箱根パニック
水沢泰平/十六歳/高一。
一応高校生になったんだが…俺が夢見ていた高校生活とは少し違っていた。
あんな事やこんな事、全部話そうとしたら長くなりそうだから今回は話さないが、とりあえずやばかったとしか言えない。
でもそんなマイナスな事だらけじゃなかったよ。みんなで遊んだり、デートしたり……。今度だってみんなで箱根に行く企画だってあるし。まぁ一応満喫していると思いたい。
一章 箱根パニック
時は箱根旅行の約一週間前、チケットを買った翌日のことだ。
俺は毎朝のごとく朝食と兄妹のお弁当を作っていた。
「お~い!そろそろ下りて来~い」
そう呼んでも下りてこない、もうすでに五回も呼んでるのに……。
「おい、何してるんだ?」
七海の部屋に向かうと
「なにしてるんだ?」
そこには大きなカバンにパジャマなどを入れている。恐らく来週の準備だろう。
「なにって、箱根旅行の準備だよ!」
「早すぎだっ!まだ一週間前だぞっ!しかも学校だろ?」
「バカなの?今日は学校無いよ」
「なんで?」
疑問しかないなんで休みなんだ?
「だって…」
「だって?」
「今日は開校記念日だもん」
「そっか…」
はぁ…俺にも休みがほしい。
そんな感じで何のために七海に弁当作ってたんだか…
「それと、私今日出かけるから」
「どこ行くんだ?」
「友達とアキバだよ!」
はぁ…察しはついていたがまさか本当だったとは…。
「どうせワンデーコースだろ?」
「もちろんっ!」
「それより俺にも休みをくれ…」
今回の土日は殆ど休めなかったし、それに来週は箱根旅行とか…ハードすぎだな。
「それよりお兄ちゃん、時間大丈夫?」
そう言われ時計を見るといつもの時間より二十分過ぎていた。
「うわっ!それじゃあ行ってくる!」
「いってらっしゃい…」
俺は光の速さで最寄りのバス停に行きバスに乗り込み、その後も電車でトコトコ学校に向かう、その後も学校の最寄からも少し走る、そんな時前に見覚えのある後ろ姿があった、その正体は美咲だった。
俺は後ろから美咲の肩を「ポンッ」と軽く叩く。
「きゃっ!」
という甲高い声を出していた。
「あはは…お、おはよ」
「もぉ…」
そう言いながら美咲は頬をぷっくりと膨らませている。
「ごめんごめん、少し調子乗っちゃって」
「ふ~ん…」
なんか、気に障っちゃったかな?少し不安だ…。
「ごめん…なんか怒ってる?」
「怒ってるよっ」
「許して下さいっ」
「う~ん…」
何かを考えている…何を企んでる…。
「それじゃあ…私と…」
「私と…?」
「私と………って」
「なんだ?よく聞こえないよ」
「やっぱりだめぇぇぇぇぇぇぇぇ‼」
そう言いながら俺のことを軽く突き飛ばした、その後、美咲は走ってこの場を後にした。
「なんなんだ?一体…」
そんなことを思ってるとチャイムが鳴り始めた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!遅刻だぁぁぁぁ!」
俺は急いで学校の正門に滑り込み、教室へダッシュで階段を駆け上がり教室に滑り込む、結果は…安定のアウト、先生も定時に来ておりホームルームを始めていた。
「水沢、アウトぉぉぉ!」
「ガ●使みたいなこと言わないでくださいよっ!」
ほんとに迷彩柄の服を着た男の人たちが来てケツバットをしてきそうな感じだった。
「とにかく座りなさい」
「はい」
そう言われ俺が座ると話が始まった。
「それじゃあ…今度の新体力テストの話をするぞ!」
『うわぁぁぁ…』
新体力テスト…みんなも知ってるだろうが色んなことを測り、自分の運動能力を知ることのできる場…そして評価によって自分のレベルが分かると言うものだ。俺も中学時代にやったが評価は…可もなく不可もなくC評価だった。
そんなことを思い出していると先生は話を続けた。
「みんなが嫌なのは分かるが避けられない道だ、そして今日の授業で詳しく話があると思うからしっかり聞けよ。」
『はぁ~い』
「それと…水沢は私の所に来るように」
「えっ?」
「以上!解散」
なんで呼ばれたのか分からない…俺、何かしたかな?なんて思いながら俺は素直に先生の所に行く。
「何か俺しましたか?」
「いいや、してないけど」
「じゃあなんで?」
疑問しかない、なんで呼ばれたのか分からない。
「それよりお前、聞いたところ一人暮らしらしいな」
「いえ…妹と二人で暮らしてます」
「そうか」
「それが何か?」
「ここでは場が悪い、面談室に行こう」
なんでそうなるんだか…。
俺と先生は二人で面談室に向かう、授業をほっぽり出して話すことだからなんか…怖いな…。
俺達は面談室に入る。
「それで、話って」
「今度三者面談をやるんだが、君の保護者がどうなってるのか知りたくてな」
「まぁ…それは…」
「君のお父さんがカナダにいるのは知ってる、国内に誰かいないのか?」
「まぁ…いるようで、居ないかな…」
「どういうことだ?」
「一応姉さんはいるんですけど、もうしばらく連絡取って無くて今どこにいるのかも分からないです」
「そうか…」
あの糞姉貴、どこにいるんだよ…電話しても出ないでよ…。
その後も話は続き、二時間分も話してしまった。
「つい話し込んでしまったな、話の内容は以上だ」
「なんか…申し訳ないです」
「大丈夫だよ、姉と連絡が取れたら教えてくれ」
「はい、今後もよろしくお願いします」
そんな感じで話も終わり、俺は教室に戻る。
「すいません、先生と話してました」
「分かった、席につきなさい」
「はいっ」
~放課後~
「はぁ…」
「どうしたの?なんか疲れてる?」
そう言ってくれたのは美咲だった。
「まぁ…それなりにな」
「それじゃあ…保健室に行って少し寝ようか」
そう言われ俺は保健室に連行された。
「それじゃあ、寝よっか☆」
そう言いながら正座して膝をポンポンしている。
「なにしてるんだ?」
「なにって…言わせないでよ♡」
「何がしたい」
「ひ・ざ・ま・く・らに決まってるじゃん♡」
と赤面して照れながら言ってる。
「しないといけないの?」
「もちろんっ!」
なんか腹立つな…元々だけど…。
「はいはい、分かりました…」
「それで良いのだ」
疲れてる俺は仕方なくその指示に従う。
「それじゃ…失礼します…」
俺は美咲の太ももの上に寝る、そこは温かく、なんか安心感がある、お母さんみたいな…そん…な……。
「……う…………う~ん……」
マジで寝ちゃったっぽい、しかも爆睡だ。
「ごめ……あれっ?」
俺が起きるとそこには誰もいなかった、ただ手紙が置いてあった。
『ごめんね、用事があって先に帰ったんだ、今週末の旅行ボクすごく楽しみだよ、それに…君をボクのものにしちゃおうかな?って思ってたりしてね♡』
なんだよ、ボクのものって……
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ⁉」
その叫び声は学校中に響き渡っただろう。
「これって…そういうことだよな…」
この時の俺の顔は真っ赤になってただろう、だって…いきなりすぎでしょ。
「どうしたの⁉」
と保健室の先生が飛んで来る。
「い、いや、なんでもないですっ」
俺は必死に否定する。そう言った後先生はニヤけながらこの場を後にする。
俺はどうすればいいんだ…しかも…よりによって美咲なんて…
そういえばこの前のお出かけの事を思い出してしまう、あれは…いろいろとヤバかった、それにあんな事があったんだからな、ワンチャン可能性があるかもしれないしな。
「そういえば…美咲があの時言ってたな」
時は美咲との浅草へのお出かけの帰りに遡る。
∗
「みずっちのことが好きだよ」
「ふぇ⁉どういう事?」
観覧車の狭い空間の中で二人は赤面している。
「――――と――――合って」
その声は小さくてよく聞き取れなかった。
「もう一度言ってくれ、よく聞こえなかった」
「ボクと付き合ってくれ‼」
俺はしばらく固まってしまった、いきなり告白されて頭の中は真っ白だった、それに、なんて答えればいいのかも分からねぇ…。
「どうだ?ダメか?」
その後、こう続ける。
「ダメじゃないけど…少し考えさせてくれ…」
いきなりすぎるし、さすがに少し考えたい。
「そっか…でも必ず返事をしてよね」
「うん…必ずする」
∗
そして場面は現在に戻る。
あの告白から結構経ったが結局返事をしてなかったな…。
どう返事をするか俺は脳内回路を終結させて考える。
「ぬぉぉぉぉぉぉぉぉ‼どうすればいいんだ⁉」
またしもこの叫びが学校中に響いただろう。
「どうしたの⁉」
また保健室の先生が飛んできた。
「いや、なんでもないです!」
俺はまたしても全力で否定する。
その後先生はニヤけながらこの場を後にする。
俺はまたこの手紙を見るがどうしても顔が真っ赤になる、火が出そうな勢いでだ。
俺はまたしてもこの手紙を見てしまう、その度に顔が真っ赤になってしまう。
「これって…マジかよ…」
どうしてもニヤけてしまう、周りからしたら単なる変態なんだが、カーテンのおかげで何とか……ならなかった………、そこには先生がニヤけながらこっち見ていた。
「ひゃっ‼見てたんですか⁉」
「うんっ、すごくうれしそうだね」
その途端俺は枕に向かって思いっきり叫んだ。
あんなとこ見られて…引きこもりになってしまうのではないかという勢いだった。
「どうしたの?なんか悩み事?」
そう聞かれると俺は先生にすべてを話した。
「おぉ!そんな事があったんだね、どうするの?付き合っちゃうの?」
「それは…」
「付き合っちゃえば?」
「俺もそうしたいんですけど、そうしたら他の奴らからの視線が凄い事になりそうで怖いんです」
俺は本当のことを言った、すると先生はこう続ける。
「そんなこと気にしてたらダメだよ、これは君とその女の子との問題でしょ?どうするのかは君自身で決めなさい」
そう言われて俺は改めて考えさせられた。自分の道は自分で決めなければいけない、この事には宮内達は関係ない、俺と美咲とで向き合わないといけないんだ。
「そうですよね、ありがとうございますっ!」
俺は先生にお礼を言ってから保健室を後にする。俺はその後帰宅する、その道中、俺はまた考える。「どのタイミングで言えば良いんだ?」確かにそうだ、箱根旅行の時に答えるのは確実だが、どのタイミングで言えば良いんだろ。
そのことについて、俺は帰宅中ずっと考えてしまった。
「ただいま…」
「おかえりなさ~い」
相変わらず元気な七海の声が聞こえる。
「どうしたの?なんかあったの?」
「い、いや…なんでもないよ」
俺はいつも通りの感じでいようとするんだが、これがまた難しかった。
「お兄ちゃん、なんかいつもと違う…」
「そうか?そんなことないと思うけどな」
ヤベェ…バレそうかも…。
「それよりも夕飯何にしよっか?」
俺は話題を変えようとするがその後の七海の言葉によって無意味となる。
「お兄ちゃん、何を隠してるの?何かあったの?」
「まぁな…でも大丈夫だよ、なんもないよ」
「絶対何かあったでしょ?例えば…」
「例えば?」
「告白されたとか?」
「ぶふっ‼…」俺は図星を疲れ思いっきり噴いてしまった。
それを見た七海は少しニヤけながらこう言う。
「マジなの⁉」
そう問い詰めてきてる、さすがに隠しきれない俺はすべてを話した…。
「ウソ⁉ホントに?こんな腐ったような感じのお兄ちゃんが?」
「あぁそうだよ!腐った俺がコクられたんだよ」
そう認めると七海は改まってこう続ける。
「んで?その言葉には答えたの?」
「い、いや、まだ答えてないんだ…」
「ふ~ん、本心はどうなの?」
そう聞かれ俺は本音を言う。
「付き合っても良いかなって思うんだよな…」
「へぇ~、良いじゃないの?それよりも一つ疑問に思うんだけど…」
「なにが?」
「だってまだその子と会って一か月しかたってないんでしょ?それなのにこんなに接近するものなの?」
そう言われるとそうだな、うまく出来すぎてる気がする。前から会ってたなら例外だが…。
「前から会ってた……でもそんな事無いよね…」
「だよな…そんな事あったらたまったもんじゃないよ…」
でも可能性はゼロではない、もしかしたらそうかもしれないという事だ。
「いつ答えるの?」
「箱根に行った時に答えようかなって思ってるよ」
「それが良いと思うよ」
「あぁそれと、これも」
俺は七海にあの手紙を渡す。
「『それに…君をボクのものにしちゃおうかな?って思ってたりしてね♡』って、これマジな方かもね」
「だろ?マジな方でヤバいんだよな…」
俺は頭を抱える。
「この事はみんなに言ったの?」
「まだ言ってないよ、保健室の先生には言ったけど口止めしといたし…」
「それじゃあ…この事は内密にしようね、私も出来るだけお兄ちゃんをサポートするから頑張ってね」
「ありがとな…でも高いんだろ?」
「まぁ、そうだね…七海プレゼンツアキバ一日ツアーなんてどう?」
結構重い要求だな…。でもこのプランのためだ、こんなの軽い軽い。
「オッケー!それで行こう」
あっさり認めてしまったがこれも美咲のためだ…と自分に言い聞かせる。
その時七海のお腹から「くぅ~…」という可愛らしい音が聞こえた。俺は急いで晩御飯の準備を始める、時間も時間だから簡単なものにする。こんな日々が続いた…。
~箱根旅行前最後の日曜日~
「はぁ…どうしてこうなったんだ?」
一気に飛びすぎてわからないと思うから軽くまとめると…、今我が家に箱根に行くメンバーが集結しているのだ…。
「どうして?って、だって待ち合わせ場所とか決めてないし…だってボクたち…『暇なんだも~ん‼』」
みんな口をそろえてそう言う、俺はその人たちにこう言い放つ。
「お前らの都合で俺の家に集まるんじゃねぇよ‼」
そう言うとみんなは口をそろえてこう言う。
『ひどぉ~~~~~~~い!』
その中にはもちろんだが七海をはじめ宮内とかもいるが一番腹立つのは『小山がそっち側にいることだ!』
「なんで小山までそんな事してるんだよ‼」
「なんでって、やった方が面白いだろ!」
俺の口からは溜息しか出ない…。そんな中美咲もいる事にも驚く、あいつはいつも通りな顔をしてるが、それに対し俺はすごく気まずい感じになる。
すると美咲がこんな提案する。
「ねぇ、これから買い出し行かない?」
『良いね!』
まぁ俺もそれには賛成した、こんな狭い空間にこんな大人数いられても困るだけだしな。
「それじゃあどこ行くの?」
俺は提案者の美咲に聞く。
「う、う~~ん…」
提案した方がこのざまだよ…、俺はそんな美咲をフォローするため提案する。
「らららぽーとなんかどうだ?新三郷の」
『おぉ‼』
良かった、みんな乗り気だ。
「それじゃあ決まり、すぐに出かけるぞ!」
『おぉ‼』
そんな感じで盛り上がって俺達はらららぽーとに向かう。
~らららぽーと新三郷に到着~
『着いたぁ‼』
なんだかんだでここに来るのは久しぶりだな…。
「それじゃあ…午前は自由行動っていう事で、十二時にサービスカウンターに集合で」
『はぁ~~~い!』
そんな感じで俺が言った途端に皆は自由気ままに好きな所に向かってる。
「はぁ…、自由かよ…あいつら…」
そんな中みんなと一緒に行かなかった人が一人いた、その人は美咲だった。
「あれっ?美咲行かないの?」
「うん、だって…ねぇ…」
そんな感じで美咲は顔を真っ赤にして言っている。
「…ったく、それじゃあ一緒に行く?」
「うんっ‼」
そんな感じで二人でショッピングを始める。
「見て見て!フロア案内だよ!」
「おぉ!それじゃあどこ行く?」
そんな感じでどこから見始めるかを考える。
「ウニクロなんてどう?」
「良いかもな、軽く服見ていきたいし」
「ボクも旅行に着る新しい服買いたいし」
俺たち二人の意見は一致しそのままユニクロへ向かう。
俺自身、今はこんなに普通にしているが、内心めっちゃこの場から逃げたいなんてことを思っている。
「それより楽しみだね…箱根旅行…」
「うんっ!箱根は何回か行ったことあるけどみんなと行けるなんて…」
「それより…あの手紙なんだけど…」
その話を振った途端に俺たちの空間はずっしりと重たい感じになった。
「あぁ…そのぉ…なんかごめんね………」
「ううん…大丈夫だよ……」
なんか申し訳ないな…。
「この話は今はやめようよ、箱根の時にしよ、今は買い物に付き合ってもらいたいし」
「分かった、ちゃんと現地で返事するから、今は買い物だな」
そう言うと美咲の顔には笑顔が戻っていた、やっぱりこっちの方がしっくりくる。
その後俺たちは服を探す。そんな中美咲が幾つか服を持ってこう言う。
「ねぇ、ボク一人じゃ決められないから見てくれないかな?」
そのかごの中には服が色々と入っている。
「うん、分かった」
「やったぁ♡」
その後は試着室でのファッションショーが行われた。
~しばらくして~
「みずっちありがとぉ~、可愛い服も買えたし、ありがとね」
「う、うん、良かったね…お目当ての服が買えて」
「うんっ!」
表ではこんな事言ってるが内心は一時間も待たされて買った物が服二つって…。
「それより時間は…まだ十一時か…」
「ねぇみずっち、ラウンドツーがあるから行かない?」
「良いかもな、行こうか」
そんな感じで次の行き先を決めその場所へ向かう。
「なにがあるのかなぁ?」
「さぁ?ここのラウンドツーに来るの事態が初めてだから」
「お互い未知の世界っていう事だね」
割とすぐに着いた、同じフロアにあるしその影響もあるだろう。
「おっ!ゲーセンあるじゃん、ここ行く?」
「うんっ!」
俺たち二人はゲーセンに行く。
「なにから始めよっか…」
「ボクこれが良い!」
と指さした先には太鼓の達人があった、これ見ると嫌な思い出がフラッシュバックしてくる…。
「それじゃあ、こーしてあーしてっと…」
そんな感じでゲームが始まったが結果としては………案の定負けた…。
勝てっこないよと心の中で叫ぶ俺の隣では美咲は笑っている、少し腹が立つくらいに…。
その後も少しゲームをして集合まで残り十分を切ったくらいに美咲が俺の手を引っ張りある所へ連れていく、そこはプリクラコーナーだった。
「二人で撮ろうよ!」
「えっ⁉二人で?」
「ダメなの?」
「いや…そういう訳じゃないんだけどさ…やっぱ…」
「それじゃ決まり!」
と俺の主張を最後まで言う前に俺を連行する。
「ほらほら、お金入れてよ」
俺の全額支払いかよ…。
「それじゃあ、あーしてこーしてそーして…」
なんだかんだ設定は美咲がサクサクと進めていく、慣れた手つきでしている、さすが女子だなと感心する。
「それじゃあポーズは…」
と言いながら俺に身を寄せてきた。
「なっ、何してるの⁉」
「なにって…ほら、もう写真撮るっぽいよ」
そう言われ俺もポーズをとる、身長差の影響でポーズがとりにくいのは伏せるとして…。
~数分後~
「「はぁ~~…………」」
俺たち二人は顔を真っ赤にし溜息をつく、俺がつく分には良いのだがなぜ美咲がつくのかというと…、あんな事やこんな事が中で行われたなんて口が裂けてもこの場では言えない…。
「少しやりすぎじゃないか?」
「そうかも…少し頑張りすぎたかもしれない……」
そんな感じで少し赤面する中俺たちのスマホの待ち受けはプリクラで撮った写真を早速使用した、しかもお揃いでだ。
「それより待ち合わせ場所に戻ろっか…」
「うん、ボクも今日分の体力使い切っちゃったかも…」
それだけの事があの数分間の間に行われたのだ…。
場所を改め、俺たち二人は待ち合わせ場所に戻ってくる。
「お兄ちゃん遅いよ!」
「ごめんごめん」
その後俺たちはみんなと合流し、昼食を食べようとするが…そんな簡単にいかなかった。
「俺ガッツリしたものが食いてぇな」
「私はサッパリしたものが…」
「ボクはマ●クが良いな」
そんな感じで人それぞれバラバラだった……だが、七海の一言でバラバラだった意見が一つにまとまった。
「私はうどんとかそっち系が食べたいな」
「おっ!●亀製麺があるみたいだよ」
その言葉によってみんなの意見はまとまり、結果としてうどんを食べることになった。
~食後~
「それじゃあ、買い物して帰るか」
「それより泰平君、明日何処に何時集合なの?」
そういえばその話はしてなかったな。
「じゃあ、明日の事なんだけど…七時に新宿駅西口前に集合で、少し不安な人は六時に新松戸の駅に居れば良いよ」
『はぁ~い』
みんな子供っぽい返事をする。まるで明日遠足に行く園児みたいにだ。
その後俺たち一行は明日に向けての買い物を済ませ帰宅の道を歩み始める、帰宅は各自自由解散の措置をとった。
「七海、箱根に行ったらまずどこに行きたい?」
「もちろんっ!温泉でしょ!」
隣にいた由香里や美浦さんも話に参加してくる。
「そうだよね!やっぱり温泉だよね!」
「そうよね、私も温泉に行きたいかも…」
どうやら彼女たちは温泉に行きたいらしい。
「俺も…温泉に行きたいかな…」
「お兄ちゃんは混浴の温泉に行きたいんじゃないの?」
その言葉が聞こえた途端に俺の周りにいた二人の女子は、顔を赤くして胸を隠すようなポーズをとっている。
「なに言いやがるんだ‼そんな訳ねぇだろ‼」
それでも彼女たちはあのポーズをやめることは無かった。
「そ、それじゃあ、私こっちだからまた明日ね…」
「あぁ、また明日な」
「じゃあね~」
そう言って宮内と別れ、先輩と七海との三人で帰路を歩む。
「先輩って、今日は親とかいるんですか?」
「なんで?」
「い、いや…明日先輩が遅れないように…良かったら俺の家に一泊してもらおうかなって思っただけです…」
俺が思い切って誘ってみると。
「う~~ん……それじゃあそうしてもらおうかな」
「私も実は水沢君の家に泊まりたかったんだ、私も少し心配だったし…」
「それじゃあ決まりですね」
そんな感じで美浦先輩が家に泊まる事となった。
「それじゃ、荷物まとめて来るからちょっと待ってて欲しいんだけど……私一人じゃあ大変だから水沢君、手伝ってちょ」
はぁ…何を言い出すと思ったら…。
「分かりましたよ…それじゃあ荷物だけ置いて良いですか?」
「うんうん、良いよ~」
その後俺は荷物と七海を置いてから美浦先輩の家に向かう。
「せんぱ~い!来ましたよ~!」
「はいは~い、あがって~!」
俺は先輩の家にお邪魔し、部屋へと向かう。
「せんぱ~い!俺どうすれば良いですか?」
「そこら辺に置いてある荷物まとめてこれに入れておいて」
「分かりました」
そんな感じで二人で着々と準備を進める。
「終わったぁ~~~~~~~~~‼」
そう言いながら先輩はベッドの上で大きく体を伸ばし、寝そべってる。スカート姿だったから下着が少し見えてしまった。
「そ、それより先輩、早くいかないと七海に怒られて…」
そう言って連れ出そうとすると、俺の右手をつかみ悪意のある笑顔を見せてから引っ張ってきた。
「なにしてるんですか⁉」
「良いから良いから♡」
そう言うと俺の事を抱いてきた。
「はうっ!先輩…」
「ふふっ、可愛いんだから…」
「『可愛いんだから』じゃなくて…あの…その…胸が当たってるというか…」
「良いんじゃないかな?こういうの久しぶりでしょ?」
ダメだ…理性が失われてしまう前に逃げなければ…
「あの…先輩…離してください…」
「や~だよ♡」
そう言われ俺は奥の手を発動させる。
「離してくれなかったら今日のお泊り無しにしますよ、せっかく俺の部屋で寝かせてあげようと思ってたのに…」
そういうと効果が良かったのか、この呪縛から解放された。
「それじゃあ戻りますよ」
「うんっ!」
そこには笑顔で子供っぽく返事をする先輩の姿があったが、その裏には大人な先輩の一面もあるのが改めて分かった。
その後二人で我が水沢ハウスに戻る。
「はぁ…ただいま…」
「二人ともお帰り~」
その後、美浦さんの荷物をリビングに置く。
時間は五時前、夕飯の準備を始めようとするが冷蔵庫の中は…空気しかない…しかも明日の電車の中で食べる軽食の支度もしなければいけない。結果として俺はこれからまた買い物に行かなければいけないことになる。
「じゃあ、俺また買い物に行ってくるけど、なんか買ってくるものある?」
「「お菓子買ってきてちょ」」
二人して何を言ってるんだか…。
「分かったよ、なんか適当に買ってくるから」
「水沢君…ホントに適当だったら怒るよ」
「お兄ちゃんのセンスが問われるね」
そう言われると失敗できない、変な圧力かけやがって。
「分かったよ…頑張って選んできますよ」
「「頑張って~~」」
「そんな事言うんだったらお前らも来いよな…」なんてことを思いながら買い物をしに行く。
「ふぅ…何を作ろっかな…大凡みんなの好き嫌いは分かってるし、でもそれなりに軽いものを…」なんて皆の事まで考え俺は明日の軽食に何を作るかを考える。
~一時間後~
「ただいま~」
やっと帰って来れた。
「おかえりなさ~い!」
そう言いながら出てきた先輩の姿は酷いものだった。
「なにやってるんですか⁉」
「なにって、着替えたんだけど…」
そう言ってるが先輩は上着しか着ていなくズボンは穿いていなかった。だが、身長が幸いし、なんとか見えないギリギリのラインを辿っていた。
「着替える分には良いんですけど、そのスタイルって…」
「良いじゃん、私いつもこのスタイルだよ~」
「自分のスタイルを俺の家ですな!」と突っ込みたくなってしまう勢いだった。
「とりあえず、これ穿いてくださいよっ!」
俺は戻ってすぐ自分の部屋に向かい部屋着を先輩に渡す。
「えぇ~、いやだぁ~~~」
あんたは子供かよ…、何がしたいんだか…。
「そんな事言うんだったら夜一緒に寝てあげないからね!」
「えぇ~~、それはそれで嫌だなぁ…」
「どうするんですか?」
「分かったよ…穿きますよ…」
ようやく納得してくれた。
「それじゃあ、そろそろ準備しますかっ!」
そう言って俺は風呂を沸かしたり、お米を炊いたり、あしたの旅行の準備をしたり、色々と準備を始める。
~一時間後~
「終わったぁ!」
「終わったの?」
「うん、やっと終わりましたよ」
「お兄ちゃん、先にお風呂にしても良い?」
「うん、俺もそうして欲しいし」
そんな感じで七海は風呂へと向かって行った。
「あれっ?先輩良いんですか?」
「うんっ、だって君と入りたいし…」
何を言い出すと思ったら、何を言ってるんだか…。
「とりあえず…それは駄目ですからね」
「ふぇ?なんで?」
「なんでって、そりゃ…異性同士だし…」
「えっ?良いじゃん」
この人の良いじゃんという言葉が出てくる意味が分からない…。
「ダメですから!」
俺は先輩にそう言うと、先輩は拗ねてしまった。幼児のように部屋の角で体育座りをしながらだ。
「なにしてるんですか?幼児みたいに」
「だって…」
「だって?」
「私をいじめたんだもん‼」
そう言った途端、リビングの扉が開く音がした。
「お兄ちゃん…今の言葉って、どういう事?」
「い、いや、誤解だ!話せばわかる!」
「一回殴らせてね」
「えっ⁉ちょま…」
俺がそう言った途端七海に思いっきり殴られた。
「痛いよ…」
マジで頭が割れるかと思ったよ…。
「ごめんね、加減を間違えちゃったよ♡」
「ごめんじゃないよ…」
俺は少し涙目になってしまった。
「それじゃあ俺、風呂入ってきちゃうね」
そう言ってから俺は疲れを癒しに風呂へと向かう。
「ふぅ…明日は何時起きなんだか…」
俺は明日の事を考えながら湯船に浸かる。
「やっほ~☆」
その聞き覚えのある声とともに先輩が入ってきた。
「だからぁ‼何してるんだよ‼」
「なにって…お風呂入ろうとしてるんだけど…」
タイミングぐらい考えてほしい…。
「バカなんですか?今俺が入ってるんですけど…」
「だって、明日は早いから私も入った方が良いかなって」
いやいや、何考えてるんですか…。
「そういうの良いですから、今すぐ出てくださいよ」
「えぇ~…それじゃあこうする…」
そう言いながら狭い湯船に浸かって来たのだ。
「な、なにしてるんですかっ⁉」
「良いじゃん♪」
「えっ、ちょ…待って…」
俺は理性が失われる前に自主避難を始めようとするが先輩は俺の事を抱きしめ離さなかった。先輩の豊か過ぎる胸が俺の背中に当たる。
「あの…先輩……」
「なにかな?」
「なんで…俺にこんな事するんですか?」
俺が先輩に聞くと、先輩は顔を赤らめてこう言う。
「なんで?って、私…君の事…好きだから…」
「ふぁ?」
「もう…何度も言わせないでよ♡」
ふざけんな…こんな状態で…。
だが俺の身に異変が発生する。
「ダメだ…意識が…遠く…なってる……」
そのまま俺の視界は真っ暗になってしまった。
~しばらくして~
「ん…う…う~ん…」
「あっ、気が付いた」
そこには先輩が居た。
なんなんだ?どうしたって言うんだ?
「あれっ?俺…」
「うん、気絶しちゃったんだよ」
「う、そういえば風呂の時から記憶が…」
そう思いながら俺は体の違和感に気付く。俺は自分の体に目を送るとそこにはバスタオルをかぶせただけの姿だった。
「ぬわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼」
俺は急いでバスタオルを腰に巻き下着を穿く。
「慌てちゃって…可愛いんだから」
「バカにしないでくださいよっ‼…それより…俺になんか変なことしました?」
「してないよ…」
そう言いつつ先輩はオドオドしている。
「絶対ウソだ!絶対なんかした!」
「うん…少しね…」
「何したんですか?」
俺がそう聞くと先輩は頬を赤らめてこう言う。
「少し抱き着いたり…」
「まさか…」
「うんっ!ハダカでだよ」
バカじゃないのかな…この人ホントに危険だ…。
「って…それよりも、七海はどうしたんだ?」
「七海ちゃんなら寝ちゃったよ」
「えっ?だって今何時だよ?」
俺は時計を見ると、既に十時を回っていた。
「はぁ?俺いつまで寝てたんだよ‼」
「ホントだよね、私も色んな事出来ちゃった」
どさくさに紛れてとんでもない言葉が聞こえた気が…。
「うん……って、色んな事って何したんだよ‼」
「ここでは言えないことだよ」
一体俺に何をしたんだ…
「それより夜ご飯はどうしたんだ?」
「それは私が作って何とかしたよ」
こういうところは助かるんだけどなぁ…。
「そういえば明日のものとか作らないとじゃん!」
「それより着替えたら?」
そう言われ俺は部屋着を取ってくる。だが、その部屋着は単なる黒歴史を生みかねないものだった。
「なにそれ…ウケる…」
そう言いながら俺の部屋着を見ながらクスクスと笑ってる。それもその筈だろう、だって…『ウサギのフード付きの部屋着なんだから‼』って…なんでそれを持ってるのかと言うと…それは中学の修学旅行まで遡る。
*
時間は中学ではメジャーな京都・奈良の修学旅行の一週間前だ。この時はクラスでの修学旅行の日程の確認と持ち物などの確認が行われていた。
「それじゃあ間近に控えた修学旅行だが、持ち物とかの確認とかしとくぞ――――」
そんな感じで持ち物一つ一つと班の中でそれを誰が持って来るかを話し合った。ちなみに俺と宮内とは同じ班だった。
「それと…男子共!無いとは思うが修学旅行中には女子部屋には行かない様にな‼」
『えぇ~~~』
それが俺たちの答えだ、年頃の男の子ならそんな事を口にするだろう。
「『えぇ~~~』じゃないよ!とにかく駄目だからな!見つかったら…体育科の斎藤先生に言って…」
『はいっ‼分かりました‼』
クラスの男子は息ぴったりにそういう。それに体育科の斎藤先生は…結構危険だ、何をしてくるかが分からない…。
「それじゃあ残りの時間は班活動をするように」
そう言われ俺たちの班は少し日程の班話し合いをする。そんな中班長の白井が俺に耳打ちをしてくる。
「ねぇ…女子部屋に来てよ」
「はぁ?ダメだって…見つかったら…」
野球部という名の軍隊の仲間入りを果たしてしまう…。
その耳打ちを聞いていた隣の野上がまた絡んでくる。
「ねぇねぇ、泰平君にウサギのフード付きの部屋着着させたら可愛いかもよ…」
「えっ、なに言っ…」
「良いかも!今度買いに行こうよ!」
「えっ…その…」
俺は自分の意見を言えずにそのまま決まり次の土曜日、買い出しに行くという運びになった、しかもその土曜日が…修学旅行二日前の日だという事だ。
~土曜日、柏のドン・●ホーテ前にて~
「ったく…待ち合わせ時間になってもまだ来ないな」
そう思いながら俺は白井にLINEを送る。
「まだぁ?」
『もう着いてるけど』
「だったら来いよ」
『ダメ…今、トイレにいるから』
「うん…分かったから、下まで下りて来いよ」
『はぁ~い』
そんな感じで数分待たされやっと二人と合流出来た。
「「それじゃあ行こうか!」」
俺は二人の女子に引っ張られ店内へと向かう。
~一時間後~
「良かったね!可愛いもの買えたじゃん」
「う、うん」
「結構似合ってると思うけど…」
「そうかな?」
そんな感じでこのウサギのフード付きの部屋着を手に入れたのだ。
だが、当日事件が起こる。
俺は約束通り女子の部屋に向かおうとするが、残念なことに斎藤先生に見つかってしまった。「坊主になるかも…」なんて半泣き状態で覚悟してると、斎藤先生は俺の肩に手を置きこう言う。
「可愛いじゃねぇか、楽しめよ」
そう言い残し先生はこの場を後にした。何とか坊主への道は避けることが出来、俺は女子部屋へと入室出来た。
*
時間は現在に戻る。
俺はふと、この話を思い出し先輩にも話してみる。
「そんな事があったんだね、その可愛さは高校生になっても見参という訳だね」
「まぁ、あの後スゲェ男子からの拷問があったんですけどね」
あれはあれで結構きつかった記憶が…。・
「それはそうだよね、君だけ女子部屋に行くなんてね」
そう言いながら笑っている。
「それより明日の支度と…」
「私も手伝うよ」
そんな感じで俺と先輩はキッチンにて二人で作業を始める。
~数分後~
「終わったぁぁぁぁ」
「終わったね」
時間はもう十一時前、俺達は就寝準備に入る。
「先輩はここで寝てください」
「ふぇ?良いの?だって水沢君の部屋だよ?」
「だって約束したじゃないですか」
「あっ!」
自分であんなに喜んでたのに…。
「先輩ってそういうところ多いですよね」
「そうかな?」
「うん、俺はそうだと思うけど」
「でもそういうところが良いよとか思って…」
「ませんから」
俺はそう伝える、そういうと先輩はしょんぼりしながら寝る体制に入る。
「それじゃあ寝ますか」
「うんっ!」
そんな感じで俺たち二人は寝る。
~翌日~
俺は気持ちよさそうに寝てる先輩を横目にして今日の準備と朝食の準備を始める。
「ふぅ…始めますか!」
時間は五時前だ。俺は出発の準備を進めつつ朝食の準備も進める。
数分後俺は簡単に朝食を作り七海たちを起こしに行く。
「ほら七海、起きろ」
「う、もう五分待って…」
「早くしないと間に合わないぞ」
「あっ!そうだった!」
そう言いながら七海は光の如くリビングに向かって行った。
「ふぅ…単純な奴…」
そう呆れながら俺は先輩を起こしに行く。
「お~い、せんぱ~い!起きてくださ~い!」
「はぁ~い」
そう返事をして先輩は体を起こす。
「ほら、朝ご飯作ってありますから、ささっと食べてくださいよ」
そんな感じで先輩は寝起きの体を何とか動かし、リビングに向かっている。
それと同時に俺は出かける準備を始める…と言っても荷物をリビングに運ぶだけだけど。
「よしっ!これで準備完了っと」
準備も終わり、いつでも出発出来るぞい。
「お兄ちゃん、何時に家出るの?」
七海は食パンを銜えながら質問してくる。
「今が十分だから…あと三十分後だね」
「オッケー」
「先輩!早くしないと置いていきますよ」
なぜ俺が先輩にそう言うのかと言うと…先輩半分寝てる状態なんだもん。
「う、うん」
何とか起きてくれた、少しだけど…。
「それじゃあ、食べ終わったら着替えるなり支度してね、四十分には必ず出るよ」
「「はぁ~い」」
大丈夫かな…めっちゃ不安だな…。
その後、先輩と七海は速やかに準備を進め、俺が思っていた以上に時間の余裕が生まれてしまった。
「そ、それじゃあ…準備も終わったし、少し早めに出るか?」
「「えぇ~…やだぁ~」
そう言うと思った…だが俺には秘策がある。
「それじゃあ、好きなお菓子一人三つまで買ってやる」
これが俺の乏しい回路で考えついた秘策だった、この時の俺は効果は無いかと思われたが…。
「「行こう‼今すぐ行こう‼」」
「単純だな…知らない人に『お菓子あげるからついてきなさい』なんて言われたら簡単について行きそうだな…」なんて心配になってしまう勢いだった。
「それじゃあ…戸締りしてっと…忘れ物は無いよな」
俺は再度確認をとり、待ち合わせ場所に向けて出発する。
「「それじゃあ、お菓子を買いにコンビニへ…レッツゴー‼」」
そんなテンションで先輩と七海はコンビニへと向かう。だが…俺にはそんなテンションは無い、なぜなら…『三人分の荷物を持ってるんだから!』先輩たちが持ってるものと言ったらちっこいカバンぐらいだもん。
「せんぱ~い…少しは自分の荷物ぐらい持ってくださいよ…重いよ~」
「駅まで持ってって~」
おいおい…この荷物置いていくぞ…。
そんな感じで俺が荷物持ちになりながらコンビニに着いた。
「それじゃあ、十分で決めてくださいよ」
「「はぁ~い」」
なんか恥ずかしいな…。
「よぉ青年、そんな大荷物持ってどこ行くんだ?」
そう言われて俺はレジの方を見ると近所に住んでるおじさんだった。
「おはようございます、これから箱根ですよ…」
「おぉ!七海ちゃんの隣にいるのは彼女か?」
「違いますよ!あの人は高校の先輩ですよ」
俺はおじさんに事実を伝える。
「ふ~ん、でもお似合いだぞ」
と、おじさんは微笑みながらそう言う。
「だからぁ…」
「「決まったよ~」」
そう言いながら先輩たちはお菓子を持って戻ってきた。
「それじゃあ、会計を」
「はいよ!」
そんな感じで買い物を済ませ駅に向かうためバス停に移動する。
「さてと…次は何時かな?」
だが俺はその事実に対してそれを認めることが出来なかった。
「お兄ちゃん、この時間バス無いよ」
「ホントだね…」
「それじゃあ歩くか!」
「「う、うん…」」
俺たち三人はやむなく歩く事にした、まぁ…俺の調査不足が招いたことだ、一つの反省点にしよう。
~十五分後~
『着いたぁ~』
俺たちは何とか時間より数分前に着いた。
「泰平君、おはよ~」
「おはよ~、宮内」
宮内も大荷物を持ってやって来た。その直後に沙希も改札内から顔を見せる。
「おはようございます!」
「おはよ~、時間まで待っててちょ」
~数分後~
「それじゃあ時間にもなったし、行きますか」
『うんっ!』
俺達は一路待ち合わせ場所の新宿へと向かう。だが…相変わらず三人分の荷物は重い。
「せんぱ~い!そろそろ自分の荷物は自分で持ってくださいよ」
「はぁ~い…」
何とか持ってくれる事になった…むしろ当たり前の事だが…。
~大体一時間後~
「はぁ…長かった…」
俺達は二回目の大都会新宿の地を踏んだ。だが早速俺の特殊スキルが発動してしまう。
「待って…ここから西口ってどうやって向かうの?」
「とりあえず階段下りようよ」
俺達は近くにあった階段を下りると…
『あっ!』
その左手にあったのは…『西口改札』の文字だった。
「待って…マジかよ…」
「泰平君の方向音痴には困ったもんだね」
「そのスキルを違うことに使えないのかな?」
宮内と先輩は微笑みながらそう言う。なんか心が痛い…。
そんな感じで俺達は駅前へと向かう、すると着いてすぐに彼女たちを見つけた。
「あっ!みずっち~‼」
そう言いながら美咲は俺の方へと向かってくるが俺は華麗に回避する。
「ひどいなぁ…」
「ひどいも何もいきなりこんな事するかよ!」
「だって…ねぇ…」
「バ、バカ!その話はするな」
俺が美咲に口止めを要求する。すると美咲は素直に「はぁ~い」と答えた。
「ふぅ…それじゃあ、全員そろったな」
「お兄ちゃん、ホテルの予約は?」
「安心しろ、ちゃんと予約したから」
俺は胸を張って伝える。
「それより何時に出発なの?」
「八時の電車に乗るよ」
そういうと俺以外のメンバーには沈黙が走った。
「ごめん、もっかい言って」
「だから、八時の電車に乗るって」
『はぁ⁉』
「『はぁ⁉』ってなんで?」
するとみんなは口をそろえて言う。
『あと一時間何するの?』
「えっと…そのぉ…どうしよっか」
俺がそう言うと皆は呆れた顔をしてる。
「なんかごめんなさぁ~~~い」
俺はそのまま泣いてしまいそうだった。
~出発二十分前~
「それじゃあそろそろ行きますか」
『はぁ~い』
そんな感じで俺達は電車に乗るためホームへと移動する。
「それじゃあ…切符出してね」
『はぁ~い』
その後俺達は中に入った後売店で買い出しを済ませると電車がやって来た。
『おぉ‼』
我ながらテンションが上がるなぁ。
しばらくすると扉が開き、車内に入る。
「それじゃあ、荷物はここに置いておいてと」
とても便利な事に大型の荷物が置けるブースがあった。
「んじゃあ、席の配置はどうする?」
「それじゃあ私は…水沢君の隣が良いな」
「あぁ!ずるいぃ、ボクも隣が良い」
「私も泰平君の隣が良いかな…」
「私もお兄ちゃんの隣が良い!」
「私も水沢君の隣が良いです!」
それじゃあ、俺は通路側で大凡決定だな。
椅子を向かい合わせに変えた、その後皆でじゃんけんで決め。俺の右隣に美咲、斜め右には七海、正面には宮内、通路を挟んで左側には先輩、左斜めには沙希、という配置だった。ちなみに日高はこのメンバーにはいなかった、それと小山は沙希の隣に座っていた。
座席を決めた直後、電車はゆっくりと動き始めた。
「それじゃあ終点までババ抜きか何かする?」
「メジャーだね、流石お兄ちゃん」
「そんな事言われてもなぁ…」
そんな感じでババ抜きを始める。結論は…俺の負けだった。
「はぁ………なんで負けるのかなぁ………………」
「よわぁ~い」
はぁ…、心が痛い。
「もう一回だ!」
「また負けるかもよ」
「流石に今度は負けないよ」
だが期待を裏切らない俺、結果は二連敗。
はぁ…このスキルって…。俺って一体幾つのスキルを持ってしまうのだろうか…。
「それより…ボクお腹空いたぁ」
「そういえば…私も…」
「私もです」
皆空腹らしい。俺は事前に作っておいたサンドイッチの入った弁当箱を取り出す。
「それじゃあこの四つはそっちの分ね、じゃあこの四つはこっちの分だね」
「これって…一人一つで作ったの?」
「もちろん!そっちの方が良いかな?って」
俺が小さな弁当箱を渡すと皆は美味しそうにサンドイッチ食べている。
「どう?口に合ったかな?」
「うん!ボク好みかな?」
「私も好きだよ」
「私も好きです」
どうやら皆からの評判は良いらしい。
「良かった、少し自信なかったんだ」
俺が胸を撫で下ろすとと先輩がいらない一言を添えてきた。
「私と一緒に作ったもんね」
「誤解を招くことを言わないでくれよ」
「それってどういう事?ボクという人が居ながら」
「泰平君どういうことなの?」
「違うから!何もなかった!」
彼女たちにあんな事があったなんて口が裂けても言えない。
その後こんな話が持ち上がった。
「それにしてもさっきから気になってたんだけど、真希ちゃんは?」
「あぁ、あいつ曰く『箱根かぁ…ごめん、その日は出かけるんだ…』って都合が合わなかったらしいよ」
「えぇ…残念」
宮内はがっかりしていた。
「あっ、そういえば『楽しみにしててね』なんて言う意味深な発言してたな」
俺がそれを言うと皆の頭の上には?マークが浮かんでいるように見えた。
「まぁ…仕方ないよ…予定が合わなかったんだし」
俺は一応そういう事があったよという事を伝えた。
しばらくすると周りの景色がガラッと変わった、周りには山が見え始めなんか都会とは違うなんだか…田舎チックな感じだ。
「あっ!富士山だ‼」
『どれどれ?』
みんなは右側の窓に顔を近づけ富士山を眺める。
その後もここならではの車窓を楽しみ、もうじき終点に着きそうだ。
「もうすぐ着くから降りる支度してね」
『はぁ~い』
皆は荷物をまとめて降りる準備を始めている。
『まもなく終点箱根湯本です、お忘れ物――――――』
その放送が聞くとやっぱり箱根に着いた感じがする。
その後荷物をまとめてドアの前に立つ。ドアが開き箱根の地に降り立った俺達。
『箱根だぁぁぁぁ‼』
みんなテンションマックスだった。だってマジで来ちゃったんだから。
「それじゃあ、宿に荷物置きにいこっか」
「じゃあ、宿までの案内よろしくぅ!」
「オッケー」
今回はちゃんと調べておいたし、Go●gle MAP先生にも頼んでるし大丈夫だろ。
綺麗な街並みを歩き数分後。
「着いたよ!」
『おぉ‼』
俺達は旅館の中に入った。中は…スゲェいい雰囲気だった。
「いらっしゃいませ、ご予約いただいたお客様のお名前をお伺い出来ますか?」
「水沢です」
そう言うと予約リストを見ているのだろうか、確認している。
「本日八名様でお伺いしていますが」
「はい」
その後も色々と手順を済ませ、やっと部屋に入れる。
「それじゃあ部屋割りだけど…この前決めたのでいいよね」
『うん!』
『う、うん!』
意見は二つに割れた、なぜなら…電車の座席が部屋割りだからね。
「し、仕方ないよ、それじゃあ荷物置いて準備してロビーに集合ね」
『はぁ~い』
俺達四人は自分の部屋に入った途端、女子たちが騒めき始めた。
『うわぁ~~~!すご~~~い!』
「どうしたんだ?」
「見て見てみずっち~浴衣だよ」
「へぇ~こんなの置いてあるんだな」
少し驚きだった。
「お兄ちゃん楽しそうだね」
「あぁ!スゲェ楽しい!」
この時の俺は楽しさのあまり忘れていたが、あの事があったことをすっかり忘れていた。
更新が遅れてごめんなさい…。
活動再開をいたします。
次話投稿は四月上旬を予定しています、お待ちください。