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プロローグ

 ベルクト王国は、二つの大国に挟まれた大きくもなく小さくもない国。

 昔は広い国土に豊かな資源を持った大国だったのだが、あっちにけずられ、こっちに獲られで今の姿に成り果てた。

 現在のベルクトの自慢といえば、

 古くから続く歴史と受け継がれてきた伝統。

 まあまあ豊かな自然。

 そして美しい四人の姫君。

 この国の姫君は十六歳の誕生日を迎えると、王族の女性として一人前と認めらる。その際に行われる盛大な式典では、姫君が国王からティアラを受けて成人の儀完了となる。

 普段はベールで隠して身内や近しい人以外には顔を見せない姫君が、この儀式からは公式な場で顔を見せるようになるのである。

 そして、この儀式を一年と数か月後に控えた姫君が一人。

 第四王女のエデルトルート・フィーナ・ベルクトである。


「それで?」

 少女の不満そうな声が、静かな謁見の間に低く響く。

 まん丸と大きな空色の瞳の奥に怒りの炎が見えるようであった。

「それでって……姫の成人の儀のティアラのデザインについて相談をしようと」

 国王は少女がなぜ怒っているのか分からないという顔をして首を傾げた。

「ティアラのデザイン? どうしてそんなものの相談をする必要が?」

「それはあと一年と少ししたらお前の成人の儀だからだろう」

「陛下」

「陛下などと呼ばず父上と……」

「国王陛下」

「……いやだから父――なんだ?」

 ひと睨みされ、父上呼びを諦めた国王は彼女の次の言葉を促した。

「俺は姫じゃありません。王子です」


 そう、この少女――少年こそがベルクトの「第四王女」エデルトルートなのだ。

 国王は姫の発言に一瞬固まり、辺りを見回した。幸いこの場には事情を知っている、第一王女のアンとエデルの婚約者である侯爵子息アレクシス・ハイゼの二人しかいなかった。

「姫、じゃなくてエデル、だからそれはな」

「魔女の呪いの話をいまだに俺が信じてるとでも!? 十六歳の誕生日に糸車に指刺して眠りについて王子のキスで女に戻るとか――ないから! つーかあってたまるか!!」

「ああ、そうだな婚約者おれがいるのに王子とキスはないな」

「そこは今はどうでもいいから」

 アレクシスはさらりと流されたことを気にもせず、「ごめん、ごめん」と微笑んだ。 

 エデルは大声を出した際にずれた、ベールのついた帽子を押さえつけ直すと一息ついた。

「エデル、父上はあなたのことを思って姫として育てたのよ。決して、大国の貴族の娘で正妃である母上とその親族が怖いから、側室の子であるあなたの性別を偽ったわけではないのよ」

「明らかにそれが理由じゃないですか、アン姉様」

「仕方がないのだよ、王妃との間には姫しかいない。もしお前が男だと知れたら命が狙われる可能性があった。もしお前に何かあったら私はお前の死んだ母にあの世で会わせる顔がない」

「息子に女装させてても会わせる顔はないと思いますけど」

「エデルは似合っているから問題ないと思うよ」

「だからそこは今はどうでもいいから、アレク。あと全然似合ってないから」

 無駄に整った顔で優しく微笑まれ、エデルはいちいち突っ込みをいれることが馬鹿らしく思えてきた。

 イケメンの無駄遣いめ。

「確かに今更王子だって明かすのはどうかと思いますけど、このまま姫として成人の儀を迎える方が問題ありませんか?」

「しかし……」

「大体、母上の親族が怖いと言っても、母上自体は俺が男だって知っているんですからそれほど問題ないのでは」

「な、なぜ王妃は母上呼びなのに、私は陛下呼びなのだ!?」

「母上がそう呼べと」

「どうしてお前はいつも王妃の味方なんだ!? 血の繋がった親は私の方だというのに!」

「俺を育てたのは母上と乳母やですから」

 無表情で言い切った息子に、国王はがっくりと肩を落とした。

「エデル、そろそろ約束の時間だよ」

「ん? ああ……じゃあ今日はこのへんにしとくか。陛下、俺の話忘れないで下さいね!」

 念押しした後、ドレスの裾をつまみ一礼。こういうことを自然にしてしまうあたり、姫教育が染み付いてしまっていることがよく分かる。

 アレクシスも一礼するとエデルの後に続きこの場を後にした。

 完璧な身のこなしで去っていく息子の後ろ姿を見ながら、

「あんなに完璧に姫だというのにな」

 と国王は深く深くため息をついた。

「ええ、完璧に可憐で愛らしい『妹姫』だと思いますわ」

「前まではあんなこと言わなかったのに突然どうしたというのか」

「あの子はあの魔女の呪いどうこうの話を十くらいまでは信じていましたから。けれど、嘘に気づいてからも特に男に戻りたいとこんなににはっきりと言ったことはありませんでしたものね」

「一体何が不満だというのか……」

「思い当たることがありすぎますけれど、一番の理由はおそらく」

「おそらく? 何だ」

 アンは国王の問いににこりと微笑み、扇を閉じ口元にあてた。

「それは秘密ですわ」



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