エンゲージ
登場メカニック
SF-13B《ダインスレイヴ》
アルトリア共和国空軍が開発した新型戦闘機。宇宙空間での機動性向上のために「あるシステム」を採用している。パイロットをGから保護するためにコクピットは胴体に位置する。そのため、機体各所に設置された光学センサーの情報をコクピット内のモニターに映し出すことで視界を確保している。また、宇宙空間を漂流することを想定してコクピットはカプセル型をしており、ベイルアウトの際はカプセル全体が機外に射出される。機首にはコクピットの代わりに燃料タンクと機関砲、センサーユニットが収められている。固定武装は20mmの劣化ウラン弾を使用するガトリング砲と、カナード付け根にレーザーガンを4門装備する。今回の出撃では、選択武装として短距離空対空ミサイル×4、中長距離空対空ミサイル×4、クラスターミサイルランチャー×2を装備している。
RW-15《アスベルⅡ》
エフタル王国軍の主力コスモシップ。コスモシップとは小型戦闘宇宙艇を表す言葉だったが、大気圏内での運用が可能な機種も存在し、航空機との境は曖昧になりつつある。本機はストレーキや電磁ショックコーン発生システムに頼らない音速突破能力を有し、航空機としての運用に耐えうる。固定武装として主翼付け根に30mmのタングステン弾を使用する機関砲を、エンジンポッド上部にレーザーガンを二門装備している。今回は選択武装として短距離ミサイル×6、中長距離ミサイル×4、ガスト式ガンポッド×1を装備している。また、イルファが搭乗している機体は性能向上のための試験機で、ベクターノズルや最新式のアビオニクスを搭載している。
ポラック機との連絡が途絶えてから二時間後のことだった。美味しい物の夢でも見ていたのだろうか、よだれを垂らしていた鬼太郎は、唐突に鳴り響いたアラートに叩き起こされることになった。
「な、なんだぁ!」
手の甲でよだれを拭いながら鬼太郎は緑竜に尋ねた。
「オニタロさん、一時の方向に不明機です!この速度だと約三十秒後に交差します!」
「IFF(敵味方識別装置)は?」
「応答ありません。友軍機かどうかを確かめるには、目視に頼るほかありません」
MFDのレーダースクリーンには一時の方向から真っ直ぐ飛来する不明機のアイコンが表示されており、自機のアイコンとの間隔はどんどん縮まっていた。
「緑竜、不明機とのコンタクトの準備をしろ・・・あと、各兵装の状態もチェックしてくれ!もしかしたら、出会いがしらに交戦開始なんてこともあり得るからな・・・!」
「アイアイサー!」
鬼太郎は操縦桿を握った。あと数秒で不明機を目視できる。
「お顔を拝見といこうか、可愛い娘ちゃん・・・!」
前方に黒い粒が見え、一瞬で自機とすれ違う。その瞬間に、鬼太郎は不明機の姿を捉えた。機首と主翼を流麗なストレーキが繋ぎ、主翼にエンジンポッドを二基搭載している。空気力学を意識した女性的なデザインは・・・。
「《アスベルⅡ》・・・!エフタル軍の主力コスモシップじゃねぇか・・・!」
MFDを見ると、不明機のアイコンが再び自機に向かってくるのが確認できた。
「また来た・・・!」
鬼太郎もインメルマンターン。機首を不明機の方角に向ける。
「不明機とのコンタクトはどうだ・・・⁉」
「やっています・・・でも、応答が・・・」
緑竜が言い終える前に、轟音とともに光の筋が機首から真っ直ぐに飛んでいくのが見えた。曳光弾だ・・・。
「っ・・・⁉」
「何してるんですかっ・・・⁉」
「オレじゃないっ・・・! 機関砲が勝手に作動しやがったんだよ・・・!」
まだマスターアームスイッチは入れていないはずである。その証拠に、武装スロットの画面ではどの武器も選択されていなかった。
《アスベルⅡ》は避けてくれたようだが、この誤作動によりこちらに敵意を持たれたことは間違いなかった。
「シャレになんねぇマシントラブルが起こっちまったなぁ・・・」
《アスベルⅡ》は加速し、臨戦態勢を整え始めていた。
*
「っ・・・⁉」
間一髪のところで敵弾を躱す。
「撃ってきた・・・⁉」
イルファは反射的にマスターアームスイッチの上に指を置いた。警告もなく攻撃を仕掛けるということは、相手の殺意は明確であった。まだコンタクトを取れていない段階で交戦を始めて良いのか迷ったが、次の瞬間にはスイッチを入れていた。
「・・・待ってください!戦うんですか⁉」
ツバサが声を上げる。
「そうよ、相手が敵意を持っている以上、撃墜しなければ私たちの身が危険よ・・・!」
イルファの気迫に押されてツバサは押し黙った。彼女も何をするべきか理解していた。
迷っていたら殺される。クリズ大尉から耳に胼胝ができるほど聞かされたはずだ。何よりも、後席にはツバサが乗っている。自分のミスのために、かけがえのない友だちを道連れにしたくはなかった。
大丈夫だよ、ツバサちゃん・・・私が守るから・・・。胸中に呟くと、イルファは操縦桿を握り直した。
スロットルレバーを倒し、加速。ノズルの推力偏向を利用して素早く旋回し、不明機を追う。何故か相手の動きは鈍く、容易に後ろを取ることができた。
改めて不明機の姿を観察してみる。
「何アイツ?はっちゃけた格好してるわね・・・」
二次元ベクターノズルを持つ単発機。レーダー反射断面積を度外視したカナードと前進翼を採用し、ステルス性はアクティブに頼りきっている。視認距離における格闘性能を追求した設計思想が外観から滲み出ていた。
「男の子の夢が満載、空戦バカが考えたサイキョーの戦闘機って感じね・・・」
イルファは呆れた声を漏らす。後席ではツバサがタッチパネルを操作していた。
「現在、ガンカメラの画像を頼りに本機のデータバンクから不明機の情報を検索しています」
「了解・・・。焦らなくていいから、出来るだけ急いで。少しでもアイツの情報が欲しいから・・・」
言い終えたイルファは武装スロットから短距離ミサイルを選択した。対する不明機は後ろを取られたことにやっと気づいたらしく、振り切ろうと旋回を始めていた。
もう遅い。HMD(ヘッドマウントディスプレイ)に投影されたレティクルが不明機に重なる。イルファはトリガーを引いた。
外翼のパイロンに吊るされた二連ミサイルランチャーから、ミサイルが射出された。不明機はフレアを放った後に回避行動をとる。直後にイルファは再び照準を合わせ、もう一発のミサイルを放った。
一発目はフレアとECM(電子的妨害装置)にかく乱されて命中する前に起爆したが、二発目はなおも不明機を追う。
その時、ツバサが不明機の正体を突き止めた。
「ありました、不明機はSF-13B《ダインスレイヴ》です・・・!アルトリア空軍が開発を進めていたSF-13Aの改良機で、特徴は・・・」
ミサイルが《ダインスレイヴ》に迫る。唐突に、不明機の機首がのけぞり、ミサイルの方を向いた。主翼付け根のレーザーガンでミサイルを迎撃すると《ダインスレイヴ》はそのまま急降下した。
「・・・何アレ・・・⁉」
動翼やベクターノズルで出来る機動ではない・・・。
「・・・SF-13の最大の特徴は、主翼とメインエンジンの間に搭載された重心移動装置―脚です・・・!」
「脚ぃ・・・⁉」
それを聞いていたイルファは、裏返った声を出してしまった。
「SF-13はスラスターに頼らない宇宙空間での姿勢制御を追い求めた結果、重心位置を変化させ、その反作用を用いてピッチングやヨーイングを行う方法にたどり着いたそうです・・・」
「・・・な、なんじゃそりゃ・・・⁉」
前方に降下を続ける《ダインスレイヴ》が見えた。確かに、エンジン脇の構造物を上下に振ってピッチングを制御している。水平尾翼ごと動かしているため、空気抵抗も利用できるようだ。
「・・・宇宙空間で手足を振って姿勢制御って、昔のアニメの設定にあったような・・・」
そんな事を呟いていると《ダインスレイヴ》が重心移動装置を跳ね上げ、機体を水平に戻した。空気抵抗が増し、落下速度が一気に落ちる。
「やられたッ・・・!」
こちらも機首を上げたが、既に《ダインスレイヴ》は後ろを取っていた。
―つづく―
国家の設定紹介
アルトリア共和国
人類が二番目に移住した惑星ミドガルドの大陸にある連邦制国家。強大な工業力と軍事力を有し「世界の警察」を自負する。移民によって建てられた多人種多民族国家で、惑星エリュシオンにはもう存在しないエスニックグループも住んでいる。
エフタル王国
人類が最初に移住した惑星エリュシオンの大陸中央にある立憲君主国。広大な国土とそれを守るための強大な軍事力を有する。30年前に東方の白檀を併合したが、現在でもその地方の出身者への差別が続いている。




