文化祭5日前、16時50分ー放課後
topics: 榊 光太郎 (さかき こうたろう) 1-B所属
15歳 12月9日生まれ AB型 身長169cm 体重57kg
黒髪 少し猫背
好きな食べ物は肉 嫌いな食べ物はピーマン
成績はそこそこよく、万能
スポーツは卓球だけ得意、あとは壊滅的にセンスがない
座右の銘「義を見てせざるは勇なきなり」
放課後2人はオカ研の部室に集まり、例の噂について話し合いをすることにした。
「それで、龍はどこまで噂を知ってるわけ?」
オカ研のホームページにある噂の投稿を確認しながら光太郎は尋ねる。
「どこまでっていうか……みんなが話ししてることを知ってるくらいだな。土曜の昼ごろ、11時とかだったかな。音楽室に幼い少女が現れて泣き続けるって」
「結構具体的だな。クラスの誰かが実際に行ったりとかは?」
「おう。女子が盛り上がってた。誰が見たのかは分からなかったけど」
肝心なところだな、と光太郎は考える。ただそれなら話は早かった。近くに当事者がいるなら聞き込みするだけで大方どんな霊かわかるからだ。
「早速行ってみるか?多分うちのクラスまだ文化祭の準備してるから」
「そうだな。直接聞けるならその方が早い」
噂というものは大概尾ひれがついて真実が見えにくいものだが、今回は発生から時間がかかっていなかったためか比較的まともな状態の噂と言えた。
「にしてもラッキーだったな! 俺たち2人になってから活動ができなくなったらセンパイ達に申し訳が立たないからな!」
龍は嬉しそうに光太郎に話しかける。が、光太郎はそこまで浮かれた気分にはならなかった。偉大な先輩達がいなくなって自分たち2人だけで解決できるのか? という不安が頭の中に浮かんだからだ。
「大丈夫だよ。お前がいたらどんなヤツでもたちどころに成仏だからよ!」
「……シツレイだぞ。それ」
「幽"レイ"だけに?」
光太郎はさっさと歩き始める。目指すは1-Fの教室だ。
「……ダメだったかな。幽霊ギャグ。」
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1-F組ではせわしなく生徒達が動き回っていた。もちろん文化祭の出店の準備だ。光太郎は人の動きで目星がつきづらくなることを考えていたが、むしろ、人の動きの中に固まっている一団を見つけたことでその懸念を拭う事ができそうだと安堵した。
「龍、あの人たち?」
「そう。あの四人組。左から順に、元町 千早さん、奈良 あかりさん、三上 優衣さん、佐藤 実里さん」
「へー……」
光太郎は驚いたような顔で龍を覗いた。龍は少しバツの悪そうな顔をして、
「女子が苦手だからって、名前を覚えてないわけじゃないぞ、べつに」
ふーん、と光太郎。すぐに四人組に向き直ると早速話を聞き出した。
「あのちょっといいかな。皆、例の噂、知ってるよね?」
突然声をかけて来た光太郎に少し驚いた4人ではあったが、きっと話したい気持ちがあったのだろう。少し興奮したような、はやった様な雰囲気だ。
「知ってるけど……。ウチらが話してるって誰から聞いたワケ?」
「女子4人の話盗み聞きってケッコーキモいよ?」
しかし、優衣と実里は警戒した様子で聞き返してくる。光太郎は少し悩みながらも、隠すことでもない、と事情を話した。
「俺、オカルト研究会の榊って言うんだけど、オカ研のホームページに投稿があったんだ。音楽室の少女の話。オカ研なら調べてくれますか?って」
その投稿は匿名ではあったものの、龍がたまたまクラスでの会話を聞いていたこと、手がかりがそれしかないので聞きにきたことを伝えた。
「えっ! 三國くんが!? 先言ってよ!」
あかりが突然食いついてきた。女子のうち3人は龍のことをチラと見ている。光太郎が龍の方を見やると窓の方を見て、我関せずといった風だ。光太郎はニヤリと微笑むと、すぐに事情を察した様子で、
「そうそう! 教えてくれたらなんかお礼するよ!多分、龍からも」
「……おい光太郎!」
聞こえてなかったんじゃないのかよ、と目配せで抗議をするが、もちろん龍も黙ってはいられなくなった。話の輪に加わりなんとか流れを変えようとする。
「あ、あのさ……。その、少女がどんな感じだったのか、とか何時にとかそういうのでいいんだけど、ホント」
龍は少し焦った様子で話を促す。
「うーん。三國くんがクラスの買い出しを私といってくれる、って約束してくれたら教えようかな」
やはり、思った通りだと光太郎は畳み掛ける。
「もちろん。龍だってこのクラスの一員だから、それくらいの協力は惜しまないよ、全然。ね?」
「ああ、そうね……」
龍はうなだれて答える。そもそもクラスの出し物の企画をした龍は準備期間の手伝いを免除されていたのだ。
「て、言ってもさ。実際に見たのってウチらじゃないワケよ」
優衣は椅子の背もたれから体を起こして説明する。
実は4人で音楽室に行ったのは、忘れ物を取りに行く目的だったのだという。
「だから実際に音楽室に入ってオンナノコ見たのは1人だけなのよね」
「じゃあその1人っていうのは?」
龍は聞き返すが、光太郎は聞くまでもないと思った。先程から1人だけ会話に参加していないし、わざと存在感を薄くしている意図を感じていたからだ。それに女子の視線は皆、集中している。
「わ、私です…。」
「それじゃあ少し、話を聞かせてもらえるかな。元町さん」
彼女は確信に近づく何かを"見た"のだろうか。
少なくとも光太郎は、彼女は何かを知っている、そう感じた。