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11.オメガの悪魔

「へえ、あなたピアジェ家のお嬢様なの」


 “オメガの悪魔”を討伐に向かう馬車の中で、3人は簡単に自己紹介を済ませた。

 馬車に乗っているのは3人の他に、先に乗り込んでいた屈強な男が数人。

 目的地に着くまでの間、それぞれ武勇伝を語ったり武器を手入れしたり、思い思いの行動をしている。


「知ってるんですか?」


「名前だけはね。わたしも商人には詳しいわけじゃないから。ていうかお付きのあなたは知らなかったの?」


「僕も成り行きでこうなってるだけでして……」


 ふむ、とリヨンは何か考えるように間を置き、


「あなた達の関係とかピアジェのお嬢様が何でそんなに強いのかとか、興味は尽きないけど今は止めておくわ。悪魔退治を忘れちゃいそうだから」


「それがよろしいですわ。ピアジェ家の歴史を語るには一朝一夕には語り尽くせませんもの」


 ――僕にした話では随分端折ってたような気がするが?

 とメルクは思っていたが口は挟まないでおく。


「じゃあ悪魔退治の話をするけど、そいつはキリウム近くの橋に陣取ってるらしいわ」


 言いながらリヨンは地図を広げ、キリウムの街から少し離れた橋を指さす。


「キリウムから僕達みたいな討伐隊は来てないんですか?」


 橋の位置は3人が出発したクォーツより、キリウムの方が近い。

 それなのにキリウム側からそういった話が出てこないのは不思議だった。


「キリウムならクォーツと違って迂回路はいくらでもあるからねえ。すぐに何とかしなきゃとはならないんでしょうよ」


「なるほど……」


 薄情な話ではあるが仕方ないのかもしれない。

 クォーツは主にキリウムが目的地の人々が通りかかるためのいわば宿場町だ。

 キリウムとの交通や交易が止まってしまえば町そのものの存続に関わる。

 そこに意識の差があるのだろう。


「ところで、“オメガの悪魔”って何者なんですの?」


 話に入れなくて退屈だったのか、コルシェが口を挟む。


「さあ?一説によると地震のせいで魔界への門が開いてそこからあふれ出してきてる、とか言われてるけど」


 リヨンはそう言って肩をすくめる。


「……ただ、その辺の野盗や獣を退治するような気持ちでかかったら死ぬわよ」


 今までの軽い口調とはうって変わって、低く静かに彼女は言った。


「あなたは見たことがあるんですか?」


「まあね。といってもあれは口で説明するのは難しいわ。その時間もなさそうだし……」



『悪魔が出たぞ――――ッ!!』



 リヨンが言うや否や、馬車の前方から叫び声が上がった。


◆◆


 目的の橋まではまだ遠かったが、その存在を視認するには十分な距離だった。


「なんだありゃあ……――」


 誰ともなくそんな言葉を漏らしていた。


 その姿は一言で現すなら、岩で作られた巨像ゴーレムであった。

 4メートルはあろう巨体の全身は尖った岩でツギハギしたように覆われ、人のように、四肢と頭、胴体を形作っている。頭にあたる部分の中心には、水晶のような赤い球形の石が埋まっており、眼のように上下左右にうごめいている。

 その巨体の足元に転がっている、倒れて動かなくなっている鎧姿の人間や馬、無残に破壊された馬車の残骸などが、その巨体がハッタリでないことを示していた。

 それは自分達の未来の姿であるかのようにも見え、メルクは戦慄した。


「あんなのどうやって戦うんだよ……」


「剣や槍が通るとは思えねえな……」


「おい、まだ気づいてねえ。このまま引き返そうぜ」


 盗賊や猛獣と対峙する時とは違う、未知の怪物への恐怖がその場全体を支配し、撤退を口にする者も現れ始めた。


「……コルシェ、僕も彼らに賛成です。残念ですがここは引き返して対策を……何してるんです?」


 コルシェは鞄の中をなにやらゴソゴソと探していた。

 中から鋼鉄製の武骨な篭手ガントレットを取り出すと、自らの両腕に装着する。


「コルシェ!何をする気です!?」


「お分かりかしら?鉄は石よりも強いんですのよ!」


「それは石の材質とか重さとか鉄の厚さとか、色々な要素で変わってくるのよ、お嬢さん」


 リヨンが軽い口調のままツッコミを入れる。

 彼女もあの巨像を見て、あまり動じていないようだった。


「ならば試してみるのみ!『やられる前に倍返し』がピアジェの家訓ですわ!」


「やられる前に何を倍にするんですか!?」


 メルクのツッコミを省みず、彼女は馬車を飛び出し、猛スピードで加速しながら巨像に向かって突進していく。

 巨像の腕が届きそうな位置まで来たとき、顔の部分が彼女の方を向き、赤い一つ目が彼女を見据える。

 コルシェは両腕を顔の前で交差クロスさせて跳躍し、巨像の腹部に向かって体ごと衝突する。

 ズドォンッ!という音と共に、巨像の岩の体は砕けはしなかったものの、後方に大きく転倒した。


「なんだありゃあ……――」


 誰かが巨像を発見した時と同じ感想を漏らしていた。


「あの子、ホントに人間?」


「えーと、多分……」

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