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世界

散々説教を垂れた後、那須は現状の説明をしてくれた。

那須と四王、桑崎の三人は、咄嗟に手を繋いでいた影響か、一緒にあの何もない空間から転移することができたらしい。彼女達が転移した場所は市街地の往来だった。木造や煉瓦造りの建築物が立ち並び、馬車やアラビア風の衣服を纏った人間が往来していることから、やはり中世に近い世界のような印象を持ったという。ただし、往来していたのは人間に限ったことではなかった。兎のような耳、タヌキのような耳、狐のような耳……それに尻尾。獣人と呼ぶしかなさそうな彼らも、石畳の道路を闊歩していた。桑崎はあの何もない空間では状況把握が遅れ、ぎゃんぎゃん泣いていたものの、いざ異世界に飛ばされてみると、周囲への好奇心が優先されて元気になったらしい。子供のような奴だ。女神の加護をさっそく使い、獣人に日本語で話しかけては迷惑がられていた。とはいえ、やはり言葉は通じたようで、見境なしに話しかけていく中で心優しい旅人が教えてくれた事実によると、彼女達が転移した場所はセイルーン王国の東部に位置する町であり、隣国であるマルタ商業連合国――通称マルタ連合とも接しているため交易が盛んで、人通りも多いのだそうである。――と、旅人から一通り話を聞き終えて、三人でこれからどうしようと相談している時に、珍しいことに四王が手を挙げたらしい。


「あのー……うち、別行動してもええどすか?」


特に面食らったのは桑崎で、


「ええ!? い、いやあ、ちょ、それはさぁ……タマちゃんいなかったら心細いんだけど、あーし……」


などと弱音を漏らしたが、


「桑崎さんなら大丈夫ですわぁ、さっきの見てましたけど、全然物怖じしはりませんでしたし、いけますいけます~」


とにっこり笑って取り合わなかったらしい。仕方なく那須も、


「しょうがないなあ、じゃあ桑崎さん、ひとまず宿探さない?」


と話しかけたものの、


「え、あーしひとまず冒険したいし……」


と言われ、絶句していると桑崎は、


「むぅ……しゃーないなあ、一人で異世界探検してくっか! うんじゃまた!」


と手を振って大股で歩み去って行ったらしい。切り替えの早いやつだ。四王も「ほな、また」と含み笑いを残していつの間にかいなくなっており、途方に暮れた那須は一人とぼとぼと宿探しの旅に出ることになった。

そして坤青色に出会い、いつの間にか宿を取っていた彼女の世話になることにしたのだった。


と、善人であり常識人でもある彼女の話を聞いて、俺は、やはりA組は一匹狼が多いらしいと再認識せざるを得なかった。


そして異世界に来て早々に殺し殺されたこと、自分の殺人衝動に関してはとりあえず棚に上げ、四王や桑崎のように、今は異世界ライフを満喫してみるか――と、少しだけ気が晴れたのだった。

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