ある日々その2:30人レイド戦『カースサイスリッチ』
本編と同時更新である。
『レイド戦:カースサイスリッチ討伐への協力要請』
From シロマサ
お久しぶりですアールさん。今いくつかのギルドと有志でこの前アールさんが開放した新ダンジョンのエンカウント型のレイドボス『カースサイスリッチ』討伐のために集まっています。レイド合計参加人数が30人となっていてマックス人数で既に12回ほど挑んでいますが、色々問題も起きて攻略の鍵が見えてきません。宜しければ協力して頂けませんか?
店の装備を確認をしていたときに届いていたメッセージには、この前倒したカースサイスリッチがレイドモンスター化したことと、依然倒せずに難航しているとの連絡であった。
シロマサとは以前のエーテリア防衛戦の時に知り合った仲で、高い防御力を持っておりタンクとしておそらくプラクロ内では頂点に立つプレイヤーだと思っている。
そんなシロマサからの救援要請もとい協力要請だ。丁度今日の分は全部終わったし、この後は適当に過ごすつもりだった。他のプレイヤーとの交流もたまには良いかもしれない。
「ギン」
「ん?なんじゃ師匠?今日の依頼はもう終わっておるぞ?」
彼女はギン。第14代目天匠流継承者であり、銀狐族という獣人族。現在は俺の従者としてこうして一緒にいる。
ちなみに今日はちょっとした依頼をいくつかこなしており、最後に俺が必要だった鉱石とモンスターの素材を集めて終了だ。
「そうじゃなくてな。これからリッチ倒しに行くけどついてくるか?」
「おぉ!あの時の奴か!是非行きたいのじゃ!師匠の剣も見られるし、妾も剣に磨きがかけられる!是非同行させて欲しいのじゃ!」
「了解。ギルファー、悪いけど店番頼んだ」
『仕方ない・・・肉を所望する』
丁度さっき狩ってきたガンドロックキャンサーの腕を取り出して目の前に置く。食っても美味いからこれでいいだろう。
ギルファーも文句はないようで硬い殻など気にせずにバリバリと食べていく。店を出て参加する旨を伝えるメッセージを返す。集合場所は滅却神殿の入口。ニルスフィアに飛んでから向かったほうが早そうだ。
――――◇――――
「おーい」
「おっ!アールさん!こんにちわー!」
集団を発見したので手を振るとシロマサは手を振り返してくれた。
両手に盾を持つ重装備のプレイヤー『シロマサ』こうして直接会うのは久しぶりだ。
「いやーすみません。本当は俺らだけで倒したかったんですけどちょっと限界っていうかなんていうか・・・」
「あぁ・・・見ればなんとなく察した」
集まっているプレイヤーはどことなくゲッソリしている。12回やって倒せていないのだから相当なのだろう。
一部泣きそうになっている女性もいる。視線に気づいたのかその女性は我慢の限界だったのか泣きながらこっちに来た。
「なんあんでずがあでぇ!!あんまりじゃないでずがぁぁ!!!!!」
「ちょっ!?落ち着けって?」
「わだじの『ミラクルシューティング』ぅぅぅぅ!!!」
彼女は『ああああ』、言いにくいのと本人の希望で皆『シア』と呼んでいる。見れば何時も携えている短剣が一本ない。奪われたのね。
「後ろからパクられたみたいで気がついたらなくなってたそうです」
「うわぁぁん!!!ミラファちゃーん!!」
続いてやってきたのはシアと仲のいい女性。クラン『仁義組』のクランマスターも務めている『ミラファ』だ。彼女の装備もいつもと少し違う。怪盗っぽいのは変わらないのだが、その下に着込んでいるマジの戦闘装備。それも機動性を優先しているものだ。
「久しぶりミラファ。あの猿厄介だろ?」
「久しぶりですアールさん。なんなんですかねあの猿。ウチだけじゃなくていろんな人が被害にあってますよ。うちに来る依頼も最近全部あの猿関連が多いんです」
感情を揺さぶり武器を奪うモンスター『ブリガンテ』。奪われれば最後、倒さない限り武器は戻ってこない。そんなモンスターがここには生息している。
視線を向けた先に広がるのは滅却神殿。ついこの前ディアと再会した場所であり、あの問題児、『三代目剣聖アヴァロア』の怨念が憑依したカースサイスリッチと戦闘を繰り広げた場所。今は日も差込み明るいが、倒す前には暗く気味の悪い場所だった。
リーク達との共闘の末、無事に撃破したあの問題児との戦いの場所にまさかまた来ることになるとは思っていなかった。
「アールさぁぁぁん!!お金積むから私の武器とりもどしてくださぁぁい!!」
「わかったからこの至近距離で大きな声出さないで?あとお金はいらないから」
流石に可愛そうだし。
――――◇――――
「それじゃ、第13回目のカースサイスリッチ討伐代表者会議を始めましょう。一応アールさんも加わったので改めて自己紹介を、『タンクウォーリアーズ』クランマスターのシロマサです」
「『仁義組』の頭してますミラファといいます」
「『電卓騎士団』クランマスターのマーガリンです。この前に引き続きよろしくお願いします」
「無所属連中のまとめ役になったヴァンレイだ」
「『剣星』クランマスターのアール。今日は二人での参加だけどよろしく頼む」
良かった。全員知り合いで安心した。と言っても実際知り合ったのはついこの前の戦いだし知り合いってほどではないんだけど。
代表者会議とは言っても大したものじゃない。
みんなの中心でどっしり構えて代表して発言するだけのものだ。語っ苦しいもではない。司会進行も務めているシロマサの発言から簡単な打ち合わせが始まった。
「これまで掴んだ情報の確認をしておきましょうか。あのリッチの弱点ですがまだ不明です。ただ魔法系の攻撃を当てた時に現れる玉が弱点かと思われます。出現確率は低いですが今の所魔法が弱点だからあのコアらしきものが出ると思ってます。厄介なのは支配下に置かれたモンスター達の討伐です。特に猿と蟷螂には要注意なので三人一組で当たる感じで。ASには必ず感情抑制系の物を忘れずにセットする。リッチの攻撃は真正面から受けるとタンクが持たないので基本は回避を主軸にする。こんな感じですね」
「こっから先はお手上げだよ、どうしたらいいのかわかんなくて困ってるんですよね・・・けど」
ミラファも首を横に振りながら困った表情をしている。でもそうしたかと思うとニンマリと笑みを浮かべて俺に注目を集めるような仕草で俺を紹介してくれた。
「じゃじゃーん!!今回はその手のエキスパートであるアールさんがいます!!これはもう勝利間違いなしでしょ!!」
拍手喝采である。集まったプレイヤー達が頷いたり拍手したりとまるで大物俳優か何か登場したかの様な扱いだ。
「間違い無しは言いすぎだ。負けるつもりはねぇけど絶対なんてないよ」
「でもこの前私たち含めて16人で討伐しましたよね?というかほとんどソロでしたよね?」
実は以前マーガリン率いる『電卓騎士団』と野良パーティーに依頼されてリッチの討伐をしたばかりなのだ。半分が支配されて厄介なことにはなったけど無事に討伐は出来た。レアドロはなかったのでそれだけが残念だった。倒すのめんどくさいから早めに落ちてくれると嬉しいんだけどな・・・というかそうだよ。
「電卓騎士団いるんだし戦い方わかると思うんだが?弱点に関しても戦い方に関しても教えたはずだけど?」
一緒に戦ったし覚えているとは思うんだけど?あ、コイツ顔逸らしやがった。
「もしかして聞き取れてなかった?」
「・・・・・ウッス」
「「「「・・・・・・・」」」」
まぁしゃーないか。一・二回で完全に覚えられるなら誰も苦労はしない。そう考えると俺もちょっと申し訳ない話を振ったかもしれないな。
それにあの時はほとんど流しで勝手に話してる感じだたし、既に数名支配されてたから余裕もなかった。
「すまんかったマーガリン。不用意な発言だった」
「あっ!!?いやいや頭下げないでいいですからっ!!?」
そんなことはない。最近そうだが俺は割と抜けているところがある。直さないといけないな。
「そ・・そうです!ならアールさんから改めてあの怪物の事教えてください!それで良しです!」
そう言ってもらえるとありがたい。俺の発言で申し訳ないことをしたし、挽回させてもらおう。
「そういうことなら喜んでさせてもらうけど他の面々もいいだろうか?」
「いや、寧ろその為に呼んだといっても過言じゃないですから是非お願いします」
シロマサのありがたい言葉もあったので早速話そう。
「なら話させてもらうわ。まず弱点だが、そんなもん無い」
「ちょっ!!?いきなり弱点全否定!!?」
驚くミラファ。12回戦ってきて見つけたもんいきなり否定から始まったし驚くのは仕方ないよな。
「あの野郎倒すには話にも出てきた玉を複数回攻撃する事。回数は変わってなければ平均20~50の間だ。個体によって違うから確かな数字はない。ちなみに魔法攻撃で出てくるって言ってたがそれも間違いだ。魔法に限らず何度も繰り返し攻撃すればコアは出てくる。魔法で出たのはおそらく多段ヒットでそれがたまたまコアの出現とかぶった結果だろう」
「た・・確かに魔法は基本的に2回以上当たり判定ありますね・・・うっわマジでか・・・」
「それとコアの出現場所も決まりはない。奴の体ならどこにでも現れる。出ている時間は5秒もないくらいだ。あと、一発当たると消えるから当てることだけ考えればいい。攻略法は根気よく体を回数攻撃してコアを出現させる。その後攻撃をひたすら繰り返す。当たれば攻撃力は関係ないと思うから見つけたら一発殴れ」
要約すればこうだ。
①とにかくなんでもいいから攻撃してコアを出す
②なんでもいいから一発入れる
③①と②の繰り返しを根気よく行う
単純である。クソ強いくせに単純作業である。まぁこれを安安とさせないのがあのリッチモドキの強さではある。
「うっわ・・・・なんていうか・・・・辛・・」
「倒し方はわかったけど・・・想像以上に辛・・・」
「そんな相手ソロって・・・さすが剣聖」
上からシロマサ・ミラファ・ヴァンレイである。マーガリンはなんとなく思い出してきたのか
『あぁ・・・』と頭を押さえながら”やらかした”というような顔をしている。
「外野代表で質問なんですけどいいです?」
集団の中から手を挙げたのは確かライトニングといったはずのプレイヤー。シロマサが前に言っていた回避盾のプレイヤーである。
シロマサに確認すると首を振ってくれたので視線を向けるとライトニングが口を開いた。
「あのリッチに関してはいいんですけど、猿に関して攻略方あります?」
「そうそれぇぇぇぇええ!!!!シアの武器ィィィィ!!!!」
「・・・耳元でうるさい」
「だって蒼くん!!?」
シアの隣にいた蒼牙をゆさゆさと振りながらシアは再び涙声を上げている。ちゃんと取り返してあげるから揺さぶるのやめてあげなさい。蒼牙がすげぇ嫌そうな顔してるぞ?
「攻略方はない。頭がいいからこっちも臨機応変に戦うって言うしかないな」
というか攻略法なんて見つけたんなら俺が教えて欲しい。
そんな感じでリッチ攻略のための話し合いは続いていくのであった。
――――◇――――
参加人数は30人。だが1パーティーは六人。ギンは俺の従者枠なので実質俺は一人。となると野良パーティーもしくは他のクランのパーティーにお邪魔する。
もしくは完全に遊撃手として参戦し、指揮官の指示の元、戦傷を駆け巡るのが普通である。最後のはあんまり見ないけど。
「というわけで総指揮お願いしますアールさん」
「「「「よろしくおねがいしまーす」」」」
「解せぬ」
公正な話し合いの結果総指揮官を任されることになった俺です。言ったんだぞ?指揮とかは出来ないって。基本前に出て敵を斬ることしかしてこなかったので指揮とかしらんし。
それなのに満場一致で俺が総指揮を執ることになった。
「何度も言うけど新参者で、しかも俺のほうがレベル低いからな?シロマサとかミラファの方が向いてるからな?」
というかこういうこと気にする奴はすごく気にすると思うんだけど。こういう時はカリスマ性があるやつとか実力が数値ではっきり出ている奴がやるべきなんだと思うんだけど?しかも俺ただの一参加者でしかないんだし。
「まぁ決まったことなんで☆!それに私たちだってあのリッチに挑むって観点で言えば新参者だもーん☆彡!よろしく頼むっス先輩!!」
「誰が先輩じゃボケ」
「さぁ行くぜよ(☆∀☆)!」
キャラ固定せんかい。ちなみに副官として『電卓騎士団』のマーガリンが付くことになった。シロマサは前衛で頑張るそうだ。
俺とギンはちなみに後方支援である。エクストラジョブ『星読み人』で『UtS:星の魔術回路』のレベル上げられるからそれはそれでいいんだけども。
それにギンが使う妖術にはあのリッチに対して有効な術を持っている後方支援の方が確かに向いている。
という訳で森の中を散策中である。神殿の中に入ったはずなのに森である。何を言っているかわからない人は挙手して欲しい。
要はあの神殿はこの森を隠すためのカモフラージュなのである。けど場所的には神殿なのだ。それでもわかりにくい場合は神殿という名の森であると思ってもらえればいい。
5つのパーティーに分かれて森へ入り、ローラー作戦でリッチを探す。ついでに道中のモンスターも倒す。というか半分は猿狩りがメインである。取られた武器を取り戻すのだ。
「いやぁ!でもこれは自慢だね!剣聖アールとパーティー組むとか自慢以外の何者でもないね!」
「・・・・・ふん」
「シアちゃんもはしゃぎ過ぎ、蒼くんも技を盗めるからってアールさんのこと凝視しすぎだよ?」
「ぱねぇwww」
「はわわわわわわ・・・!!!」
お邪魔してますクラン『仁義組』のパーティー。今日は雷華が野暮用で不参加らしくこうして5人の所に俺とギンがお邪魔している。ということにされた。ちらっとしか見えなかったが代表者数名でじゃんけんしていたから、誰の所が一緒に行くか決めたんだろうな。
別にそのへん気にするようなことじゃないのでいいんだけど。
ミラファはテンションマックスのシアに呆れつつ、ご機嫌そうな顔の蒼牙を見て困った顔をする。それを傍から見ている昼行灯は面白がってるようで笑っている。その隣でラビットがハラハラしているのだ。
ちなみになぜこのパーティーにお邪魔しているかというと簡単だ。何時もタンク兼メインアタッカーの雷華が本日いないため、その枠として俺が参加している。つまりメイン盾だ。
それと『仁義組』の今回の立ち位置は戦闘時の雑魚担当。リッチの声で支配されて寄ってくる雑魚モンスターの討伐をメインとするため、結構身軽なのだ。
「さぁみんな☆彡シアの武器を取り返すために頑張リんこだよ!!!!バンガロール!!」
「爆破する気かよ」
わからない人は『バンガロール 破壊筒』で検索してみてくれ。ただのバンガロールだとインドの都市が出てくるから。
「とか言ってたら早速来たな。戦闘準備だ」
「え?アールさん本気です?全然いませんよ?」
ラビットが地図を見たり周囲の確認をしているが何もいないので首をかしげている。だが、その隣の昼行灯はスキルか何かを見た途端。笑いつつも引き気味でこちらを見ている。
「え?まじッスかアールさんww?」
「マジのマジ。四匹猿で三十秒くらいでくると思うけどどうだ?」
「嘘でしょ!!?なんでわかるの!!?」
「パネぇwwwww!!」
驚くミラファと驚きを超えて笑っている。寧ろこれくらいはわからないと俺の師匠に怒られる。いや、邪神倒せない。
あいつ姿形気配まで消して襲いかかってくるからな。他モードだと感覚強化されてるからある程度補足できるけど。
そんな事を思い出しつつ木の上から突如落ちてきたのは四匹の猿。しかも全員武器持ち(擬似真化)だ。それも盗んだ武器のな。
「あぁーー!!!!!!シアのミラクルシューティング!!!!」
『ウキャキャ?ウッキャァ!!!!』
どうやらその内一本がシアの武器らしい。赤と黒に染まっており元の状態はよく解らないけど。ブリガンテもシアの事を覚えていたらしくそれはもう煽る煽る。
ペシペシと尻を武器で叩いたり、『あっかんべー』と子供のような挑発を繰り返す。他にも完全に舐め腐った挑発を繰り返すブリガンテ達。いつ見てもこいつらよく色々思いつくよな。
「おいお前ら。言っとくけど挑発に乗るなよ?」
「ふぅーふぅー!!!わかってるもん!!!!シア怒りに飲まれない!!」
いや完全に怒ってるって。突っ込んでいかないのは残っている理性で押さえつけているのと、ギンがその影でかけてくれた『抑制』の妖術のおかげだろう。というかAS貫通で怒るとかどんだけ鬱憤あったかわかる。チラっと見ればほかの面々もそれなりには抑えられているが、怒りがにじみ出ている。
「どうする?」
「決まってます!全員d「アールさんシアの武器取り返すために速攻倒して!!拒否権も反論も認めないからね!!!」・・・・だそうです」
ミラファは多分全員で戦って以前の雪辱を果たそうと言いたかったんだろうけど、我慢できなかったのか、闘牛のように興奮したシアを見て逆に落ち着き、苦笑いをしつつ頼んできた。
「はいよ。それじゃぁ悪いけど一人で殺るけどいいんだな?」
「負けたら許さないんだからね!!!」
はいはい。負けるつもりは毛程にもないけどな。そうして前に出て『双子星の剣』を抜刀。一気に攻め込まず確実に距離を詰めるため歩いていく。
『『『『ウキャキャキャキャ!!!!ウッキャー!!!』』』』
煽る煽る猿ども。『やーいやーい!』『弱虫負け虫へなちょこー!』とでも言ってるんだろうか。そんな感じのジェスチャーを繰り返す猿。一応後ろを振り返ると、皆見ないようにしているか自分で自分の足を踏んで堪えているかのどちらかだった。
「心配だから言っとくけど突っ込んで来るなよ?”隙を逃すことだけはするなよ”?」
「わかってるも・・・後ろっ!!?」
『『ウキャキャッ!!!ウキィィ!!!』』
『バカめ死ねぇ!!』ってか?残念。残念。おびき寄せられたのはどっちだろうな?
「ディア」
『ヨ』
突如背中から伸びる二本の腕。俺の胴回りと同じくらい太い腕はローブの内側から水がにじみ出てくる様に出現。飛びかかってきた二匹のブリガンテをその手でガッチリと捕まえる。
一部融合なら毎秒受けるダメージは大きくない。それこそ『AS:HPリジェネLv1』で十分回復できる程度だ。
そんな訳で森に入る前から融合していたディアによる奇襲返しで二匹のブリガンテを捕獲。何度も戦うと面倒なのでこのまま力を強くしていく。
『『ウ・・ウギャギィッ!!?』』
そのままプチと聞こえてはいけない音と共にブリガンテの意識が落ちる。見れば口元、目、耳に鼻から真っ白い体液を垂らしながら事切れている。
『ヨヨ』
掴んでいる腕を器用に動かし、持っていた武器とアイテムを腕の外側に回すと、ディアはそのまま死体を腕の中に飲み込んでいった。食事にするのか。
丁度シアの武器の成れの果て・・・・もとい擬似進化した不気味な武器を持っていた相手だったようだ。手の甲に張り付いているそれを取り、シアに確認する。
「これそうだよな?」
「シアのミラクルシューティングゥゥゥゥ!!いぃっやっっぽー!!!!帰ってきたァ!!!」
残りの武器は他の被害者の盗品みたいで『奪われた武器』として俺のポーチに回収した。改めて振り返るとブリガンテ達は冷や汗を流しつつも逃げようとはしていなかった。寧ろこちらの手の内を見れて喜んでいる節すらある。
「おらどうした?さっきまでのアホダンスはよ?」
舌打ち混じりで挑発すると、今度はブリガンテ達の何かが切れたようで武器を構えた。ニジリニジリと迫りながら攻撃のタイミングを探っている。
「どした?ほれ、Come on!Come on!ビビってんのか猿ども!それとも口だけ表現だけの弱虫小猿かい?」
『ウキキ・・!!ウッキィ!!』
『ウキ!ウキャキキ!!』
完全にこちらの術中に落ちている。もうこいつらは俺から視線を離せないだろう。実は言わなかったがひとつだけ攻略法がある。
こいつら自分で煽るくせに煽り耐性が意外と低い。なので少し煽れば釣れるのだ。あとは釣って針に掛かったこいつらを”他の奴ら”が網ですくい上げてやればいい。特に『桜奏呼吸』込で煽れば効果は絶大。
さらに都合よく俺を危険視してくれれば他の奴らに目が行くことは少ない。
そしてだ。『義賊ジョブ』は元を辿れば『盗賊ジョブ』へと繋がる。隠密行動や影討ちなどを得意とする『密偵』『暗殺者』というジョブの大元となるジョブにだ。
「成敗ッ!」
「天ッ誅ッ!!」
『『コッキャッ・・・・!!?』』
背後に忍び寄ったミラファとシアがその首にナイフを突き刺し抉る。同時に蒼牙・ラビット・昼行灯の残り三名が動き出す。
蒼牙はシアが天誅を下したブリガンテヘ、ラビットはミラファが成敗した方へ、昼行灯は弓を構えて二匹の足を貫く。
迫る二人と入れ替わるように後退し、昼行灯のとなりに並び立つ。そして支援を開始する。
「『星読み』開始『流星』よ彼らへ」
ミラファ、シア、蒼牙、ラビット全員へバフを回していく。後方待機していたギンも妖術による援護を加減無しに行っていく。勝負の結果は言うまでもないだろう。
そもそも首に一撃貰った時点でブリガンテ達に勝機も逃走の隙もなかったのだ。
――――◇――――
「今までで一番戦いやすかったまであるんですけど・・・・」
無事にブリガンテの一団を討伐して、最初に言われたのがそんな言葉だった。と言っても俺が手を出したのは最初の二体だけで他は特ににもしていない。
いくら首に一撃受けたとしてもその程度でブリガンテは簡単に討伐できる相手ではない。それでもあっという間に討伐したということは彼らの実力がそれだけ高いということだ。
「わっふー!わっふー!!わわわっふー!!シアの剣☆〜シアの武器〜シアのミラクルシューティング〜おかえりおっかえり〜!!」
「・・・・・喧しい」
「へっへーん!蒼くんに何言われても今のシアは止〜まらっな〜い〜のっ!!」
「ご機嫌ばりチョーじゃん?」
奪われた武器が帰ってきたことでとてつもなく機嫌がいいシア。こういうのを見るとリアルハードモードの時から大分変更されたんだと実感する。奪われた武器が倒すだけで戻ってくるとか最高だな。普通のゲームなら普通なんだろうけど。
「アールさんなんか保護者みたいな顔してますよ?」
ラビットに言われて確かに柔らかい顔つきになっていたかもしれない。実際見ていて微笑ましいと思うような光景だし。
「んなっ!!?も・・もしかしてアールさんはシアのお父さんだったんですか!!?なんだよ〜お父さんってばシアのこと心配だったのかなぁいたぁ!!?」
「アホか、さっさと進むぞ」
馬鹿にチョップをお見舞いして先へと進んでいく。今回のターゲットはリッチモドキなんだからブリガンテを倒しただけで満足してはいけないのだ。目標であるカースサイスリッチを求めて森の奥へと進んでいくのであった。
――――◇――――
『『ウキャッキー!!』』
また出た。これで遭遇は早くも13回目で56匹目。なんだ?最近は猿の大量発生でもしてんのか?しかも皆大体『奪われた武器』持ちだし挑戦者多すぎるだろ。別に悪くはないけど。
「皆行くよ!」
ミラファの掛け声で始まるブリガンテとの戦闘。前衛は蒼牙と昼行灯のアタッカーと回避盾が突撃する。シアとミラファは追加効果の付与を開始、ラビットはいつの間にかブリガンテの後方に回り込みアイテムを盗もうと動いている。
後方に位置しているのは俺とギン。『仁義組』には既にギンの妖術でブリガンテ対策は施してある。俺抜きでのブリガンテ戦を想定した戦い方をするという訳でこうして、7戦目までメイン盾していた俺はこうして後方へと回ることになったのである。あと、万が一何かあったら救援係。
彼らの戦いは二人一組で一体のブリガンテを相手するツーマンセル。ラビットは基本的にアイテム使用だったり、相手の行動妨害による味方支援を主とする戦闘スタイルだ。
シア蒼牙組は双方の武器がブリガンテをかち合い火花が飛び散る。剣を振ればブリガンテ回避、回避したところに追い打ちをかけるようにもう一人が迫ると、ブリガンテがその身体能力に物言わせてとんでもない機動でそれを回避、同時に迎撃までしてしまう。
しかしブリガンテに攻めることを許さない攻めの手数は流石の一言である。
一方ミラファ昼行灯組は、逆に昼行灯がブリガンテに責めさせて隙を作ってはミラファが攻撃。回避されるもののいい感じで戦闘が組み立てられている。
『ウキャキャキー!!』
『ウキッキ・・ウキャ!!?』
「『アイテムスナッちおいたぁ!!?」
攻撃範囲から抜け出し、煽り行動をしようとするとラビットがすかさずアシスト。持っている武器を奪おうとするがそこはブリガンテ。奪われる瞬間に気づきラビットを殴り飛ばした。
顔面のモロ入った二匹の張り手。追撃に移ろうししたブリガンテ達に再びミラファ達が迫り交戦を再開。
「癒しの焔『紅焔』」
「『星読み』開始『流星』よ彼の者へ」
ギンがすかさず妖術でラビットを回復、俺は連続して『星読み』と『流星』を発動。前線で戦う彼らへの支援を続けていく。
『星読み』はステータスをランダムで上昇させ、『流星』はASに似た今戦闘限定で特殊な効果をランダムに味方プレイヤーへ付与する支援魔術。
毎回何が出るかはわからないが確実に味方支援になることだけは確証されている。運がいいと『獲得EXP100倍』とか『戦闘終了後、戦闘参加者全員に獲得EXP10%分のSP獲得』とかレベル上げ、ステータスアップなどにかなり嬉しい効果も得られるのだ。
勿論滅多にでないのでそこは運がよければだな。
ちなみにこう言った特殊効果を得られる能力を有しているのは他にジョブ『踊子』の専用スキル『空の舞』と、ジョブ『巫女』専用スキル『天啓』があり、これもまた確率だという。しかしこの二つのジョブ、前衛無しでは戦いにならないらしいのでパーティーメンバー必須らしい。
「おおお!!!?『全員へEXP5%分SP獲得』きましたぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
マジかよ。ラビット運良すぎじゃね?
それを聞いて勢いづいたのかミラファ達の動きが変わる。義賊の専用スキルには与えたダメージの何割かを獲得EXPに追加するもの『専用スキル『斬組』』というものがある。ダメージ量は少ないらしいがレベルアップにはかなりありがたい為重宝されるらしい。
そして今回はそれが直結して獲得SPを増やすことに繋がったのだ。やる気が大きくなるのは当然だった。
「全員最低20は当てるよ!!」
ミラファの号令と共に果敢にブリガンテ責め立て始める。勢いに飲まれたのかブリガンテ達は若干動きが鈍っている。それでもキッチリと防御、迎撃しているのは流石である。
その数分後、無事にブリガンテの討伐が完了し、SPを52も獲得できたのであった。
――――◇――――
「マジパネェっすわwwwアールさんマジアールさんっすわ」
「つまりどういうことだよ?」
流石にあの後レベルアップやSP獲得系の効果は出なかったのだが、彼らとしてはホクホクだった。奪われた武器も35個手に入れた。皆チャレンジャーすぎるだろ。というか軽く35人奪われた人がいるってだけでなんか可愛そう。
「でも出てきませんね、リッチ」
「ってかさっきからシア達猿にしか会ってないよね?アールさんこれなんかの予兆ありげ?」
そうなのだ。さっきからブリガンテしか見ていないのだ。カマキリとか猪とか狐とか。他にもいるはずなのに全く見ないのだ。
「可能性としてはブリガンテの縄張りに入ったか、もしくは・・・あいつが出たかだな」
「あいつ・・・とは?」
「ブリガンテの特殊個体『ブリガンテ・レプラ』。コイツは異常に弱いんだけど、コイツがいるだけで他のブリガンテ達が凶暴化するクソめんどくさい奴。けど今までのブリガンテ達はいつも通りだったからその線はないな」
凶暴化したブリガンテは煽り行動をせず、ただひたすらに攻めてくる。その為逆にやりやすくはなるのだが、一度ペースを崩されるとそのまま集団リンチにされるので危険である。しかも一つの群れが大体8~12匹程度で固まっているので戦闘になるとクソ大変である。
「色々いるんですね」
「滅多に出てこないけどな。と言うか多分条件満たさねぇと出現しないはずだ」
「・・・・・それは?」
「ブリガンテ累計討伐数200以上」
あくまで俺の経験論だから何とも言えないけど。ただ200匹毎にブリガンテが凶暴化してたから多分それくらいだろう。こっち(プラクロ)では多分修正されているとは思うから300か400くらいには修正されてんじゃないのか?知らんけど。
「因みに討伐報酬とかあるんの?」
「擬似真化武器確定ドロ」
「うっわ・・・広まったら確実に猿刈り始まるね」
シアの言うとおりである。真化武器は現在入手がかなり限られている為確定泥で入手できる方法があるなら間違いなく飛びつく。と言うか現状ミラファがリッチそっちのけで倒したいと目で訴えてきている。
「言っとくけど普通のブリガンテ片手間で倒せないと凶暴化したブリガンテに一瞬でひき肉にされるから戦い慣れてから挑むことを念押ししとくぞ?」
「でもアールさんなら余裕ですよね!?」
「・・・・・言っとくけど高いぞ?」
ミラファめ、簡単に言いおる。否定はしない。と言うかそれで躓いてたらドラゴン討伐とか詰むし。でも流石にこの森に数時間滞在してひたすら猿狩りとか誰かの為に無償でしたくない。依頼として出されたら勿論やるけどそうじゃなかったら絶対にやらん。自分の為とかなら喜んでやるけど。
「じゃぁ今後依頼しますので!その時は是非!!」
「はいはい・・・その代わり同行しろよ?」
出来れば暇なときに来てくれるとありがたい。
―――――loooooooo・・・・・
そんな時森のどこかから歌声のような音が聞こえてきた。そしてざわつく森。続々と森の住民たちがその声に応じて何処かへと向かっていく。信号灯が上がり、マーガリンからメッセージが届いたのも全く同じタイミングであった。俺たちは上がった信号灯の方向へと駆け出した。
――――◇――――
既に俺たち以外の参戦者は合流し、リッチとの戦いに臨んでいた。振るわれるふた振りのサイスを盾で防御、もしくは己の武器で防御しながらリッチとの距離を詰める。しかしそこに介入する蟷螂や狐に阻まれて攻撃は届かない。
リッチは再び『支配聖歌』で森中のモンスター達をかき集め支配下においていく。対策の結果もありプレイヤー側からリッチに支配された人はいないようだが、モンスターの数が多くてかなり苦戦を強いられている。
「では皆さん!作戦通り私たちはリッチ以外のモンスターの相手です!基本は二対一を作りながら確実に数を減らします!相手の方が強い場合は無理せずに近くの人と合流を!『仁義組』散開!!」
前衛三人。遊撃三人。
仁義組の基本スタイルによるモンスター各個撃破。俺はラビットと組んで敵の数を減らすのが役割、同時に戦闘指揮の為リッチの周辺にいる雑魚の相手をすることになる。
「ラビット!無理すんなよ!」
「はい!無理だったら逃げます!」
「それでいい!!行くぞ!!」
シロマサ達が蟷螂相手に苦戦しているところへ駆け込み一気に間合いを詰める。丁度カマキリの鎌は相対していた天サジに回避されており攻撃するには絶好のタイミングである。
「『星波ピスケス』!」
その土手っ腹にミサイルキックを叩き込みその衝撃で内蔵を破壊する。カマキリの体がくの字に曲がり動きが鈍る。その隙を逃さずに天サジがその拳を頭に叩き込んだ。殴られたカマキリの頭が同時に爆発。カマキリはそのまま光となって消滅していく。
「悪い遅れた!!」
「寧ろナイスタイミングですアールさん!!」
「アールさん戦闘指揮お願いします!!ウチのメンバーだけでも結構大変なんです!!!」
シロマサとマーガリンに相槌を打ち、周辺の状況を確認する。リッチと戦闘中なのは入れ替わりながら平均6~8人、その内モンスターに阻まれてそちらに移るのが3~5人、シロマサは他のクラン団員の支援を受けて常にリッチと戦闘中。
他は移り変わりながらリッチと集まってくるモンスターを倒している。大体わかった。ならば・・・
「シロマサ・ライトニング・アルトりす・オルガン・銀狼!お前らはリッチに専念しろ!!他メンバーはそいつらの援護!!絶対に雑魚をリッチに近づけさせるな!!ライトニング!!回避しながら出来るなら喉を集中的に狙え!!シロマサはリッチの攻撃を可能な限り抑えろ!!!アルトりす!!何も考えずに突っ込め!!オルガンは常に感情抑制系のバフが掛かるように2分毎に支援!!銀狼はその時の援護!!それ以外ではとにかく攻撃を当てろ!!」
「「「「「「了解!!」」」」」」
アルトりすには大物を当てたほうがおそらく本来以上の実力を発揮すると見た。オルガンは同じクランメンバーである為戦い方を知っているはず。
事前の会議でもある程度感情抑制の支援魔術は使えると言っていたこと、そしてカースサイスリッチ戦では、常に感情抑制を入れておかないと一瞬で支配されて覆されることを考えれば常に支援を入れる立場の人間は必要だ。
ライトニングは回避盾兼コア破壊担当。見ていた限り三次元機動を器用に行っていたから最適なはずだ。銀狼はその手数の多さで回数攻撃担当。コアを炙りだすにはそれが一番だ。
―――――◇―――――
『リッチとの戦いだがメインメンバーはその時によって変えるつもりだ』
『アールさん。それだと連携とか取れないんですよ?流石にその場のメンバーで即席パーティーだと色々ありますし』
『それでいい』
『はいぃ!?』
『リッチは戦い方を常に変える。それこそその戦いの中で一番最初に倒すべき相手を判断できるくらいにはな』
『それなら尚更固定メンバーの方が戦いやすいんじゃないの?』
『逆だ。不完全な連携の方が普通のリッチ相手なら都合がいい。そのメンバーで長い時間戦い続けられるからな』
『それなら単純に戦闘メンバーをスイッチしたほうが早くないです?』
『普通に考えるとその通りだ。でもな?あいつは人と同じで学習する。予測するんだ。一度メンバーを覚えさせるとほかを全部ぶん投げて優先度の高い相手、おそらく今回なら支援ジョブを優先的に狙ってくるはずだ。理由は言わなくてもわかるだろ?』
『まぁ・・・』
『大事なことはリッチ”にパターンを覚えさせない”ことだ。一度覚えさせたら同じ戦い方は通じない。ブリガンテ戦をよりめんどくさくした奴があのリッチモドキだ』
『・・・・・』
『臨時メンバーだからこそ出来ることもある。何かあれば責任はとるから今回はそれで戦ってみてもらえないか?』
『まぁ現状じゃ勝てないしいいんじゃないですか?仁義組はいいですよ?』
『元々無所属集団だし構わないよ』
『うっし!ウダウダ言ってても仕方ないか!ウォーリアーズもその作戦乗ります!』
『電卓騎士団もお任せします』
『ありがとう。それじゃぁいっちょ亡霊駆除と洒落こもうか!』
―――――◇―――――
『Whiiiiiiiii!!!!』
「ウオォッ!!?いきなり叫びが変わった!!?」
「ライトニング下がれ!!!昼行灯!!ライトニングとスイッチ!!狙いは後ろからの太もも集中!!支援ジョブ持ち全員聞け!!!!感情抑制から変更してエリア指定の状態異常回復フィールド展開維持!!!!!総員!!リッチのブレスが来る!!当たれば支配されるから絶対に受けるな!!避けきれないなら状態異常回復エリアに避難しろ!!上に逃げるなら最低でも30秒は上空5m以上を維持し続けろ!!」
リッチのコアに攻撃する事22回目、ついにリッチの行動が変化。両肩についている龍種の顎が不気味に光りだす。その口からは瘴気を吐き出し始める。
感情抑制とかおそらく貫通してくるリッチモドキの瘴気ブレス。猛毒でありながら尚且つ受けたものを支配するえげつない効果持ち。この行動中はあらゆる攻撃が無力化する為、雑魚を無視してでも回避しなければいけない攻撃。喰らえばそのまま瀕死からの恐怖支配で状況がひっくり返される。
リッチはゆっくりと浮かび上がり両腕の顎は吐き出していた瘴気を吸い込み始める。その両腕がプレイヤーのいる地表へと向けられた。
「ブレス来るぞ!!!!!」
「「「「「『エンジェリックシンフォニー!!』」」」」」
「ギン!!掴まれ!!」
「のじゃ!!」
『Whiiiiiiiilaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!!!!!!!!!!』
支援ジョブ持ちのエリア異常状態回復魔術『エンジェリックシンフォニー』が戦闘中の各所で展開。多くのプレイヤーが避難すると同時にブレスが戦闘エリアに降り注ぐ。俺と同じように空中へと飛び上がるプレイヤーたちからはその瘴気が広がる光景を目の当たりにする。
地表に落ちたブレスはそのまま波となって大きく広がっていく。回復エリアを展開した場所はその効果から何とか瘴気の影響を逃れられている、だがリッチに支配されたモンスター、そして回避しきれなかったプレイヤーが数名、ブレスの起こした瘴気の波に飲み込まれた。
聞こえるのはモンスター達の悲鳴とプレイヤーの恐怖の叫び。そして猛毒による体の侵食と汚染。さっきまで森だった場所が瘴気に包まれて死の森へと姿を変える。
「む・・・惨すぎるのじゃ・・・」
木々は枯れ、徐々に見えてくる地表には汚染され液状化した瘴気の沼が出現。その沼から立ち上がる毒々しい瘴気がその被害をみせつけた。
「ギンしっかり捕まってろよ!」
「うむ!!」
ギンを背中に背負い、クソリッチモドキの方を向く。ちょうど奴はブレス攻撃を終え、次の標準を空中へ逃げた俺たちを標的としていた。だが二回目のブレス時には顎への攻撃が通る。
「超越流派十二宮奥義『天雷進瓶ドラグレイエリシオン』!!!」
『・・・・・!!!!!!????』
ブレスが発射される瞬間に俺のミサイルキックが炸裂。顎にすっぽりと飲まれるようになりながらその中の両手を捉えた。リッチは怯むことなく即座に俺の両足をその手で掴んだ。
「『星脚アクエリアイシス』!!」
『っ!?!?!!!』
そのまま開脚しながら蹴りをお見舞いすると、ゴリュッと嫌な音を立てて両腕の顎が砕け散る。同時に溜まっていた瘴気がリッチへと逆流し、さらに今の攻撃で両腕があらぬ方向へと曲がり苦しみ出す。
「ギン!!」
「任されよ!!」
背中のギンは俺の肩に手をかけながらを大きく宙返りし、上から下へと回る。その手には既に抜かれたギンの愛刀を構えながら。
苦しむリッチが慌てて逃げようとしたがもう遅い。逃げる前にギンの刃がその首を掻っ切る。
「超越天匠流奥義『天津雀:二式』!!」
俺の『天津雀』をギン流にアレンジした新しい天津雀。『十六夜天雷』を妖術で補完することで身体強化、その後放つ峰打ちの連打。その全てを首へと叩き込んでいく。
ゴリゴリと石臼でも動かすように鈍い音が響き渡り、顎破壊により一時的に実体化したコアの影響でその首が削られていく。
喉を砕くなら斬撃より打撃。そして打撃において言うなら俺よりもギンの峰打ちの方が上だ。
『!?!?!?!?!?!?!?!!!』
喉を砕かれたことによりダミ声のような空気が漏れる音しか出せなくなったリッチモドキ。徐々に瘴気が晴れていき、支援魔法持ちが瘴気を吹き飛ばしたり、エリアを浄化していく、一部支配されたプレイヤー達も他のプレイヤーによって解放(瀕死に)されたりして徐々に戻り始めている。
「総員聞け!!アンデット化したモンスターの撃破を優先!!リッチはヴァンレイ・天サジ・トリスたん・胡座ウェイ・蒼牙で攻めろ!!防御はいらん!!喉は砕いたから遠慮なく攻め立てろ!!!」
後注意すべきはふた振りのサイスによる攻撃と憑依のみ。憑依は可能性としてあるが確率は低い。ブレス攻撃をした時点での憑依する可能性は殆どない。ならあとは前衛が絶え間なく攻撃し続けて押し込むのが得策だ。
「という訳で落ちろ亡霊!!」
「超越天匠流奥義!!」
「「『神斬雲雀』!!」」
砕けた両腕に叩きつける二つの刀『天籟刀ズイカク』『九尾刀:天照』の一撃が浮かぶリッチの体を地面へと叩きつける。
リッチが叩きつけられた地表では既に戦闘準備を終えていた彼らがリッチ目掛けて突撃していた。ギンは再び器用に体を入れ替えて俺の背中へと移っていた。
「ここからどうするのじゃ?」
「あとはほかの奴らに任せるよ。ああなればもうブリガンテとある程度戦えるアイツ等なら問題なく倒せるよ」
言葉の通り、リッチは喉を潰され、両腕を曲げられたダメージからサイスによる攻撃が鈍っている。それでも早いのだが責め立てる五人はそんな攻撃を物ともせずに回避してそれぞれ攻撃を叩き込む。臨時パーティーによる不規則な攻撃が冷静さを失ったリッチの思考を鈍らせる。
一人見切っても全くタイミングが違う残り四人に対処が追いつかない。
だが五人は違う。臨時パーティーといえど互いの戦い方くらいは知っている。あとはそいつらに被らないように攻撃を繰り出せばいいだけ。
それを見ながら地面へと着地、近くにいたアンデット化した狐を切り払う、ギンは後ろから襲いかかってきた猪の首を峰打ちでへし折っている。
「メンバーチェンジ!!電卓騎士団でリッチを攻め上げろ!!カトレア!宇治抹茶風味添えと組め!!60秒後にタンクウォーリアーズと一緒に一気に仕留めに行け!!」
リッチの思考が追いつく前に即座にメンバーチェンジ。規則性がなかったメンバーから互いに知り尽くしているクランパーティーへと変えてリッチの思考をさらにかき乱す。
前衛のアルトりす始めとする三人が攻めて、遊撃のトリスたん、マーガリンによる弓と魔術による攻撃、オルガンは絶妙なタイミングでの回復とデバフで確実に攻撃を援護する。
「狙い撃つわ!!」
顔に出現したコアを打ち抜くトリスたんの矢。その一撃が今まで無傷だったコアにヒビを入れる。焦るリッチは考えるのをやめて、パチスロット達を振り払い、コアを射抜いたトリスたんへと迫る。だがそれは”予測済み”だ。
「シロマサ!!!」
「ガッテン!!!」
アンデット化したモンスターを吹き飛ばしリッチの進路へと入り込むシロマサは、その巨大な盾を構え、リッチの振るったサイスの柄の部分をパリィ。
大きく開かれた胴体への進路にはそれぞれの武器を構えたカトレアと宇治抹茶風味添え。二人は飛び上がりリッチの肩へと剣を突き立てる。そのまま以前リークとレイレイがそうしたように胸元を突き出させるように大きく左右へと引っ張った。
そして同時に再びコアが出現。狙ったように突き出された胸に出現した。おそらくコアへのラストアタックだ。確実に決めてもらうならば・・!!
「「ラストアタック!決めろハルト!!!!」」
「『天衝十字撃』!!!!!!」
俺とシロマサの声が重なり、シロマサの上からハルトの蹴りが炸裂し、リッチのコアがついに砕けた。
『━━━━―――!!!!!!』
声にならない悲鳴を上げてリッチは最後の意地を見せる。その声に怯んだプレイヤー達の間を縫うように駆け抜けて俺の元へと迫る。せめて最後に俺を道連れにする魂胆だ。けど甘い。
「やれ、シア」
「うおっしゃぁ!!!!」
振り上げた腕が振り下ろされることはなく、背後から迫ったシアの短剣がその体を貫く。
「天誅☆!」
貫かれ、ゆっくりと地面へと崩れていくリッチへと決め台詞を決めたシアがそのラストアタックを決めたのだった。
――――レイドモンスター『カースサイスリッチ』を撃破しました。
――――参加者30/30 人
――――レベルアップ!アールはLv55になりました。
――――SP15を獲得
――――『UtS:師範代』『UtS:五代目剣聖』の効果発動。
――――『UtS:星の魔術回路』のレベルが上昇、『星の魔術回路Lv4』
――――◇――――
「それでは!!カースサイスリッチ討伐お疲れ様会!!はじめます!!かんぱーい!!」
――――カンパーイ!!!!!
アクシアの町外れで行う総勢30人の大宴会。ブリガンテ撃破もあり大量のDも獲得したためBBQをこうして行う運びとなった。
各自が自慢の素材を持ち寄って好きに焼いて食べる。自由気ままな大交流会である。
「ギン。お疲れ様」
「お疲れ様なのじゃ、師匠」
アクシアの地酒をいっぱいに注いだコップで乾杯しクイッと喉に流し込む。すっきりとした辛さがすっと抜けて行く。後味もすっきりしていて酒が進んでしまいそうだ。
持ち寄ったのはエーテリアで仕入れた海鮮、特にガンドロックキャンサーの腕は絶品である。この腕がうまい。醤油よし、マヨネーズよし、そのままでも勿論よし。酒に合う。炭火の上で美味そうに焼けたカニの身を一口、その後にクイッと酒を流し込めばこれがまた最高である。
「カァー!美味い!」
「クゥー!美味い!」
ほぼ同時に同じようなリアクションを取った俺たち、互いにお猪口から酒が消えていた。日本酒の一気のみは本当に危険だからやっちゃダメだぞ?
自己責任取れるなら止めはしないけど、後悔しても知らないからな。酒を飲む時はちゃんと水も飲むのを忘れない。これが大人の飲み方である(持論)。
「おつかれっしたアールさん!!」
「おっす昼行灯、飲んでんの?」
「シャンディガフっすwwかわいっしょ?」
ホントにな。片手にジョッキ、もう片手には骨付き肉を持った素晴らしいスタイルである。しかも笑顔が本当に眩しいのである。
「今回はたくさんアールさんの動き見せてもらっていい経験っした」
「こちらこそ楽しかったよ。けどそう簡単に見切らせはしないからな?」
「いやいやわっかんないっすよwww?俺の自慢は見切りっすからアールさんの動きも見切っちゃいますよww?」
「コイツめ言いおるではないか、ならこれでも喰らえー」
「カニあざーす!!んじゃ俺も肉爆弾投下www」
焼いていたカニの腕を分けると交換で骨付き肉をもらった。そしてそのまま他のプレイヤーの下へ向かっていった。しかし俺も現状に満足してられないな。もっと強くならねぇと。
「いたー☆!!アールさん発見!これより突撃―!!」
「させぬぞ〜?」
「うにゃぁ」
突撃した来たシアがギンに捕まって撫でられている。本人たちは楽しそうだ。その後ろからはミラファとラビットがやってきた。
「お疲れさん」
「お疲れなのじゃ。今回は世話になったのじゃ」
「お疲れ様でしたアールさん、ギンさん。今回も色々とお世話になりました」
「お陰で色々ゲットです!これはお裾わけです」
ラビットが網の上に置いたのはうまそうな筋の入ったステーキ肉。脂が凄い。
「シスフィール付近に生息している龍牛の肉です。絶品なので是非どうぞ!」
「「おお・・・!!!」」
ジュージューいってらぁ、めちゃくちゃ美味そうだ。これでビール飲んだらうまそうだ。いや、ワインの方がいいか?
そういえば蒼牙の姿が見えない?どっかに居るのか?
「なぁ?蒼牙は?」
「あぁ、蒼くんこういうの嫌いだから来ないんだよ☆ ただ伝言あるよ?『もっと強くなってお前を倒す』だってさ!」
なんというか始めて会った時のあいつも同じようなこと言ってたっけ。そう考えるとらしいといえばらしいな。
「確かに伝言受け取ったよ。ところで何飲んでんの?」
「私たち未成年なのでジュースです!」
「なんちゃってシャンパン☆彡!!」
「っ!」
ラビット無言のグッジョブに思わず笑えてくる。そっか、未成年だったのか。ならたくさん焼いてやろうか。
「おっし!ならお兄さんが色々焼いてやろう。皆の者心して食すが良い」
「やったー☆!私カニ食べたい!!と言うかこのカニ食べちゃう!!」
「あっ!!シアちゃんずるい!!」
「ほれミラファよ、これもうまいぞ?」
「〜〜〜っ!!!!なんですかこれ美味しい!!!」
「ワームシャークステーキじゃ」
「サメーっ!!?でも美味しい!!」
――――◇――――
「満腹満腹!シア大満足!」
「コヤツ用意した物ほぼ全部食べた・・・じゃと?」
大食感じゃねーか。俺らも気持ちいいように食べるシアを見てどんどん焼いたけどまさか全部食べるとは。
「いやぁー私たちまでこんなにご馳走になっちゃって・・・良かったんですか?」
「いいいい気にすんな。拠点がエーテリアだからこのくらいは何時でも手に入るし、クランホームの保管庫にまだ結構素材眠ってるんだよ」
「っじゃぁ!!今度また食べに行く!!」
シアの胃袋はどうなってんだよ。となると今度七輪でも作ってみるか?焼き台よりも多分そっちの方が美味そうだし。
「おろ?」
「ん?どうしたのじゃ師匠?」
「瓶空いたなって思ってよ」
いつの間にか一升瓶が空っぽだった。ちょっと飲みすぎたな。ちょっと肝臓休めに水でも飲むか。
「アールさん。ギンさん。それに仁義組の皆さんもお疲れ様でした」
水の入ったピッチャーを持ってやってきたのは今回のレイド戦のまとめ役シロマサである。若干腹が膨らんでいるからかなり食べて飲んでしてきたみたいだ。
「おぉ☆シロマサさん!!乙乙!」
「お疲れシロマサ。それ水ならもらえるか?」
「どうぞどうぞ」
コップに水を貰いぐいっと飲む。冷たくて美味い。体に染み渡るわマジで。
「今回は来てくれて助かりました。まさか戦い方一つでこんなに変わるとは」
「俺も経験でしか言えないからあんま偉そうなことは言えないけどな?でもこんな感じの奴は結構いたからこんな戦い方もあるって覚えてもらえたら嬉しいよ」
「ナハハ・・流石に瞬時に味方戦力と敵戦力把握してメンバーチェンジ繰り返す戦いはそう簡単にいかないですって?」
「そこも含めて頑張れよ?頼れるタンクお兄さん」
「もぉー!このこのー!そうやって人の事乗せるんですから悪い人ですねぇ?」
そんな感じでシロマサと他愛ない会話をしながら時間は過ぎていったのである。
――――◇――――
「師匠。改めてお疲れ様じゃ」
「お疲れギン。酔っ払ってないか?」
「舐めるでない。妾はこれでもザルじゃ」
「おっおう・・・・ってことは瓶開けたのお前だな?」
「うむ!美味しかったのじゃ!」
「んにゃろー」
「・・・・良かったのじゃ」
「???」
「”あんなこと”があったから他の時代人と上手くやれるのか心配だったのじゃ」
「ばーか、そんなこと弟子のお前が気にすることじゃないよ」
「弟子は何時でも師匠のことが心配なのじゃ。それに助けになりたいものなのじゃよ」
「・・・そうだな。俺もその気持ちはすごく分かるよ」
「あんな美人が師匠の師匠じゃからな!男児はああいった美人に弱いのであろう!」
「いきなり怒んなって。ギンだって美人だよ」
「・・・・誑し」
「ほっとけ。それよりどうする?もう少し飲みたいなら付き合うぞ?」
「・・・・・今夜は覚悟するのじゃぞ?」
「上等」
朝までギンと飲み明かした翌日。リークとレイレイも加えて二日連続で深酒することになったのである。
俺?泡盛ロックで飲んで次の日残らない酒豪だと自負してるから全然平気だったぞ?それに飲み方も色々勉強済みだからバカみたいに飲んでた訳じゃないからな。
程々が大事だ。