18.決意の一撃
コルシェはロイズの手を握ったままさめざめと泣き、ルセンも父の亡骸を黙って見つめている。
メルクは少し離れたところで、劇場の一幕を見るようにその様子を見ていたが、途中から一つのことに心を支配されていた。
――コルシェが泣いている。
『あれは感動の涙だ。あるいは旅が無駄にならず、安堵しているのだ』
頭の中で誰かがそんなことを言っている。
――違う、あれはそんな涙じゃない。
コルシェは多くの危険な目に遭いながら、この結婚式に辿り着いた。
でも結婚とは名ばかりで、彼女は夫の死に目に会うために呼び出された。
夫となるはずだった人物は目の前で死んだ。しかも最期に聞いた言葉は違う女性の名前で、要は彼女は替え玉にされたのだ。
この仕打ちは何だ?
お家のためだとか、身分が高い人同士、事情はあるのだろう。しかし、これでは彼女が余りにも……
『惨め?可哀想?未熟なお前に何が分かる。彼女の気持ちを決めつけるな』
頭の中の誰かはそんなことを言っている。
そうか。これは僕の理性の声だ。メルクはそう気付いた。
『やめろ。お前は感情に任せて取り返しのつかないことをしようとしている。何の解決にもならないことは分かってるはずだ』
それでも…………やる!
「ヴァンクリフ様!失礼しますっ!!」
こんな時でも謝ってしまう僕はつくづく情けない。
そう思いながら、メルクは、ルセンの頬に拳をめり込ませていた。