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ヴェレーユ① 会いたい

今朝突然、母が刺繍をやりたいと言い出したので、図書館へ本を借りに行く。


「行ってきます」


父が外出している場合、母はここを離れるわけにはいかない。

娘の私には事務作業はともかく、町長夫人の役目は代われないからだ。


「いつもごめんなさいね~」


私は外出が嫌いではないし、図書館へ行くのは好きだから、別にかまわなかった。


図書館へ行ったらまた、ヴェレーユと会いそう……。



「こんにちはリベクターさん」


今日はヴェレーユさんはいない様子。

貴族の彼が頻繁に外出するのもおかしいが、彼がいないのは少しだけ寂しい気もした。



「え?」



本を見て回ると、大きな声が聴こえた。


何事か気になって、本を取るフリをしつつ、然り気無く近くへ寄る。

死角に入るあたりで、耳をすました。


「まあ、あのブラン家が……?」


ブラン家について、若い女性達が噂をしている。

ブランといえば、ヴェレーユの家だわ。



「冗談が過ぎますわ、あの方が闇の方々と関わりだなんて……」


案外わざとらしく、聞こえよがしな噂の仕方をしている。


ヴェレーユの取り巻き、ではないのかしら。



彼女たちのいう闇とは、おそらく町の地下に住む大罪組織【黒龍暗】のこと。


強い権威を持ち、何年もこの国を裏で操り続けるという影の存在。


そんな組織とブラン家に、どんな関わりがあるというのだろう。


ヴェレーユのことが気にかかったけれど、私には、関係のないことだわ。


こういうことは、興味本意で首を突っ込んではいけない。

生きている人間は、死んだ人間より怖い。


私は刺繍の本をみつけ、借りた。



向こうからフードの人が走ってくる。


「うわ……!」

「……っ!?」


そのままぶつかってしまった。



フードから、少し顔が見えて驚いた。


彼は噂をしていたヴェレーユだったからだ。


どういうことか、説明してもらいたいけど、私は彼とは何の関係もない。

それに貴族でもない私が軽々しく彼に問うなど、おこがましい。


「こっちへ!」

「…え、なぜ?」


ヴェレーユは私の手を引いて、追手から逃げた。



「ヴェレーユ様、さすがに、おたずねしてもよろしいですよね?」


彼とは数回面識がある程度、えんもゆかりも無い。

それなのに、なぜ巻き込まれてしまったのだろう。



「いやあ……なんというかつい、物語のワンシーンにありそうだったから」


ヴェレーユは悪気があったわけではない。

それはこの様子を見ればわかるけど、彼が追われていた理由が気になる。



「……実は家を飛び出した次兄が怪しい組織にお金を借りたらしくて」


彼の話が図書館の噂とリンクした。



「図書館で類似する噂を聞きました」


ただしそれは、彼の兄ではなくヴェレーユ本人に疑惑が向いていたようである。


「……ほとほと困り果てた僕は、知り合いに助けを求めにいくことにした

その最中で君を見つけて今にいたるわけさ!」


ヴェレーユはやれやれ、お手上げのポーズをとる。


「私が邪魔をしたようですみません。失礼しますね」

「いや、むしろ君さえ良かったら一緒に行って貰えないかな、なんて……」


ヴェレーユは何やらそわりそわりと落ち着かない。

あまり行きたくない場所なのだろうか。



「わかりました」

困っている人に手を差しのべるのは当然。


ヴェレーユのあとをついていくことにした。



「ここが……」


昼間だというのに屋根がかかったような暗さ。


ここは地下にある闇の都市部、いわゆる裏ストリートだろう。


なぜこんな場所にヴェレーユの知り合いが居るか、それより会うのはどんな人物なのかが心配だ。



少し歩くと、豪邸があった。

もしかして【黒龍暗こくりゅうあん】の住居なのかしら。



「お前がこんな時間に来るとは珍しいな」


長い焦げ茶髪に、サングラスの男性が椅子に座って出迎えていた。


どこかでみた気がするけど、気のせいだろう。



「おい、どうしてその子を連れてきた」

「成り行きで」


二人は何やら秘密の会話をしている。


「彼は黒龍雷クーロンライ組織トップの息子、要するに若頭だよ」


サラり。あまりに平然としすぎではないだろうか。


ヴェレーユの言うことは、とても普通ではない。

彼は潔白名高い貴族、相手は闇の組織。


ふわりとして純粋そうなヴェレーユ。

そんな彼とは正反対の知り合い。


驚ろきのあまり、頭が混乱しそうだ。


ヴェレーユは彼に事情を説明し終えたので、私を連れて屋敷を出た。



「あの、問題のほうは解決なさいましたか?」

「うん、なんとか手を回してくれるようだよ」


ヴェレーユは息をつく。ひとまずは良かった。



「ヴェレーユ様、私はこれで失礼させていただきます」

「ああ、連れまわしてすまなかったね」

______________________




「お帰りなさい~」

「ただいま。はい、刺繍本」

「ありがとう、さっそく始めるわ~」

______________________



―――――今日は疲れた。


ベッドに横になり、目を閉じる。

裏タウン、違法組織の屋敷に行ったことが思いだされる。


ただついて行っただけとはいえ目が冴えて、眠れない。


ヴェレーユ様の意外なところばかり見たからだろうか。

とにかく寝ないと。


昼頃、扉がノックされ、誰だろうと開く。


「やあひさしぶり」

「ヴェレーユ様!」


彼が訪ねてくるなど、まったく想像していなかった。


「君の姿をひさしぶりに見たくなって、会いに来たんだ」


「出歩いて……大丈夫なのですか!?」


「ああ、しばらく屋敷でじっとしていたんだが、奴等なら彼がなんとかしてくれた」

「よかった……」


黒龍暗は悪い組織だけど、悪い組織には同じ立場の存在が対処しなければならない。


それはわかっていても、ヴェレーユが組織と親しいことが公になったら大変だと思う。

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