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姫の部屋

 蝶が翅の下かの光球を発射する。光球は《ダインスレイヴ》を追いかけ始めた。

「紅い個体はミサイルを装備しているの・・・⁉」

「注意してください!未確認飛行物体がミサイルらしきものを発射しました!」

 ツバサがアルトリア軍のパイロットに向かって叫ぶ。

 (・・・解ってるってばよォッ・・・!)

 《ダインスレイヴ》はフレアを散布してミサイルを躱す。

「照準レーダーを探知、私たちもロックされていますッ・・・!」

 人の心配をしている場合ではなかった。イルファたちの機体にも蝶が食らいつき、光のミサイルを放った。

「回避ッ・・・!」

 操縦桿を左に倒してブレイク。しかし、目の前には対空レーザーガンの砲塔が見えた。ぎょろりとレンズがこちらを向く。

「正面!レーザーの砲口がッ・・・!」

 耐熱性に優れるコスモシップのキャノピーでも、狭い範囲にエネルギーを集中させるレーザーには耐えられない。

「ジロジロ見るなッ・・・この変態がァッ・・・!」

 トリガーを引く。左主翼の付け根に搭載された三十ミリ機関砲から、オレンジ色のマズルフラッシュが迸る。秒速八六〇メートルの初速で射出されたタングステン弾がレンズを叩き割り、対空システムを破壊した。

 トリガーを引いたまま機首を上げ、さらに三門の砲塔を破壊する。そこに出来上がった火力の空白をついて《ダインスレイヴ》が通路に突入した。二匹の蝶は行かせまいと追撃するが、内部で反転した《ダインスレイヴ》にレーザーを照射され、穴の手前で撃墜された。

「無茶するわねぇ・・・」

 イルファはアルトリア軍機の後を追うが、残りの蝶が放ったミサイルが後ろに食らいつく。

「後方、ミサイル四ッ!来ますッ・・・!」

 ツバサが叫ぶ。イルファはその声に構わず穴に突入した。

 狭いトンネル中をジグザグに飛ぶ。ミサイルは《アスベルⅡ》の機動に追い付けず、壁や構造物にぶち当たった。ミサイルの起爆によって撒き散らされたそれらの破片は、トンネルに侵入してきた蝶たちを引き裂いた。

「敵弾も利用しないとね♪」

 イルファはツバサにウィンクした。

 前方では《ダインスレイヴ》が滞空レーザーを手当たり次第に破壊しながら猛進している。

「アイツったら、まるでイノシシね・・・」

 《ダインスレイヴ》の援護位置に着く。

「対空砲は破壊しないで避けて!弾を節約しなさい!」

 (・・・チェッ、親切のつもりだったんだけどな・・・)

「そういうのいいから、今は天体(これ)を破壊することを優先しましょう」

 (・・・りょーかい・・・)

 アルトリア空軍のパイロットの返事を聞くと、イルファはアフターバーナーを点火し、機体を更に加速させた。

「中尉、燃料が・・・」

「時間は無さそうね・・・早いところ片付けて、基地に帰りましょう・・・」

 最小限の動きで対空砲を避けながら、二機は天体の深部に向かった。

 *

 鬼太郎の目の前に防爆壁のようなものが現れた。

「発射ァッ・・・!」

 レーザーガンで壁面を溶断し、そこに短距離ミサイルを撃ち込む。爆風で断片は吹き飛ばされ、爆煙の中に穴が現れた。

 爆煙を突き抜けると、二機は大きな空間に出た。その中心部には発光する柱のような構造物がそびえている。

 (・・・ここが中心部のようね・・・)

 《アスベルⅡ》のパイロットが漏らした直後、彼女とは違う何者かの声が重ねて聞こえた。

 (・・・あそうぼう・・・)

 舌足らずで幼い、しかし不気味なほど冷たい声だった。

「誰だッ・・・!」

 声の主は鬼太郎の問いには答えない。ただ一言「おねえちゃんたち・・・あたしとあそぼうよ・・・」と言った。

 敵機接近のアラート。レーダースクリーンは敵機のアイコンで埋め尽くされた。

「・・・チッ・・・!」

 後ろを振り向いた鬼太郎は舌打ちをした。無数の紅い蝶たちが《ダインスレイヴ》に襲い掛かる。

「てめぇと遊んでるヒマなんかッ・・・!」

 《ダインスレイヴ》の真後ろで、蝶の放ったミサイルが炸裂した。爆風と弾体片が左のラダーを吹き飛ばす。それでも鬼太郎は柱の方に機首を向けた。

「ねぇんだよォッ・・・!」

 柱をロック。全ての中距離ミサイルを撃つ。しかし、弾着の直前に蝶たちが密集してミサイルを受け止め、柱を守った。

「このヤロオッ・・・!」

 鬼太郎は柱に突進するが、蝶たちがそれを阻む。ほとんどの武装を使い果たした《ダインスレイヴ》には、もはや逃げることしかできなかった。

 *

 イルファはアルトリア空軍機の援護に行こうとしたが、蝶たちもそんな余裕は与えてくれなかった。

「しつこいッ・・・!」

 どこかにぶつけてやろうと構造物の間を飛ぶが、蝶たちは難なく避けながらイルファたちを追う。

「このままじゃ、埒がッ・・・」

 蝶たちを振り切ろうと左右に旋回を繰り返していたとき、イルファの頭にある考えが浮かんだ。

「・・・そうかッ・・・!」

 この機体は推力偏向ノズルを装備している。それを最大限に活かせば・・・!イルファは無我夢中で操縦桿を手前に引いた。

 《アスベルⅡ》の機首が真上を向き、迎え角が垂直に近づく。空気抵抗が増し、イルファたちの機体は急減速した。蝶たちは唐突な《アスベルⅡ》の機動に付いて行けす、イルファたちを追い越す形になった。

「・・・遅いッ・・・!」

 機体を水平に戻したイルファは、反転しようとしている蝶たちに向けてレーザーガンを掃射した。レーザーに焼き切られたエンジンが次々と爆発する。

 これでイルファたちを追う蝶の殆どを撃墜することができた。残すターゲットは光の柱だけだった。

 (・・・おねえちゃん・・・あそんでくれないの・・・?)

 悲哀に満ちた声が聞こえる。

「ゴメンねお嬢ちゃん、もっと安全な玩具(おもちゃ)を持ってきたら遊んであげるよ・・・。だから・・・!」

 柱と対峙し、エアブレーキを開く。イルファは全ての武装の照準を柱に向けた。

「また今度ねッ・・・!」

 胴体下の二十三ミリガンポッド、中翼の中距離ミサイルを全弾発射。弾着と同時に柱は爆発した。

 (・・・おねえちゃんッ・・・!)

 少女の叫びがイルファの耳に押し込まれた。


―つづく―

謎の少女「クスィー」に関する設定

彼女は天体の中核コンピューターを住処とする思念生命体である。彼女は時間や空間を超越した超常能力によって鬼太郎たちを亜空間に呼び寄せ、《ダインスレイヴ》の火器管制に干渉したり、無人機に攻撃させたりして「遊んで」いた。今回のデモンストレーション・ストーリーに彼女を登場させたのは、時系列を無視して本編の登場人物を動かすための舞台を整えるためである。また、彼女をはじめとする思念生命体は本編において重要な役割を果たすため、原稿に先駆けて登場させた。

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