第12話
「美咲!なんか飲む?」
マコが美咲にそう聞きながら、飲み物を持って歩いている店員さんを呼び止めた。
美咲はその中からオレンジ色のカクテルを手に取りマコに笑いかけてる。
俺も手元の白ワインをグイっと飲み干すと、店員さんのトレーの上から新しいグラスを手に取った。
…つまらない…
…つまらない!つまらない!つまらない!
…立食スタイルのパーティー会場で、俺は一人ぽつんとしていた。
タツは元子の手を取って、皆に挨拶に回ってるし。
由恵はあれから機嫌が悪く、俺に話し掛ける事なく別の友達の所に行ってる。
高校時代の友達の所には…純子が居るから行きたくないし。
…マコはやたらと美咲にばっかり話し掛けるし…
「…そんなに純子が気になるの?」
俺は、美咲がトイレに行った隙にマコに聞いてみる。
マコは驚いて俺を見てから、言い訳しようと言葉を探しているが…
俺はそれを遮るように口を開いた。
「…何かにつけて美咲美咲って…まるで、今は美咲が居るって純子に見せ付けたいみたいだよ…」
その言葉にマコは真っ赤な顔をして
「…そんなんじゃないよ」
と、ワインを飲み干した。
…わかりやすい奴…
俺も小さくため息をついてからワインを飲み干す。
それを見てマコが店員さんを呼び止める。
「マコ!トモ!」
突然後ろから誰かに呼ばれ、俺は声の方へと振り向いた。
…げっ!!
俺は慌ててマコへと視線を移す。
マコは大きな口を開けたまま固まっていた。
「…久しぶりじゃん」
俺は、視線を黒のドレスに身を包んだ純子へと移し、慌てて声を掛ける。
純子はその言葉にニコッと笑うと
「元子の旦那がタツだったなんて超びっくりだよ!」
と言ってマコへと視線を移した。
純子は大きく胸の開いた黒いドレスに、長かった栗色の髪を顎のラインで切り揃え、まるでキャバ嬢の様に髪を盛っていた…
俺はそんな純子を見て、昔母ちゃんに読んで貰った白鳥の湖に出てきた意地悪なお姫様を思い出した。
しかし、栗色のボブというヘアースタイルがなんとなく美咲に似ているが、人によってこれほどまでに印象が変わるのだから不思議なもんだ…。
確か白鳥の湖も二人のお姫様が出てきてたっけ。
そんな事を考えていると
「…智博!俺もトイレ!」
…マコが早足で逃げて行った…
純子は慌ててマコを止めようとしたが、あまりの早さで立ち去ったマコを止める事が出来なかったようだ。
そんな二人をよそに、俺も純子に気付かれない様にそーっとその場のから立ち去ろうとした。
…が…
「…トモ!」
純子が俺の腕を掴む…。
そしてそのまま自分の腕を絡ませてきた。
「…マコ、久々に会ったのに冷たいよぅ…トモは優しくしてくれるよね?」
そう言って上目使いで俺を覗き込む純子。
…俺の視線は大きく開いた純子の胸元に釘付けになった…。
「…ねえ、トモ?さっきマコと一緒に居たのって藤井美咲でしょ?マコと付き合ってるの?」
純子は尚も上目使いで聞いてくる。
俺はその質問に何も答えずに、俺の腕に絡み付いた純子の腕を振りほどく。
しかし純子はそんなのお構いなしに、またも俺の腕に自分の腕を絡み付かせる。
そして
「藤井美咲って男遊び激しいらしいじゃん!マコ大丈夫なの?遊ばれてるんじゃないのかな?」
と言ってきやがった!
俺はその言葉に、さっきよりも強く純子の腕を振りほどくと純子を睨み付けた。
「美咲はそんな奴じゃないから大丈夫だよ!大体、元子の友達なのによくそんな事が言えるな!」
俺はかなり苛々しながら純子に言葉をぶつける。
純子は分かりやすい程に頬を膨らませると
「…だってマコ、そういう人に引っ掛かりそうだから心配なんだもん…」
と呟いた。
俺はそんな純子を無視して歩き始めた。
…なんだか純子の言葉が、純子がマコを弄んでいたと認めているような気がして余計に苛々させた。
しかし俺はすぐに足を止めた。
淡いピンクのドレス。
腰まで伸びたふわふわの髪の毛。整っている訳ではないが、何だか引き付けられる顔立ち。
俺は一瞬で、目の前に立つ彼女に見とれてしまった。
…めちゃめちゃ好みだ…
「純子!」
彼女はそう言って柔らかい笑顔で純子の元へと駆け寄った。
俺はつい、彼女の姿を目で追ってしまう。
ピンクのドレスも、ふわふわの髪の毛も、柔らかい雰囲気もなんだか由恵に似ている。
多分、顔は由恵の方が可愛いのかも知れない。
でも俺は、彼女から目が離せない。そして、彼女を見付けたと同時に高鳴り始めた胸の鼓動…
…一目惚れだった。