怪奇譚
例えば自分が欲しいものがある時、どう手に入れるだろうか。それは手に入るものだろうか。本当に欲しいものがそう簡単に手に入らない時、そのような場面、瞬間は人生で一度や二度必ずやって来る。そしてそれは自分ではない、他人が所持しているものだったりする。さらにそれはその他人からすれば然程価値のないものだったりする。こんなこと誰もが経験する出来事、心情であり、誰もが共感できる苦痛である。
俺の名前は相田 真城、普通の高校2年。思考は常に前向きとは言えない、そんな性格だ。
別にこれといった悩みを抱えている訳では無いが人との接し方や、自分自身、或いは他人の価値観などが未だに俺にはわからない。感情がない振りをしている訳でも、ぼっち系の主人公を自称しているわけでもない。これからの人生に大きな目標もなければ希望も夢もない。そんな平凡中の平凡みたいな肩書きがきれいにそのまま貼り付きそうな俺に、ある事件が降りかかる。
それは平日の昼間の事だった。俺はいつものように学校で4時限目の授業を受けていた。俺の隣の席は女子で、名前は一条 恵梨香。容姿端麗で誰もが認めるであろう典型的な美少女だった。今年になって初めて同じクラスになって、昨日の席替えで初めて隣の席になった。喋ったことなんて無論の事一度もない。況してや彼女の視界に俺が入ったことすらあるのかどうかも浅はかなところだ。退屈な4限目の授業中、俺は彼女に話しかけてみることにした。
「暇だなぁ〜」
独り言のように告げたそれは声量も小さく、彼女に届いたかどうかもわからない。
手探りで、こじつけでも構わないと言葉を探して喋りかけてみたつもりだ。俺は別に人との関わりを持ちたくない訳では無い。寧ろ人と関わることはとても有益で楽しいものだと思っている。届いたかもわからない力の無い問に少し目線を俺の方に向け、その美麗な唇を少し震わしながら俺にこう返した。
「暇ですね〜あ、一条 恵梨香です。隣の席ですね。よろしくお願いします。」
容姿端麗な上、俺が無礼極まりないほどに忘れていた自己紹介をも付け加えて俺の問に答えてくれた。
彼女のことはあまり知らなったが、なぜ俺のようなSK最底辺民に敬語?
優しいなっ!なんて思いながら気が高まっていた。
その頭頂部から胸元で揺れる髪の黒がなんともまぁ美しい。女に興味はないが、美しいという言葉がこれほど似合ってしまえば認めざるおえない。
いつの間にか俺は彼女を前に一目惚れのような感覚で接していたのかもしれない(接したとはいうが話した訳では無い)。そして彼女は俺が忘れていた挨拶を目線で言ってと促してきた。「す、すみません。俺相田っていいます。よろしくです。」
俺の自己紹介が堅苦しかったのか、彼女は小さな微笑を浮かべていた。実際俺でも緊張して何を言ってるかわからなくなっていた。
それから俺たちは次第に仲良くなり、色々な話をした。しょうもない世間話から、とても内容の濃い哲学論的な何かまで幅広く話した。
こんな俺にでもモットーがあるのだ。それを俺は彼女に告げた。
「俺は人の真似をするのが嫌いだ。誰かの真似をしてなにかが上手くなっても、その何かは俺のものではないし基にした人よりは上手くはならない。でも真似をしないと俺は何も上手くできないんだ。」こんなのはただの愚痴だ。喋っていて自分に憎悪すら感じる。
だが、彼女はこう言った。
「人を真似たって別にいいじゃないですか。最初は誰だって真似るんです。立ち方も、歩き方も、喋り方だって最初から全てでできる人なんていません。だから人の真似をしたっていいんです。」そんな考え方があったか。感心した。気分的に少し救われた。これだけでも充分俺の心は満たされているのに、彼女はまだ優しく俺のこう告げる。
「まず真似をしてできるようになって、それから自分らしさを足していけばそれはもう相田くんのものになるじゃないですか。」
そう言って彼女はまた微笑を浮かべる。
こんな可愛い子に励まされて、慰められて、男の子の心が動かないわけがない。俺の気持ちは単なる一目惚れじゃなく、大きな恋に変わっていた。だが、その恋はもう届かないかもしれない。
ここ一週間彼女が学校に来なくなった。
初めて小説を書きました。愚妹です。これからもっといっぱい書きますので乞うご期待。