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共闘

「・・・壊して・・・ください・・・」

 携帯端末から消え入りそうな声が聞こえた。

「どうした緑竜、何を壊せって・・・?」

「・・・紫の・・・天体・・・です・・・」

 緑竜は途切れ途切れ口に出した。意識が朦朧としているようだ。

「大丈夫か・・・⁉無理するな・・・!」

「・・・ボクに構わないで・・・あの天体を・・・」

 これ以上の処理は端末の破損を招く恐れがあった。

「解ったから寝てろ・・・紫の天体を壊せばいいんだな・・・」

 鬼太郎は端末の電源を切った。ここからは俺一人の闘いだ・・・。

(・・・エフタル軍機よりアルトリア空軍機、たった今私たちの機体のディスプレイに『月を壊せ』と書かれた古文が表示されたの・・・。そっちの状況は・・・?)

 いや、あと二人いたな・・・。鬼太郎は後方の《アスベルⅡ》を振り返った。キャノピーには金が蒸着してあるため内部はよく見えないが、パイロットの他に電子戦オペレーターらしき人物が搭乗していることは、先刻の会話から推察できた。

「ああ、こっちもAIがあの紫の天体をぶっ壊せとか言ってきやがった。面白そうじゃねえか・・・!」

 鬼太郎は左の掌に拳を叩き込んだ。

(でも、あの未確認飛行物体はどうするつもり・・・?)

 そう言われて、鬼太郎は未確認飛行物体の方を見ると、それは急上昇し、紫の天体に向かって加速した。

「『ついて来い』ってよ!」

(・・・了解・・・!)

 鬼太郎は《アスベルⅡ》と並んで未確認飛行物体を追った。

 *

 天体に接近すると、それは案外小さく、低い高度に浮かんでいた。表面の模様はパネルの継ぎ目や何かのパイプで、空中要塞と言った方が適当だった。

「なんかSF映画に出てきそうな風体だな・・・」

 鬼太郎が天体の表面を飛びながら感想を口にしていると、異様なまでに高い音が耳に入った。機械の作動音のようにも、何者かの歌声にも聞こえるそれは、鬼太郎に頭痛をもたらした。

「・・・何なんだよ・・・このノイズはッ・・・!」

(・・・そっちでも聞こえるの⁉これは一体・・・)

 同時にコクピット内にアラートが鳴り響く。

(・・・後方よりさっきのものと同様の未確認飛行物体が多数接近しています・・・!)

 《アスベルⅡ》の電子戦オペレーターが告げる。黒い蝶たちは触角に見えるレーザーガンで鬼太郎たちに攻撃を加えた。

(・・・この数・・・ミサイルが足りない・・・!)

「俺に任せろ・・・!」

 鬼太郎は武装スロットからクラスターミサイルを選択した。後方カメラの映像から未確認飛行物体を照準する。

「これでも食らえッ、バケモノどもォッ・・・!」

 トリガーを引くと、主翼の根元近くに懸架されたウェポンベイが開き、多数の小さなミサイルが発射された。ミサイルはピラニアの群れのように蝶たちに襲いかかり、次から次へと起爆した。

(・・・何ソレ、増槽じゃなかったの・・・⁉)

 《アスベルⅡ》のパイロットが驚嘆の声を漏らす。

「SF-13用に開発された新型のクラスターミサイルだ!射程は短いし爆薬量も少ないが、面制圧にはもってこいだぜ!」

 鬼太郎は自慢げに語った。今回の哨戒任務はこの装備の実射訓練を兼ねていたのだ。

(・・・スゴく嬉しそうに軍事機密を漏らすのね・・・)

 《アスベルⅡ》のパイロットは苦笑しているようだった。

(・・・でも、敵は全滅した訳じゃありませんよ・・・!)

 オペレーターが叫ぶ。ミサイルの攻撃から生き残った蝶たちが二機を追ってきた。鬼太郎の耳には相変わらず不気味な歌のような音が聞こえている。

「・・・どこのどいつだか知らねぇが・・・てめぇの妙ちくりんな歌なんざ聴きたくねぇんだよォッ・・・!」

 鬼太郎は気を紛らわせようと、コクピットに内蔵された音楽プレーヤーのスイッチを入れた。甲高い声にエレキギターの音が割り込む。

「・・・やっぱアニソンはいいねぇッ・・・!アドレナリンが出てきたぜェッ・・・!」

(・・・うわっ・・・なにこの無駄に巻き舌でカッコつけた気持ち悪い歌ッ・・・⁉)

 エフタル軍のパイロットが声を上げる。通信回線の電波に乗って《アスベルⅡ》のコクピットにも聞こえていたようだ。

(・・・あ!これって『××××(アニメのタイトル)』の二期オープニングテーマですよね・・・⁉)

 オペレーターには何の曲か解ったようだった。

「そう、それ!見てた⁉」

(・・・はい、見てました・・・!○○(アニメの登場人物)くんがチョーカッコよかったですよね・・・!)

 こんな状況だというのにアニメ談義が盛り上がる。ただし、話に乗れていない人物がいた。《アスベルⅡ》のパイロットだ。

(・・・うわっ・・・あなたアニソンなんか聴いてんの?マジキモイ!この歌早く・・・)

「止めて」と言いかけて彼女は言葉を切った。鬼太郎が後ろを見ると、蝶たちが錐揉みを始めたり、天体の表面に激突したりしていた。

「そうか、アイツらも俺たちの通信を傍受して、この歌を聴いていたたんだ。それが原因で混乱しているらしい」

(・・・歌でジャミングなんて出来るの・・・?)

 パイロットが不審がる。

「さっきから妙なノイズが聞こえてたろ?たぶん、それを含んだ電波があの虫みたいなやつらを制御していたんだ」

 鬼太郎はMFDのタッチパネルを操作して、歌のデータを広範囲に拡散させた。

「だったら聴きやがれ、俺の選んだ超絶カッコイイアニソンメドレーをッ・・・!」

(・・・キモいからやめてェッ・・・!)

 聴きたくもないアニメのテーマソングを聞かされて《アスベルⅡ》のパイロットが悲鳴を上げる。それは蝶たちも同じで、次々と墜落していった。

「ビンゴだぜ・・・!」

 前を向き直ると、機体のすぐ脇をレーザー光線がすり抜けていった。

「いッ・・・!」

 慌てて機体を滑らせて射程を逃れる。天体表面の対空砲にはアニソンによるジャミングは通用しないらしい。

「しかしなぁ・・・」

 そもそもからこの天体は、どうやって壊せばいいのだろう?鬼太郎はレーザーを避けながら考えた。

(注意!二時の方向に対空砲の密集している場所がありますッ・・・!)

 オペレーターの声を聴いた鬼太郎は右斜め前を見た。確かに、レーザー照射用のレンズを持つドーム状の構造物が環状に並んでいる。その内側には八角形の穴が開いており、中から紅い蝶が四匹飛び出してきた。

(蝶を射出するための通路って訳ね・・・!)

 そう言ったエフタル軍のパイロットは、対空砲火の中に突っ込んでいった。

「そうか、内側から壊しちまえばいいんだッ・・・!」

 鬼太郎も《アスベルⅡ》に続いた。後ろからはその穴から射出された蝶が迫っていた。


 ―つづく―

蛇足~鬼太郎のアニソンメドレーについて


鬼太郎が聴いていた歌は、アニメ化した某有名バスケ漫画のオープニングを歌っている、実在のグループの楽曲をみたいなものと想像していただいてかまいません。実際に、私もこのシーンを書くときに、彼等の楽曲の内で気に入っているものを聴いていました。巻き舌過ぎて何て歌ってるのか解らない、でもそれがカッコイイんです。


どーでもいい話を失礼しました。

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