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同日、11時少し前ー事件

topics: 成仏(じょうぶつ)


この小説では、幽霊をこの世に縛り付けている事柄を解消して、魂を開放することとして使う

一般的な意味とほとんど変わらないが、成仏自体にさまざまな条件や、光太郎の力などが関わってくる

約束の時間の前に光太郎はすでに部室で2人のことを待っていた。1人で噂や千早のことを整理して時間を潰していた。土曜に初めて少女の霊が発見されてから、たった2日やそこらで広まった原因を考えていたのだ。


「いくらあの子達が場所を選ばずに話をしたってここまでは広がらないよな……」


ノートにメモを取りながらひとりごちる。意図的に噂を広めようとでもしない限りはこうはならない。土曜から今までで噂を聞いて話を広めようとするなら、かなり初期の段階で知っておかなければならない。もしくはかなりの影響力を持つ何かだろう。そうか、と光太郎はスマホを取り出し検索を始める。


「やっぱりこれが一因になってそうだな」


スマホの画面にはSNSが表示されており、噂の内容もしっかりと書かれている。いわゆる個人でアカウントを作ってつぶやけるタイプのSNSだ。これならば拡散加速度もかなり見込めるはずだ。しかし、いまだにその目的は見えない。噂を広めて一体どういう利益が生まれるのだろうか。光太郎はノートに視線を落とし、SNSの内容を書き出した。


「……かと言って、これじゃ普通に少女の幽霊が出たって書いてるだけだ。噂好きの奴なら普通にやるだろうな」


一旦深呼吸をして時刻を確認する。そろそろ2人とも来てもいい頃なので、ノートをしまい必要なものを用意した。お守りとメモ用紙、そして鉛筆を鞄から取り出したところで2人の声が近づいて来た。


「龍くんやっぱ人気だね。2人で教室から出るだけですごい注目されちゃった」

「いやあれは元町さんの言い方が悪かったから、絶対。あんな大声出したら誰でも注目するから。それにここに来ること秘密にしなくてもいいのに、わざわざ意味深なこと言うから……」

「だってその方が楽しいでしょ?」


扉を開けながらも2人は話を続けていたが、やがて部室に光太郎があるのに気づいた。龍は少し疲れた様子で、千早はニコニコと笑顔だった。


「すまん。待たせた」

「いや、今ので大体事情は察したから」

「ほんとごめん……」


光太郎は苦笑いしながら2人に席に座るよう促し、早速本題に入る。


「それじゃあ、今朝言ってた幽霊との接触の仕方についてたけど」

「うんうん。早速だね!」

「と言ってもあんまり特殊なことはしないんだ。普通に会話して、どうすれば成仏するのかを探る。その後に結論を出して、最後はこう……特殊な力で……」

「普通に会話できるんだ。と言うかその特殊な力っていうの知りたいんだけど……。それにビデオカメラも用意してたよね?」

「それは俺の役目だな。でもこれ俺が俺自身のために用意してるだけだから」


そういうと龍はビデオカメラを取り出す。いたってシンプルなビデオカメラで、特に何か特別なもののようには見えない。電源をつけて動作を確認した後、机において話を続ける。


「特殊な体質っていうか、霊感が全く無いんだ。幽霊は一切見えないし、幽霊からの干渉も受けつけない」

「へー。じゃあ聖なる塩の擬人化って事だ」

「んん……まあ、成仏はさせられないけど何も効かないことは確かだな」

「それならあとは光太郎くんの特殊な力がなんなのかって事なんだけど、言いづらいかな?」

「そういうわけじゃないんだけどーー」


その時だった。ちょうど真上からかなり大きな音が聞こえてきた。3人は顔を上げて怪訝な顔をする。


「この上って確か……」

「音楽室」


時計を確認するとまだ11時15分頃だ。まだ例の少女が出て来る時間ではない。しかし、噂を聞きつけた誰かが音楽室に訪れた可能性もある。光太郎と龍はすぐに必要なものを持って立ち上がる。


「行こう、元町さんも。何かあったのかも」


千早は光太郎に促されると立ち上がり、カバンからお守りを外して手に持つ。何か嫌な予感がする、と3人は思った。不安に押されるように足早に部室を出て、階段を駆け上る。そして予感は的中する。音楽室の前にはすでに何人かの人がいて、教師が何人か説明をしている。音楽室の扉は閉ざされ、中を伺い知ることはできない。


「先生。何があったんです?」

「うん? ……榊か。詳しくはまだ言えないんだが、ちょっとしたトラブルだ。今、校内放送がかかる。教室に行って待機していなさい」


その場を統制するためにいた教師の1人は光太郎の担任である加藤(かとう)であった。他にも何人かの教師がいて、場を収めようとしているところを見るとかなりのトラブルのようだ。


「行こうぜ光太郎。うちのところの担任もいる。多分マジのやつだ、これ」

「……ああ。元町さんもーー元町さん?」


光太郎は振り向いて声をかけたが、千早の姿はすでになかった。野次馬の中に隠れてしまっては見つからないが、たしかに後ろをついてきていたことを考えると、野次馬の中に入り込めるとは思えなかった。しかし、周りを見渡してもその姿はない。


「先に戻ったのかも。俺たちも行こうぜ」


龍に言われるまま光太郎も階段を降り始める。行動を起こそうとした日に音楽室でトラブルが起き、そして千早も何も言わずにどこかへといなくなってしまった。3人が部室にいて、その真上の音楽室で何かが起き、すぐ駆けつけたのにもかかわらず、あたりにはすでに人だかりができていた。光太郎は目の前で何が起きているのかを理解するには何も知らなすぎること、少女の霊を成仏させるだけでは今回の件は終わらないと、そう直感的に感じた。

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