6.馬車(人力)
コルシェは取り戻した荷物から包帯を取り出し、メルクの足を手当する。
「すいません、何もお役に立てなかった上にこんなことまでしてもらって……」
「お気になさらないで、あなたはとっても勇敢でしたわ」
傷の手当をしながらコルシェは優しく答えたが、今のメルクにはそれが逆に辛かった。
盗賊相手に手も足も出なかったこと、その盗賊を目の前のお嬢様があっという間に倒してしまったこと。
まだ働き始めてもいないのに、こんなに早く心折られることになるとは思ってもみなかった。
「でも困りましたわね。健は切れてないようですけど、これではしばらく歩けませんわ」
「コルシェは先に行ってください。僕のせいでこれ以上迷惑はかけられません」
「う~ん」
コルシェは指を口元に当てて少し考える仕草をする。
しかし、やがて立ち上がるとメルクを置いてどこかへ歩いて行ってしまった。
これでいいんだ。会ったばかりの彼女に怪我が治るまで世話させるわけにはいかない。
メルクにとってはそれが彼女にできる精一杯のことだった。
でもこれからどうしよう。この足ではキリウムに行けるかどうか怪しい。
歩けるまで回復したら、このまま田舎にUターンしてしまおうか。
などと考えていると、どこかへ歩いて行ったコルシェが戻って来た。
「あれ?先に行ったんじゃ……」
彼女は無言のまま、メルクの肩とを持って抱きかかえる。
「え……あの、コルシェさん?お気持ちは嬉しいんですけど、これは僕としてもちょっと恥ずかしいというか……」
いきなりお姫様抱っこされて、メルクは顔を赤らめて戸惑う。
ボロボロのドレスを着た少女に抱きかかえられて街に行くのは流石にためらわれた。
「ご安心ください、メルク。殿方に恥をかかせるような真似はいたしませんわ!」
メルクを抱きかかえたまま、コルシェは先ほど荷物を回収した馬車の元に連れてくる。
横転していた馬車が、今は綺麗に正面を向いている。まさか彼女が起こしたのだろうか。
メルクがそんなことを考えていると、馬車の座席に座らされた。
彼女はそのまま馬車の前方に回り込み、本来は馬と繋ぐための取っ手の部分を持ち上げる。
「しっかり掴まっていてくださいまし!」
コルシェが足に力を入れると、車輪がガラガラと前に転がり出す。
――え?まさか?
車輪に勢いがつくのに合わせて、コルシェも全速力で走り出した。
目の前の信じられない光景に呆然としていたメルクだったが、しばらくしてあることに気づく。
「いや、これお姫様抱っこよりずっと恥ずかしいですよ!!」