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第二話

                      Side 美柑

「美柑ちゃん! どうしたの?」

 母の姿に込み上げる嗚咽と一緒に言葉を発する。

「お母、さん。私……、好き、な、大好きな、人と離れ、離れに成っちゃ、った」

 自分の言葉に改めて衝撃を受けて涙が余計に溢れてくる。

 大好きで、一分一秒離れたくない、麟梧の姿が脳裏に浮かぶ。

 心が軋むほど、心臓が痛い。

 この痛みは何と比例するのだろう?

 麟梧を好きな気持ちの大きさと比例してるのかな?

 全てを無かった事にされた痛みも重なっているのかな?


「振られたの?」

 母の静かな問いかけにかぶりを振った。

「好きな人に恋人がいたの?」

 新たな問いにも首を横に振る。

「離れ離れになったってどう言う意味?」

 私を落ち着かせようと穏やかに訊ねてくる声に身を固めた。

 なんて説明したら良いのだろう?

 丸一年半先までの記憶が有って、その記憶の中で恋人が居た、と?

 気が付いたら今日に戻ってしまっていた、と?

 言える訳がない。

 どう考えても頭のおかしい娘と思われる。

 きっと『夢を見たのだろう』と言われて終わるのがオチ。

 夢と言う単語が麟梧との最後の会話と結びついてその時の事を鮮明に思い出した。


 頭の中で自分の声で『もしね? 私達の出会いから今日までが夢だったら……、麟梧はどうするかな? って思って』と再生される。

 確かに私が言った言葉だった。

「私が、変な事、を言ったせいで、こん、な事に、成ったん、だ……」

 頭を抱えてフローリングに膝を付いた。

 苦くて、痛くて、苦しくて、逃げたくて、会いたくて、触れたくて、抱きしめてほしくて……。

 ただただ苦しくて泣いた。

 もうこれ以上何も考えられなくて泣き続けた。

 息が苦しくて、何も考えられなくなる。

 目の前が真っ暗になって、自分がどんどん小さくなる気がした。



                      Side 麟梧

 混乱に混乱を重ねて、考えがまとまらない。

 クローゼットを漁っても高校の制服が見当たらない。

 どこをどれだけ探しても見付からない。

 部屋中をひっくり返しても俺が高校生である痕跡が欠片も見付からない。

「誰か嘘だと言ってくれよ……、冗談とかドッキリだって言ってくれよ……」

 あり得ない事が起きている、そう思った瞬間からじわじわと視界が、世界が陰っていくのが分かる。


「麟梧! 遅刻するわよ! さっさと着替え――あんた何やってるのよ! 部屋中ひっくり返して!」

 母親の声が遠くで聞こえる。

 聞こえているのに聞こえない。

 頭が理解する事を拒絶している。

 現実逃避と言うよりも現実を遮断している感じ、それを傍観的に見ている自分を認識する。

 軽い音と共に痛みが走って視点が主観に変わった。

「あんたに何が有ったか、母さん分からないけどまず落ち着きなさい。自分で落ち着かせられないなら学校に行きなさい。歩いている内に人間落ち着いていくものよ」

「でも制服が無――」

 学校に行けと言われても高校の制服が無ければ行くに行けないと主張すると母親に言葉を遮られる。

「あんたは●○中学の一年半生でしょ。何の問題が有るの?」

「中二……、母さん、冗談とかドッキリじゃなくて……か?」

 新聞やスマフォの日付を考えたらその通りなのだけど、高校一年までの記憶が確かに有った。

 その明瞭な記憶が母親の言葉や証拠を前にしても、うんと頷けなくさせる。

「母さん……変な事言うんだけど俺……、久我高一年までの記憶が有るんだ……」

「はぁ? 何言ってるの、この子は」

「馬鹿な話だと思うけど、ホントなんだ……」

 信じて貰えなくても構わない。

 でもここで俺が気のせい、夢、だと思ってしまったら、俺の中の美柑を殺す事に成る。

 そんな気がした。

 好きな人を好きな気持ちを無かった事には出来ない。

 馬鹿な話だと言われたとしても。



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