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じゅうにいてんご

「始めなければ、何も変わらない」

 そんな言葉を謳い文句にした通販番組のコマーシャルは、元某歌劇団トップスターという化け物じみた肩書きを持つ女優を起用して、見事様々な部門で売上ナンバーワンなんだとか。何の話かと言えば、それって何気にマジすごいって話だ。

 「始める」ことも「変わる」ことも。そういうのが、そうすることで生まれる結果に対する憧れや願望を念頭に置くことで生まれるなら、それはすごい前向きな話で――俺とは全く無縁な話で。

 求めない。望まない。

 悟りを開いた坊主の如く、何度も自分に言い聞かせる。求めない。望まない。

 時々、胸が痛くなっても。求めない。望まない。

 その痛みにもう慣れ始めても。求めない。望まない。

 そうしてると、いつの間にか足が止まってて、気がつくといつも、ほら。自動的に学校に辿り着いてて。

 深夜を照らす満月は、今日も変わらず偉そうに俺を見下していて、分かったよと俺は一人ごちる。そんな、ネガティブルーの無限ループ。一人のままだったら多分、抜け出せなくて、そのまま埋まってた。

 昨日をもって(只今の時刻は0時過ぎ)神から火影を目指す意外性ナンバーワン忍者へ降格した六道には、全部終わってから好物のラーメンでもおごってやることにして。

 俺は偉そうに見下してくる満月へ向けて、思い切り天に唾を吐いてやった。

 ――例え後ろ向きだとしても、バック走で無理やりにでも前に走ることはできる。ゴールは見えなくても。恐る恐るちらちらとしか前は確かめられなくても。つまずいて、ずっこけて、何度も怪我をしても。

 その痛みは、俺が前に進んでる証拠だと、思い込む。決めつける。押し通す。信じ込む。

「誰かを好きになる気持ち」は、後ろめたいことでも、恥ずかしいことでもないと思うから――。

「――うわっ! きったねぇっ」

「なにやってんのよ、あんた」

 天に向けて放った渾身の一撃は月のカーテンに弾き返され、カムバック。己の唾を自らの顔面でキャッチする間抜けを、いつの間に湧いて出たのか、西門の支柱に座って宮川晴香が見下ろしていた。

「お、おお。なんか今、月からの反撃を受けた」

「……馬鹿?」

「……それより、お前。出迎えご苦労。苦しゅうないぞ」

「ほざけ、ハゲ」

 ヤンキー顔負けの口の悪さはこの際置いといて。声色から、ご機嫌斜めと見受けられるほどには、幽霊慣れした俺は、無愛想に門の中へと消えていく宮川晴香の背中を見送り、溜息一つ。

「つめた……」

 まあ、幽霊にぬくもりを求める方が、どうかしてる。




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