揺籃
目を覚ます。天井の木目に窓から入った淡い光がゆらゆらと揺れている。夢の中で歓崎音恩と幾度も対峙し、その度に殺され、殺し返した。ひどく生産性のない夢だった。
俺のステータスを確認する。『不運な転移者』『魔王を殺す者達』。
ここまではいいとしても、もう一つの称号である『快楽殺人者』――ひどい称号だ。しかし、既に頭ではわかっていた。これが俺の本性だ。自分にさえ隠し続けていた、A組の一人であるための特性。あの年齢不詳の童女のような校長に見初められた、俺自身の才能。
だが、俺はもう人を殺したくなかった。歓崎音恩を殺し、殺された時にはっきりと認識してしまった。
知り合いと殺し合うということの異常性を。そして――いや、こんなことを言うのも恥ずかしいのだが、俺はどうも、歓崎音恩のことを憎からず思っているようだった。
「お、目が開いた」
いつからいたのか、茶髪のショートボブに、よく光る黒色の瞳が俺の顔を覗き込んできた。
那須 縁。
陸上部のエースであり、インターハイの表彰台の常連だ。
「東雲くんって意外と目ぱっちりしてるんだね、いっつも前髪で隠れてたからわからなかったよ」
「お前には負けるけどな」
軽口を叩き合えるほどには親しいというか、こいつは誰とでも仲が良い。とはいえ、その中でも特に仲の良いのが桑崎と四王だったのだが。
「桑崎と四王はどうしたんだ? こう言っちゃあれだが、大体一緒にいるイメージだったぞ」
訊ねると、那須は頬をポリポリと掻いて、
「あー……まあ色々あって、今は別行動中なの。あの子達もけっこう自由な性格だし」
「そうなのか」
まあ、さすがA組といったところか。ローンウルフが多いのだ。
「っていうかさ! アイちゃんから聞いたよ、東雲くん死んじゃったんだって!?」
アイちゃんとは……青色か。余計なことを言わないで欲しかった。詮索好きの那須に話すとは。
「まあ、そうなるな……」
「え、なんで死んだの!? どこで!? 何して!?」
そこは言ってないのかよ。
「えーと……歓崎と、その、殺し合って」
「……は?」
途端に那須の目が据わった。いけない。基本的にこいつは善人なのだ。耳を塞ぐ準備をする間もなく、俺は小一時間、たっぷり説教を聞かされたのだった。途中で青色が帰ってきて、冷たい目で一瞥された。