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第14話

…どうしよう…



俺は、純子からのメールで激しく悩んでいた。

普通に考えて、純子と一緒に飲むのなんて嫌だ。

しかも、マコと純子をこっそりと会わしたくもない。


…でも…



俺の頭の中に浮かぶ紗英ちゃんの笑顔…


もう一度会いたい…



「トモ?何考えてるの?」


由恵が俺の顔を覗き込んで聞いてくる。

俺は何も答えないまま、手元の携帯をポケットにしまい込む。

由恵は少し怪訝な表情をしてから、カクテルを一口飲むと


「…さっきのマコの元カノ…トモにべったりくっついてたね。」


と言ってきた。


「あいつは男なら、誰にでもああだよ。」


俺は、自分の手元を見つめたまま軽く返事をする。

由恵は俺の言葉に、ちらりと俺を見てから


「…マコ可哀相…」


と呟いた。

…確かにマコは可哀相だ。

純子と付き合う前までは、そんな事など全然思わなかった。むしろ、俺なんかはマコが羨ましいとすら思っていた。 


だって、純子のボディタッチに、純子は俺が好きなんだと勘違いもしていたし…


だけども、マコと純子が付き合い始めてからは純子に振り回されるマコを可哀相だと思い始めた。

そして結局、元カレが忘れられないという理由でマコを振った純子…。


…本当最悪。



と思いきや、今日の態度。


しかも、四人で抜け出そうだなんてよく言えたもんだ。


…でも…



あああ…会いたい…


紗英ちゃんに会いたいよ…



俺は頭を抱えながらテーブルに俯せになる。


隣で由恵が怪訝な表情をしている事に気付いて、慌てて笑顔を取り繕ったが、由恵はますます俺を見つめていた。



「…誰の事考えてたの?」


由恵は俺を見つめたまま聞いてきた。

俺はその視線がめちゃめちゃ痛くなって、自分のグラスに視線を落としながら


「…マコ」


と答えた。


…嘘はついてない。




************


俺は一軒の居酒屋の前で立ち止まる。


…やばい緊張してきた…



少し深呼吸しなおす俺。



それにしても…結婚式の二次会で居酒屋をチョイスするとは…


外観を見る限りじゃ、とてもこじんまりとした居酒屋のようだ…。

多分カクテルなんかは置いてないんだろうな…。


そんな居酒屋の前でスーツ姿で佇む俺。


俺はネクタイを取り、ボタンを二つ開けた。



…何が起きるが分からないが…いざ出陣!



…ガラッ!



「いらっしゃい!」


お店の引き戸を開けると同時に、響き渡る元気な声。


多分、その声の主であろうタオルをかぶった、30代位の店主らしき人がカウンターに立って焼鳥を焼いていた。


そしてその前にはカウンターに腰を降ろした純子と紗英の姿が…。二人はドレス姿のまま、焼鳥を頬張っていた。

 


お前ら、俺のスーツよりも浮いているぞ?



「あっ!トモ来た!すーちゃん、テーブルに移動するね?」



俺の姿を見つけるなり、純子はそう言って自分の飲み物を持って、テーブル席へと移動を始めた。

紗英ちゃんもそれに続いて移動を始める。



…何だよ…その常連さんチックな会話は…



俺は、一応すーちゃんと呼ばれた店主らしき人に会釈をして、テーブル席へと足を進めた。


「ねえ、トモ…マコは?」

 

純子が椅子に腰掛けながら口を開く。



俺はその質問に、落ち着いて答える。


「彼女にバレると困るから、後から来るって。」


…来る途中に必死で考えた言い訳。

勿論、いくら待ってもマコは来ない。



マコには何も言ってないから 


純子はその言葉に、少し眉を潜めて俺を見たが、信じた様子ですぐに笑顔を作る。


「紗英がね、ここでバイトしてるの。それで私もよく来るんだけど、急にここの焼鳥が食べたくなっちゃって。」



純子はそう言って目の前の焼鳥を一つ手に取る。


俺はその言葉に胸を撫で下ろしながら椅子へと腰掛ける。

そして冷静に考えた。



…急に焼鳥が食べたくなったからって、ドレスで来た!?


どれだけ慌てん坊なんだよ…!?


俺は椅子の背もたれに寄り掛かりながら、店の中をぐるっと見回す。 

そんなに広くない店内は、カウンター席とテーブル席が三つだけ。

客は俺達の他には、カウンターにおやじが二人、テーブル席におやじが二人…


揃いも揃って、カウンターの上部に置かれてあるテレビの野球中継を眺めている。

テレビの脇には神棚らしきものもあり、ダルマや鏡餅の飾りものが置いてある。



…見渡せば見渡すほど、女の子が二人、ドレス姿で来る場所ではない気がする…


「トモ!生来たよ。乾杯しよ!」 


純子がそう言って、生ビールを手渡して来た。

紗英はそれをニコニコ顔で眺めてから

「乾杯!」

と嬉しそうにグラスを近付けてきた。



それがまた可愛くて…



俺は途端に笑顔が零れた。



狭い居酒屋だけど


スーツ姿だけど


カクテルないけど


おやじばっかりだけど…




―来てよかった―



俺はそんな喜びを噛み締めながら、紗英に笑顔を向ける。


「乾杯!」

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