表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/16

第15話

「凄い嫌な予感がする…」



隣でマコが呟いた。



「…どうする?」



反対隣で美咲が私の顔を覗き込む。


私は、視線を目の前の居酒屋へと向けたままキュッと唇を噛み締める。




…事の始まりは一時間前。


パーティー会場でトモと二人で飲んでいたけど…

トモはずっと落ち着かない様子だった。

私が話し掛けても上の空。

―原因なんて分かってた―


時々、私に気付かれないように視線をマコの元カノへと向けていたから。


トモと彼女の関係なんて分からないけど…

トモの腕に自分の腕を絡ませる彼女を思い出す…



途端に私の胸が苦しくなる


どんどん、トモが私を見てくれないのが分かって…

私の気持ちばかりが溢れ出して…



限界だった。



私は必死に涙を堪えてトイレへと駆け出した。

身体なんて重ねても、心は重ならなかった。

それを感じる度に自分に感じる嫌悪感。



―汚い女―


―身体を差し出しても好きになっても貰えないなんて―


―可哀相な女―



そんな自虐的なフレーズが頭の中に響き渡る。


溢れ出す涙。

上手に息も出来ない。



きっとトモは、こんな私の変化にも気付いてはいないだろう。

私がトモを想って泣いてるなんて、考えもしないんだろうな…。



―馬鹿な女―


―可哀相な女―


―汚い女―



何度も頭に浮かぶ自虐的なフレーズは、私の身体に恐怖を植え付けて行く。

両手で自分の身体を包み込み、ゆっくりとしゃがみ込む。


―可哀相な女―


―馬鹿な女―


―汚い…



「由恵!!」


突然、誰かに肩を掴まれ私は顔を上げる。


「…み…美咲ぃ…」


美咲の顔を見た途端に、現実へと引き戻された安心感から涙が溢れた。


美咲の暖かい表情と、私の頭を撫でてくれる暖かい手。


それが、私の心を落ち着かせた。

美咲は何も聞かないまま、私の頭を撫でてくれた。


「由恵は泣いてても可愛いね。」


美咲が冗談まじりに言った、その言葉が[泣いてもいいよ]って言ってくれた気がして


さっきまでの自虐的な気持ちを溶かしてくれた。



あんなに最悪な気分だったのに、凄く心が暖かくなった。

 


そして、美咲の胸の中で気付いてしまった気持ち。



―トモと身体を重ねた事が、こんなにも私を傷付けていた―




トイレから出ると、マコが私達を待っててくれていた。


そして、マコの言葉が私を尚更震えさせた。



「…智博、多分どこかに行きそうだけど…僕たちはどうする?飲み直す?」



その言葉に私は慌ててトモの姿を探す。



…トモはキョロキョロと周りを見ながら、出口へと足を向けていた。

 

端から見ると凄く笑える姿だったのだけど…


私はそんなトモの姿に、また息が乱れだした。


…でも



美咲は、私の掌をギュッと握って悪戯気に笑って見せた。



「ねえ、トモ怪しくない?皆で尾行して驚かせようよ!」



その言葉にクスクスと笑い出すマコ。

私は少し驚いて美咲を見たけど

美咲に握られた掌がとても暖かくて、少し勇気をくれた。




…そして、尾行作戦の末にたどり着いたのが一軒の居酒屋だった。



マコの元カノと一緒かもしれない…そんな不安は居酒屋を見ると大分薄れていた。


パーティー帰りの女の子が寄りそうな場所では決してなかったからだ。



でも、そんな期待はすぐに奪われた。



小さな居酒屋から漏れて来たのは、楽しそうな女の子達の笑い声だった。



そして、その声を聞いた途端に表情が変わったのは



―マコ―



私はそんなマコを見て確信していた。



―中に居るのはマコの元カノだ―

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ