表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/21

9.馬車は本日運休

「あれ?馬車が来ませんね。そろそろ時間のはずですけど……」


 喫茶店を出た2人は乗合馬車の停留所に戻っていた。

 5分前ぐらいには着いたはずなのだが、予定の時刻を過ぎても馬車の姿は現れず、メルク達の他に待ち客もいない。


「あんた達、馬車に乗りたいのかい?」


 町民と思われる、1人の男が話しかけてきた。


「ええ、この時間ならキリウム行きの馬車が来る頃ですよね?」


「キリウムだって?そりゃあ運が悪かったな。あすこ行きの馬車はだいぶ前から運休なんだ」


「なんですって!?どうしてですの!?」


 コルシェが大声で叫び、男に食ってかかる。


「待て待て、俺のせいじゃあねえよ。お前さんら“オメガの悪魔”は知ってるか?」


 ――オメガの悪魔……

 メルクは士官学校で教わったことを思い出していた。


 オメガ領はグリニッジの中でも特に隆盛を極めた、かつての王都だった地域だ。

 しかし、およそ100年前、歴史的な大地震により領内の都市のほとんどが地の底に沈んだ。

 今でも国を挙げて復興に努めてはいるが、未だほとんどが廃墟のまま放置されている。


 そのオメガ領に今でも住んでいる少数の民や復興にあたっている者達の間で、異形の存在が確認されるようになった。

 それが“オメガの悪魔”と呼ばれるもの達だ。

 人や動物とは明らかに違った外見を持ち、中には攻撃的で人を襲う個体もいるという。

 それがオメガ領の復興が進んでいない原因の一つでもある。

 

 ……と教わっていたものの、メルクも本物を見たことがあるわけではなかった。


「その悪魔がどうかしたんですの?」


 馬車が運休してることとの繋がりが分からず、コルシェが聞き返す。


「俺もにわかには信じられねえんだが、どうもそいつがキリウムに繋がる橋を塞いじまってるらしい」


「“オメガの悪魔”がこんな所に出るんですか?」


 メルクの記憶では、“オメガの悪魔”はその名の通り、オメガ領内でしか目撃されていないはずだった。


「俺も見たわけじゃねえけどよ。実際、調査隊が何度か向かって帰ってこなかったらしいからな。嘘じゃないと思うぜ」


「そんな……」


「それじゃ、あの馬車は何ですの?」


 コルシェが指さした先を見ると、酒場の前に、大きな幌馬車が止まっていた。

 一般的な乗合馬車に比べると装飾がなく、輸送用といった感じがする。


「ああ、ありゃ討伐隊を運ぶための馬車だ。ここの町長が今の状況をヤバイと思って、ならず者をかき集めてるのさ」


「討伐隊、ですか」


 よく見たら、筋骨隆々のいかにもな男達が乗り込んでいくのが見える。


「騎士団の調査隊が帰ってこれないのにあいつらで勝てるとは思えんがね」


 男はハンッと鼻で笑いながら言った。


 ――しかし困ったことになったな。

 とメルクは思った。どういう理由であれ、馬車が出ないことにはキリウムには間に合わない。

 これ以上迂回するルートを探す時間もない。いよいよ打つ手がなくなってきていた。


「どうしましょう、コルシェ……コルシェ?」


 これからのことを相談しようとコルシェの方を向くが、彼女の姿が見当たらない。


 ――しまった!

 彼女の行方が容易に想像できたメルクは、急いで酒場の方に向かった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ