プロローグ
「今時天罰なんて言葉を使うのはろくでもないやつだ。勿論それが鳥のフンにでも降られた相手に言うなら別だがな。ともかく、世界中の教師がダーウィンを臆面も無く教えるようになった時代に、天罰なんてナンセンスな表現ってことだ」
神様が罰を与えるんじゃない。それなら、自分が罰を与える?それも違う。ただ、運が悪かっただけだ。何時だったか、彼がそう言っていた。
それを聞いたとき、それじゃあ僕は、運が悪かったのかと思った。それなら仕方ないとも思えた。しかしそれと同時に、この男(実際のところ僕は彼の生来の性別を知らない。記しておくのに面倒なので、見たままで適当に判断した性別ということにしておく)がこんな風に語るのも、自分に言い聞かせているだけなのではないかと言う疑念が脳裏をかすめた。それを口にはしなかったけれど。
彼は不思議な男だった。先程のように芯の通った、しかしいくらか投げやりな持論を語ることもあれば、まるでお人形と表現されるような、意思薄弱な一面を見せることもあった。しかしまあ、こういった二面性も、君たちの表現で意味される所の「人間くさい」とでも言うのかもしれない。今となっては、こういった彼の振る舞いについてはある程度説明がつくのだが、それでもやはり彼はどこか変わっていたように思う。
さて、ここまで読んでくれた君たちがどんな人生を歩んできたかは僕には見当がつかない。しかし、少なくとも、いくつかの違和感を覚えているのではないか。こちらもそれを出来る限り抑えられるように善処するつもりだが、若干の引っかかりはどうしようもないことなので、僕としてはそれを心の引き出しの奥へ追いやっていただきたい。だって今から話すのは、多分君たちからすれば、少し未来の話だから。