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第四話

                     Side 麟梧

 あれから一週間。

 美柑を失って一週間、もしくは美柑ともう一度出会う日から逆算して683日前。

 二度目の中学一年半を過ごしている。

 意識あるいは記憶を持ったまま過去の自分を演じるストレスに胃が痛い日々を過ごしている。

「美柑……、逢いたい……」

 思わず口をついた言葉に自分の弱気や本音を自覚する。

 黒板の前で教師が授業を行っている。

 据わった目で授業内容をノートに書きこんで、一滴も漏らさず覚え込んでいく。

「勉強しなきゃ、久我高に合格しないと話に成らない」

 この一週間で本当に一年半前に戻って来てしまった事を確認させられ、美柑ともう一度会う為には久我高合格が必須だと思い知った。

 勉強時間を作る為にバスケ部も辞めた。

 高校一年の記憶、意識が有る為にバスケに対する気持ちが途切れたのも有るが。


 美柑の家に行ってみたけれど、売却済みの看板が有るだけで雑草だらけの空き地だった。

 両隣の家とぽっかり空いた空き地を見て泣きそうになった。

 中学までは仙台だと言っていた事も有って、美柑自身がまだ東京に居ない事を納得させられた。

 美柑に会いたければ二つのルートが有る。

 久我高の入学式まで耐える、もしくは探しに行く、だ。

 これは自他共に認める事だけど俺は「我慢が出来ないヤツ」だ。

 久我高には必ず合格する為に勉強はする。

 それと同時に何度でも仙台に行って美柑を探す。

 一年半前に戻ったとは言え、正確に同じ事が同じ日付で起こっていたかは分からない。

 よくSFで“選択によって未来は変わる”と言うけれど、同じ行動を取っても同じ事象が必ず起きるなんて誰にも言えやしない。

 なら、同じ行動を取る事に意味は無いのかも知れない。

 それよりも美柑と繋がる選択肢を選び続けるしかないと思う。

 結局、何が正解かなんて誰にも分からないのだから。

 根本的に、記憶を持ったまま一年半前の自分に戻っている事を誰にも説明できない。

 結局、何も分からないまま漂流し続けている気がする。

「だから……、せめて舵は自分で取る」

 何度目かの覚悟を呟いた。


「麟梧、最近妙にマジメクンじゃんか」

 一年半後には別の高校に進学する予定のクラスメート、宮本 朔埜さくやが軽い調子で話し掛けてくる。

「ああ、志望校を決めたからな。絶対に落ちられない」

「ふ~ん? 早くね? まあ良いんだけど。でさ、今日カラオケ行かね?」

「いや、止めとく」

 せっかく確保した勉強時間を削る気にも成らなかったし、夏休みに美柑を探しに仙台に行く事も考えたら一日も疎かに出来ない。

 それに、精神年齢が二歳ズレると中学生のノリを演じるのが地味に辛い。

 ここ一週間でクラスから浮き始めている自覚も有った。

 何と言うのか、精神的にダブった気分だ。

 そんな理由も有って即答で断った。

「お前、本当に付き合い悪くなったな~」

「ごめんな? ちょっと余裕無くてさ」

 朔埜のボヤキに苦笑しながら詫びておく。

 認識として正しいかは分からないが、ワンミス=ゲームオーバーだと感じている。

 美柑はそれだけ俺の中で大きな存在だ。

 そんな好きな人が居る俺が、訳も分からない一年半間のタイムリープに遭遇したのだ。

 どう取り繕っても一年半前の俺と同じ心で生きて行けそうにない。

 なら開き直って、絶対に美柑に出会い直す為に努力する。

 そう心に決めて勉強に専念した。

 涙腺の痛みを必死に抑え込んで参考書に集中していく。


 休み時間や昼休みは受験勉強に当てて、授業中はしっかりとノートを取った。

 朔埜以外のクラスメートからも奇異の目で見られたが正直どうだって良い。

 あの日から表情や雰囲気が全然違うと母親にも言われている。

 精神面が二歳年上に成って色々と違うのだと思う。

 このタイムリープを経験して人格にも変化が有った気もするから、余計かも知れない。

 荒れていると言うか、ピリピリしている自覚はある。

 周りからは不機嫌キャラに映っていると思うと微妙な気分には成るが。

 どこまで行っても今の俺には美柑が最優先なのだから仕方が無い。

 好きな人に会えない。

 言葉にすれば一言で済んでしまう現状では有るが、苦さや切なさは一言で言い表せられる物では無い。

 胸が張り裂けそうで、声が嗄れるまで叫びたくなるし、枯れるまで泣きたくなる。

「美柑……逢いたい……」


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