はキラキラと光ってまるでこの世のものでは無いかのような神秘さを放っている。

「?」

こちらに気が付いたのか少女はアルスの方を向いた。

「…」

アルスは内心でしまったと思っていた。

何て話しかけたら良いのか何も考えていなかったし思い浮かばない。

「…」

少女もこちらをただジッと見つめていて口を開かないので沈黙が訪れる。

「オホン!ともかく、彼女は無事だよ。そうだねリリウム?」

たまらず話を進めたベンの方に向き直ると少女リリウムは口を開いた。

「はい、バイタルは正常に戻っています。大変腕の良いエンジニアとお見受けします」

「そうかい?それは良かった、それでやっぱり何も覚えていないのかい?」

「はい…自分がシヴュラである事は覚えているのですがそれ以外の記憶が欠落或いは最初から無いと思われます」

リリウムは澄んだ心地の良いどことなく儚さも感じられる声で表情を変えず淡々と語った。

「つまり、彼女は製造者も不明な上に記憶も無い、更にマスターも居ないシヴュラって事さ、こりゃいよいよまいったなぁ…」

ベンは頭を掻いて首を振った。

「まあ、無事だったならいいじゃないですか」

事情は良く分からないが無事だったならどうにかなるだろう。

アルスはそう楽観視していた。

「まあ、君がそれで良いならいいけどね」

ベンはそう言うと紙を手渡して来た。

「これは?」

「請求書だよ、この子の調整代」

「………は?」

請求書という予想外の言葉にアルスは理解が追いつかず間抜けな返事をしてしまった。

「そりゃそうだろう、この子は君が連れて来たんだから当然その責任は君にある」

とてつもなく嫌な予感に恐る恐る視線を下に落とすとそこには見た事も無いような数字が並んでいた。

「じょ!冗談ですよねこれ?」

「悪いけどそれでも大分おまけしてるんだ、僕もこれが商売だからね」

「そもそも俺はこの子と特に関係がある訳じゃ」

「でも依頼をしただろう?立派な契約だよ」

そう言われると言い返せない、夢中だったとはいえ頼んだのは自分だ。

それに言い訳をするのも格好悪いし気分も良く無い。

しかし、金額が非現実的だ。

はっきり言って一生働いたって返せそうに無いし、想像も出来ない。


「分かりました。ただ、どれだけ時間が掛かるかも分かりませんがちゃんと払います」

「…ほぉ?」

ベンはアルスの返答に少し意外そうな顔をした。

「なんです?」

「いや、聞き分けがいいなと思ってね。愚直と言っていいくらいだよ」

「仕方ないですよ、頼んだのは間違いないですから」

「…君はシヴュラというものをどのくらい知っているかな?」

「昨日話した程度です」

「そうだろうな、じゃあマスターや所有者の居ないシヴュラはどうなると思う?」

その問いかけをするとベンは眼鏡を掛け直し、それは光を反射して表情を読めなくさせた。

「どうって…そのマスターになる人を探すんじゃないんですか?」

「その通りだ、だがその間のマスターが居ない時はどうかな?」

「あの、言ってる意味が分からないですよ」

「シヴュラはね、扱い的には「物」なんだよ」

ベンは感情を感じさせない声でそう言った。

「そういうの俺、嫌いです。どう見ても人じゃないですか」

「でも事実だ、大陸共通法でもそうなってるし。そう扱うのが普通さ」

「それが何だって言うんです?」

理屈と意図の掴めない言葉にアルスは不快になってきていた。

「はっきり言うとね、その子が次のマスターを探せる可能性は凄く低いって事だ」

「どうしてです?」

「その子は素性不明、つまりどこの国でどこの工場、または個人によって作られたかも分からない。つまり出所不明のシヴュラって事になる。そんな物を誰が引き取ると思う?」

ベンの感情の感じられない言葉にアルスは本格的に腹が立っていた。

「そんなの分からないじゃないですか」

「いいや、僕もそれなりに見てきているから分かるんだよ…通常はね、シヴュラは自分でマスターを選ぶんだ。それが唯一の彼女らの自由と言っても良い。だけど、最終的にはお互いの同意が必要だ」

「正当な出自であればシヴュラからの求めをライダー・ナイトが断ることは珍しい、彼女達には少なくとも戦いにおける相性を見極める能力が備わっているからね、それこそがシヴュラがマスターを選べる理由なんだけど」

「さっきも言ったようにこの子は出自不明だ、となるとこの子が求めたとして応じるかはかなり怪しい。答えたとしてそんなシヴュラを選ぶのは訳ありかろくなもんじゃない」

淡々と話を聞かされながらアルスは拳を握りしめていた。


「マスターが居なければ次は所有者だけど、所有者っていうのはマスターを選べ無いシヴュラが行き着く果てみたいなものだ、良くて慰みものにされるし悪ければ嬲りものに」

「もういい!!!」

我慢が限界になったアルスは声を張り上げてベンの胸倉を掴んだ。

「あんたは何が言いたいんだ!まるでこの子がこの先、ずっと苦しむみたいな言い方じゃないか!」

「怒るのは分かるよ、でも事実だ」

「だとしてこの子の気持ちはどうなるんだ!」

アルスは激昂しながらやっとベンを離した。

シャツを直しながらベンは話を続ける。

「本来、シヴュラは一人では調整を受ける事も出来ない。今回リリウムを調整したのだって本当は違法なんだ」

「えっ?」

「マスターか所有者の居るシヴュラしか調整出来ないんだよ。言ったろう?彼女らは物なんだ、物が自分で調整を頼めるはずがない」

それを聞いたアルスはまた腹が立ったが目の前の男を責められない。

つまり彼はリリウムと自分の為に法を犯してくれたのだから。

「僕が言いたいのはねアルス、君の覚悟なんだ」

ベンはアルスに近づいて言葉を続ける。

「君はマスターじゃない、所有者になれるようなお金も権力も無い。それでも彼女を背負えるのかな?」

「…」

言葉が出ない。

余りに状況が動き過ぎていて理解など出来るはずもない。

「請求書を渡しはしたけど、とても君が払えない事は分かっていたんだ…だからもし君がもう関わりたくないのなら僕は流れ者のライダー・ナイトが調整を頼んでシヴュラも置いて逃げた事にでもする」

「そうなると彼女、リリウムはどうなるんですか?」

ベンは少し間を置いて口を開いた。

「僕としては行政に引き渡すしかない、でもマスターに捨てられた素性不明シヴュラだ、まともな扱いをされるとは思えない」

気が付くとアルスは歯を食いしばっていた。

こんな状況でもリリウムはただ静かにこちらを見て話を聞いていた。

まるで状況にされるがまま自分にはどうする事も出来ないと諦めているようにすら見える。

きっとベンの言っている事は事実なんだろう。

この少女はこのままだと酷い事になる、そんな予感があった。

希望的に見ればマスターとやらが見つかるかもしれない…だが、自分自身でも不思議だがどうしてもそうは思えなかった。

もし、自分がこの子を見捨てたら…そう考えると吐き気がする。

だから………

「なら、俺が」

答えは決まった。

「俺が彼女を、リリウムを引き取ります!」

これしかないだろう。

「そっか、よし分かった何はともあれお金が必要だ、腕はそれなりに立つんだろ?」

「それなりなら」

「分かった、ちょっと待ってくれ」

ベンは何かを確認するのだろう、部屋を出て行った。

リリウムと二人残されたアルスが彼女を見つめるとリリウムもアルスを座りながら見上げていた。

深い紫色の瞳がこちらを見ている、まるで水晶のようなそれはアルスを捕らえて離さなかった。

「あなたは…」

リリウムは何かを言い掛けるとやはり止めたのか何かを考え込んだのか視線を下げた。

「えっと」

アルスが困っているとベンが戻って来た。

「とりあえず仕事だよアルス」

「仕事?」

「ああ、そうだ」

ベンは薄く笑うとこう言った。

「山賊狩りさ」

始めて投稿させて頂きます。

もし面白かったり興味が沸きましたら高評価、コメントなど頂けますと幸いです。

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ