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3.ボーイミーツガール

 ――確かこの辺りに落ちたはずだ……!

 ドレス姿の女性が落ちた辺りを捜索するメルク。

 山の麓から岩壁を伝っていく内に、ついに彼女を見つけることができた。


「……なんだ、あれ?」


 メルクはすぐに駆け寄ることも、声をかけることもできなかった。

 歳は自分と同じくらいだろうか。純白のドレスに身を包み、長い金髪を靡かせる美少女。

 しかし、メルクが身動きできなかったのは、その姿に見とれていたからではない。


 彼女は高い崖の上から落下したにも関わらず、倒れてもいなければ血を流してもいない。

 それどころか、片膝をつき、拳を地面に突き立てた状態、いわゆる三点着地を華麗に決めていた。

 小さい頃に読んだ、英雄ヒーローが活躍する絵本の主人公が確かこんなポーズをとっていたような気がする。

 彼女はそのポーズのまま静かに目を閉じていた。


「ふっふっふ……」


 彼女は不敵な笑い声をあげ、目を見開いて勢いよく立ち上がった。


「やりましたわ!これぞピアジェに伝わる衝撃吸収着地法!まさかこのような所で使うことにな、ろう……と……は」


 天空を指さし、大声で独り言を言い終わる前に、彼女は貧血を起こしたように倒れこんだ。


「だ、大丈夫ですか!?」


 しばらく黙って見ていたメルクだが、呪縛が解けたように彼女の元に駆け寄る。


「……」


 彼女は先ほどの元気の良さとは裏腹に、倒れたまま微動だにしない。


「あの……」


「……み、水……」


 メルクが話しかけると、蚊が鳴くような声で答えた。

 彼女は倒れたままチラリとメルクの弁当箱を見やると、


「……お腹が空きましたわ」


「さっき水って言いませんでした?」


◆◆


「おいひいですわ」


「ジーンおばさんのサンドイッチが……」


 彼女はメルクの弁当箱を受け取るとあっという間に空にしてしまった。

 さらに水筒の水を一気に飲むと、元気を取り戻したのか、快活な声で喋り出した。


「ふう、生き返りました。あなたは命の恩人ですわ。あらためてお礼を申し上げます」


 深々をお辞儀をするドレスの女性。崖から落ちただけあってところどころ破れていた。

 元々スタイルが良い彼女の、ほど良いサイズのバストや、滑らかな腰のラインが隙間からチラチラと見えてしまい、目のやり場に困る。

 だが破れた隙間から見える彼女の素肌は、華奢でありながらどこかガッシリとして筋肉質であった。


「い、いえ、お礼を言われるようなことでは。と言うより自力で助かってませんでした?」


「申し遅れましたわね。私はコルシェ・ド・ピアジェ。ピアジェ家の一人娘ですわ」


「あ、これはどうも。僕はメルク・アリスターです」


 2人して挨拶する。なんだか間抜けな光景だ、とメルクは思った。

 家名を名乗るからには、どこか大層な出の方なのだろうが、田舎暮らしの長いメルクにはピンとこない。


「是非ともお礼を差し上げたいところなのですが、今は急いでおりますの。いつかピアジェ家にご招待させていただきますわ」


 言いながらコルシェは山の突き出た岩肌に手をかける。


「それではごきげんよう」


「何をしようとしてるんです?」


「何って、見れば分かるでしょう?ヨッ、ホッ」


 コルシェは岩壁の出っ張りに器用に手足をかけて登っていく。


「いやいや、それは無理ですよ!危ないですから!」


 メルクは止めようとするが、彼女は既に手を伸ばしても届かない距離まで登っていた。


「大丈夫ですわ、これぐらいの壁で私を止めることなど……キャアッ!」


 コルシェが掴んでいた石が割れ、落下してしまう。

 流石に着地が間に合わないのか、彼女は盛大に尻餅をついた。


「あたたた……今度こそ!」


「止めてくださいって!」


 再チャレンジしようとするコルシェの腕を掴んで引き止めるメルク。


「邪魔しないでくださる?急いでいると言ったはずですわ」


「急いでいるなら僕が案内しますから!それにさっきみたいに落ちてたら絶対遅くなりますよ!」


「そう……ですわね、ごめんなさい。私、急ぐあまり他のことが考えられなくって……」


 ――分かってくれてよかった。

 岩山を登ることを第一に考えるのはどうかと思うが、ともメルクは言いたかったが、そこはグッとこらえた。



「ではご案内お願いいたしますわ。メルク様」


 言いながらコルシェは岩山に再び手をかける。


「そっちには行きません!!」

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