第2話 子犬、名前はポチ
その子犬は、先生が外から連れてきた。その辺りでは珍しい種類の、小さな白い毛の犬だった。そのふわふわとした毛は、記録映像で見る、雪の色に似ていた。もしくは、マグカップの中のミルクの色。
どういう理由で連れてこられたのかまではよく覚えてない。まあ、動物と触れ合い、世話をしたり一緒に成長していく過程を経験するというのは、この時代になっても子供の情操教育とかでよく用いられる手法だったので、大それた理由などではなかったはずだ。
とにかく、僕たちはその子犬にポチという名前を付け、当番を決めるなどして世話をした。初めの頃はみんな一生懸命にやっていたけれど、暫くすると僕と数人以外は当番の仕事もさぼるようになった。それについて僕が不満をこぼした時、その数人の中の一人、何て名前だったか......ああ、多分、スミって子が、僕に言ったのを覚えている。
「しょうがない。子供は飽きっぽいものだよ」
そんな風に言われても、僕も君も子供じゃないかなんて、言いかけてやめた。今はそんなこと言っても「しょうがない」から。そして、後から考えてみても、この時口に出さなかったのは正解だったと思う。
ポチは犬だから、猫のように部屋の中で気ままにさせておくわけにもいかなかった。当番の時は、施設の周りを散歩した。不思議とポチと散歩をしているときは、ただ一人で外を歩いている時より恐怖がやってくることは少なかったように思う。だから、僕は自分のことを単純に寂しがりやなのかと思ったりもした。でもそれで説明のつかない恐怖も確かにあったから、それを結論にはしなかった。
そんなある日、いつものようにポチの散歩から帰ってきて、小屋の隣の杭に縄を括り付けていると、そこを通りかかったスミがこちらを見たので、僕は何となく、本当に言葉以上の意味もなく聞いた。
「ねえ、どうしてスミは、ポチの当番ちゃんと続けてるの」
それを聞いて、笑いながら言ったスミは、きっと僕がどんな顔をするか、わかっていたんだろう。
ああ、多分、そうだ。
「君ってさ、本当に子供みたいだね」