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第三話

                     Side 美柑

 最悪の日から一週間。

 泣いて考えて、沢山泣いて。

 どれだけ考えてもあの日には帰れなかった。

 調べて回ったけど、麟梧と連絡を取る方法は見付からなかった。

 東京の家もまだ建てていない時期だし、麟梧の家は知らない。

 携帯電話の番号も覚えていない。

 探し出す術も無く、そもそも麟梧が実在の人物かも分からない。

 全部夢だった方が、全ての説明が付く気さえする。

「それでも、夢だと思いたくない……」

 中学生の夢の中の物語だと思えない。

 何としても、一度で良い。麟梧に会いたい。

 今頃麟梧はどうしてるだろう?

 麟梧も私と同じように記憶を持ったまま戻ったのだろうか?

 母と同様に記憶を持たずに戻ったのだろうか?

 確かめる術は無いし、それはもう一度出会う日まで誰にも分からない事。

 そう思うと全身が震える。

 “私だけが覚えてる世界”を想像して怖くなった。

 理不尽な世界に思えて恐ろしくなる。

「もう一度、絶対にもう一度会うんだから」

 ノートに黒板の文字を書き写しながら、ページの隅に麟梧の名前を書き足した。


「美柑ちゃ~ん、一緒に食べよう~」

 親友の萌々がもう一人の親友の鳳梨ほうりを連れ、お弁当片手に小走りで来る。

 一番後ろの席の私は三人で囲める様に机を引いた。

 周囲の空いた椅子を借りて二人と昼食を囲む。

 この一週間で慣れたとは言っても、意識もしくは精神年齢がズレた事を隠しての対人関係は難しい。

 誰の言葉だっただろう? “未来は確定していない”それは翻って私の選択で未来が変わるかも知れないと言う事。

 それが何よりも恐ろしかった。

 どこかで余計な事をして麟梧との未来から離れてしまったら?

 そう思うと怖くて行動は慎重になる。

 それが結局“一年半前の自分を演じる”事に成った訳だけれど。

 常に一年半前の自分なら何て言うか? どんな選択をするか? を意識して生活するのは難しかった。

 ストレスで胃が痛む事が増えたし、苛立ちが募るのも自覚している。

 おまけに、それらを一切表に出せないのが辛い。

 そして変化はそれだけでは無かった。

 意識の中では一週間と少し前、暦的には一年半後の自分との心境の変化。

 一日が始まれば麟梧と“どんなお喋りをしよう?”と考え、一日の終わりには“早く明日になって麟梧に会いたい”と小さく思っていた。

 それが今では渇望していた。

 麟梧の姿が見たい。麟梧の笑顔が見たい。麟梧の声が聞きたい。麟梧に触れたい。麟梧に触れられたい。

 心の奥底から止めどなく溢れる“飢え”が生まれた。

 一年半後の私よりも強く麟梧を好きな自分がおかしくて仕方が無い。

 頭の中で言葉にするとこの奇異な状況が滑稽ですら在った。

 萌々や鳳梨と笑顔で雑談しながら、どこか冷静な自分を意識する。

 自分が二重人格にでもなった気さえしてくる。


「美柑ちゃん、薮原君の告白断ったって本当?」

 萌々が昨日の放課後の出来事をニヤニヤしながら問うてきた。

 意識を思考から引き戻して昨日の事を思い出しながら答える。

「うん、特に親しく無いし、好きになれると思えなかったし」

 以前答えた事と同じ事をなぞって口にする。

「勿体な~い、薮原君結構人気なんだよ? 試しに付き合っちゃえば良いのに~」

 萌々も依然と同じ反応を示した。

 当時は特に興味のない相手だったし、相手が私の何を見て好きだと言っていたのかも分からず断ったけど、今回は内容が違った。

 表には出せないけど、私には大切な人が居る。

 だから断った。

 断る理由が違うのに、全く同じ様に断るのは難しかったけど。

「気が乗らないのにお付き合いなんて出来ないよ~」

 そう笑って誤魔化して受け流す。

 二度目の全てを前回と同じく受け流す難しさを感じながら。

「美柑ちゃん、何か悩んでる?」

 鳳梨が唐突に、そして私の知らない、前回そんな事は言わなかった言葉を発した。

 背筋が凍る様な悪寒に襲われる。

 “前回と違う”その衝撃が私を打ちのめした。

 どこで失敗したのだろう? どこか前回と違う言動が有ったのだろうか?

 眩暈の様に視界が揺れて渦を巻く気がした。


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