共通 蝶と蠍の出逢いは運命
―――――ある日のこと、父が国王から直々に町長に市名された。
両親とともに、王都・カルデラへいくことになった。
「久し振りに来たわねー」
私は物心ついたときは隣町で生活していたけれど、 小さな頃少しだけここに住んでいたらしい。
今回、父様が町長をつとめることになったから一家で戻ってきた。
「このあたりは生活水準も高く、治安が良くて、とても住みやすい環境なのです」
街の案内をしてくれるのは “サエル=シュヴァルツ氏”
本業はカルデラでも有名な町医者だという。
「綺麗…」
向こうの高い位置からピュアホワイトの美しい外観の城が覗く。
あそこにはきらびやかなドレスを着たお姫様、素敵な王子様がいるんだろうなあ…。
「ここが、お住まいになる家です」
「なかなか良いところだ」「そうね」
新しい住まいを、父や母は気に入ったらしい。
仲よく微笑みあっている。
「あちらの方には私の診療所があります」
この家から歩いてすぐにつく場所だ。
いつ病になっても、すぐ駆けつけられるし、家の近くにあるのはありがたい。
案内を終えたサエル氏は、会釈をして、診療所の方へ去っていった。
綺麗な紫の目だったな。
「父様、街を見てまわってもいい?」
「ああもちろん。
ライア、この町でもお友達ができるといいな」
「ええ!」
私は人の多そうな場所を探した。
しばらく歩くと大きな建物、王立図書館を見つけた。
せっかくだからなにか本を読もう。
「【女神クレイシニーについて】」
この国の女神様について書いてある本みたい。
残念、手が届かない。
脚立に登って―――。
私は足を滑らせてしまった。
「…」
誰かが受け止めたというよりは巻き込んで下敷きにした。
長いグレーの髪を後ろで束ね、ロングコートを着た青年は不機嫌そうな表情をしている。
「金髪のお嬢さん
そろそろどいてもらえるか?」
「ご…ごめんなさい!」
青年は床に落ちた眼鏡をスッと拾う。
「眼鏡は、割れていません?」
「ああ」
眼鏡には傷ひとつ無く、私はホッとした。
度の違いがあるから人によって眼鏡を作るのは日がかかる。いつだったか父がそう言っていたからだ。
「本を取るときは言え」
青年は軽くレンズの表面をぬぐって、眼鏡をかけた。
「え?いつもここいるのですか?」
「俺はここの司書だ」
「そうなんですか…」
さっきの本を借りて、帰ろう。
借りた本を持ちながら遊びにいくのは得策ではないもの。
「うあーん」
少年が泣いている。あきらかに迷子だ。
「どうしたの?」
町長の娘として、こういうのは放置できない。
「ママとはぐれたあああ!!」
あ、足をすりむいている。
「ぼく、怪我をしているからまずは診療所にいきましょ?」
「うん…」
「サエル先生」
「ああ、町長の娘さん」
「ライアです。あの、先ほど見かけた迷子の少年が怪我をしていて…」
「そうか、さあ、傷を見せて…」
サエル先生は少年の擦り傷をしめらせ、綺麗なガーゼで拭い、消毒液をひたした綿をトントン押し付けた。
見ているだけでとてもいたそうで、私も転ばないよう気を付けようと思った。
「後は私にまかせて、君は帰られるといいですよ」
「はい」
忘れないよう本を持って、私は帰路についた。
―――――
「ななな!」
早朝から父が慌ただしくしている。
「どうしたのあなた」
「王国から手紙―――?」
===
手紙は王城で開くパーティーの招待状だった。
私はいま父に連れられて、パーティーに参加している。
母は今日は体調がよくないらしく家にいる。
いくら父様が町長でも、平民の私が王族や貴族達に混じっていいものかしら。
きっと周りから場違い、と思われている筈だわ。
「なんと、美しいレディだろう」
「きゃ!?」
シルヴァーパープルの髪の青年が、眼前に差し出す一輪の赤薔薇に圧倒され、私は後ずさった。
「あの…」
「失礼、僕はヴェレーユ=ブラン。伯爵家の三男さ」
動作がいちいち大袈裟だ。
「キャーヴェレーユさまだわあああ!!」
女性達の黄色い歓声があがる。
み、耳が!!
女性達はヴェレーユ=ブランに突進してくる。
「…!」
誰かがぶつかるギリギリの所で逃がしてくれた。
ほんとうに危ないところだった。
「大丈夫?」
「はい、ありがとうございます」
「怪我がなくてよかったよ」
彼は何者だろう。
「貴方はいったい?」
「オレ?オレは錬金術士さ!
…見習いだけど」
錬金術士…?
名前だけなら聞いたことはあるが、実物は初めてみた。
都市伝説とばかり思っていた。
「放浪の方ですか?」
「いやー約10年前からカルデラに住んでいるよ?」
「そうですか…変なことを聞いてすみません」
「そろそろ父のところへ戻ります
ありがとうございました」
私は錬金術士さんに軽く頭を下げて、開場へ戻った。
===
「例の少女が現れました」
青髪の男は、椅子に座るプラチナブロンドの品良い青年に、ひそやかに耳打ちをする。
「なるほど、あれが…」
青年はハッと目を開き、口の端をつり上げる。
「いかがなさるおつもりですか」
青髪の男は、問いではなく、確認をとった。
「さて?」
とだけ言う。
青年は何も答えない。
「話しかけてはいかがですか」
「そうだねクリル、まずは声をかけてくるよ」
「…やあ」
「貴方は…」
肩からかけられたマント、頭に冠をのせた金髪の青年は、少女に声をかける。
「第2王子・ルフスカルだよ」
―――少女は驚く。なぜなら、相手が自分に話しかけるような、それほどにも安い身分ではないと、知っている。
“何故、王子が私に話しかけているのだろう”。
少女は心の中でそう思っていることであろう。
――――
私はいま、王子様に話しかけられている。
まっすぐ整って綺麗な髪の彼は完璧な微笑みをたたえている。
なぜだろう怖い。
彼は笑っているのに、笑っていない気がする。
この感覚は好意的なものではない。
背筋はぞくりとした。
彼は笑顔の奥に、狂気を隠している。
「君の父上が、町長になったと聞いたものでね」
ふと、気がつくと王子から妙な気配は消えていた。
さっきの嫌な感覚はなんだったのだろう。
「あ、ありがとうございます殿下」
…周りの視線が針のように刺さる。
王子はもう用が済んだようだ。
近くに控えていた青髪の男性と、連れだって去った。
もうパーティーが終わるまで目立たないように端にいよう。
そして無事、何事もなく父と帰宅。
父は母にパーティーの話をしていた。
本来パーティーは夫婦、男女がペアで行くものだが、母は呼ばれていない。
平民が参加することは異例なのだ。
それにしてもお城がどうして私を呼んだのか、わからない。
「ライア、いい男性はいた?」
結婚相手のことだろうか。
「母様!?王族や貴族ばかりで、身分が違いすぎるわ!」
「なあに、爵位を買えばいいじゃないか」
そういう問題じゃないような…。
自室に戻って早めに就寝した。
翌日、外が騒がしいので目を覚ました。
「またなの…恐いわ…」
なんだが様子がおかしい。
とても旅芸人がいるような雰囲気ではない。
「なにかあったんですか?」
事情を尋ねると、ここで男性の死体が見つかったらしい。
口に出すのも憚るような惨たらしさ。
現場はいかにも血生臭い、といった雰囲気だ。
「こりゃきっと【殺人魔スコーピオン】の仕業だな」
殺人魔スコーピオン…?
聞いたことがない名前だ。
私は図書館に行き、殺人魔について調べに行く。
「おや、偶然ですね」
「サエル先生!」
先生は医学関係の本を読んでいた。
…診療所はいいのだろうか。
お医者様なのだから、遺体を調べたりする筈よね。
「あの、殺人魔スコーピオンって知っていますか?」
調べるより聞いた方が早そうなので、訪ねてみた。
「知っていますよ、有名な話ですから。」
「いったいどんなことが…?」
怖いものみたさ、というやつだろうか、恐怖より興味が勝った。
「今から約16年前に、ある男が数多の人々を毒殺したんです」
16年前は私が生まれた年なので、知らないはずだ。
「…なるほど、だから毒蠍、なんですか」
それにしても先生はすごい。
残酷な話なのに、サラリと言われると、恐怖しているのが、むしろ変な気がして不思議だ。
「どうしてそんなことを?」
何年も前の話を今さら聞かれたからか、いぶかしむ先生。
「さっき事件がおきていて噂をしている人がそれだと」
「おかしいですね、16年前から、いままでこんなこと、起きなかったのですが…」
先生は言葉を濁したけど、16年前にスコーピオンが消えてから今日まで、ということだろうか。
―――――
「あの、先生は診療所を空けられても大丈夫ですか?」
「急患がいれば、大丈夫ではないでしょうね…」
診療所には他に人がいなかったような気がする。
「一人なんですか?」
「はい、一人です」
先生が全てを一人でやるのは無理はないだろうか。
「これから知り合いの所に行くのですが…」
「何か?」
先生はちらりと私を見る
「私は診療所に行くので、代わりにこの場所へ行っていただけませんか?」
「いいですよ」
断る理由もないので、頷く。
とても晴れやかな顔で、地図を渡された。
もしや、行きたくない所なのだろうか。
「ここが…」
レンガや木とは違う異質な白い石作りの家だ。
別世界に来たような感覚に、私はつい見入ってしまう。
「ごめんください」
返事はない。
「失礼します」
入ってしまおう。
辺りは太陽の光が遮断されていて、薄暗い。
「…」
「きゃああああああああ」
ゆらりと現れたのは白衣らしきものを着た謎の男性。
まるで生気が感じられない。ゴースト!?
「五月蝿いぞ…僕のアトリエで何を騒いでいる」
「すっすみません!!」
一応人間だった。とにかく事情を話す。
「そうか…アイツめ。逃げたな」
男性がうつ向くと、眼鏡が白く光る。
不思議、ここ、光が差さないのに…。
「僕はミケルェン。
皆からは博士、と呼ばれている」
お医者、ではなく博士だったのか。
白衣を着ていたからサエル先生の医者仲間だと思っていた。
「あの…博士、差し出がましいことを聞いてしまうんですが
どうなさったんですか?」
なにがあったのか、気になってたずねてしまった。
「検死をしろと云われたのだよ」
「…はあ」
なぜ博士に?
「僕はアクまでも博士…ホムンクルスや改造、人体実験が専門なのに!!」
ミケルェン博士は頭を机にガンガンと打ち付けた。
「あわわ…おちついてくださいいい!!」
初めてみる光景に、私は驚く。
博士が正気に戻るまで、気がきでない思いになるのだった。
―――――
『もういいよ、君は帰りたまえ』
「…つっつかれた…!」
ライアはあれから、ミケルウェンの研究室を、追い出される出た。
そして、ドッとした疲れが押し寄せる。
「もう夕方だけど…」
日の光を浴びることが出来たと、ささやかな幸せを噛み締めるライア。
「夕日はいいよね―――――血のような赭で」
背後から耳元に声がしたのに気がつき、ライアが振り向く。
高い位置で結い上げられた長髪、ロングコート、目立つ蝶の仮面を着けた奇妙な男。
「君は、なんとも厄介なことに巻き込まれたね」
男は意味深な言葉を呟いて、ライアの横を通りすぎる。
(なんだったの…)
男との邂逅はライアにとって、なんとも不可思議な体験であったことは確かだ。
(取り合えずサエル先生に博士からの伝言を伝えないと)
「サエル先生…(いないの?)」
外側窓を見れば、診療所の内部がまっ暗だとわかる。
念のためライアは中に入る。
やはり明かりがつけられていない。
近年大きめの電球は普及しており、診療所の天井にも備えてあった。
不在なのか。ライアは諦めて帰宅しようとする。
「どうしました?」
右手に注射器を片手にしたサエルが、ライアを呼び止めた。
サエルは左手に持っていた蝋燭をテーブルに置く。
「あの、こんなに暗い場所で作業なさるのは
なぜですか?」
ライアはたずねた。
許可なく天井のランプをつけるわけにもいかないためだ。
「明かりをつけないのはどうしてか
ということですよね」
コトり、サエルは注射器をテーブルに置く。
「地下でレントゲン写真を」
「なるほど(写真は暗いところで液体に着けるものね)」
ライアに医学の知識はないため、深くは聞かなかった。
「あの、ミケルウェン博士とはご友人だったんですね」
ミケルウェンについて、サエルに問う。
「ええ、昔色々ありまして」
「色々?」
どんな過去があるのか、ライアは気になっている。
「大した話ではないのですが
私は昔…少々ヤンチャをしてしまいまして」
「ヤンチャ?」
「もうこんな時間ですね。おくります
今の話はまたの機会に」
「はい(なんだかはぐらかされたような)」
「では、わかっていると思いますが
夜道には気を付けてください」
「ありがとうございました」
ライアが家の中に入るのを確認し、サエルは診療所へ戻った。
―――
「ライアちゃん。
ママね、ガーデニングを始めようと思うのよ」
ライアの母は花壇をいじりながらフワフワとした口調で話す。
「そうな…」
ライアが母親のほうを振り向いて、花壇に目をみやると、とんでもない光景を目の当たりにした。
彼女は如雨露に水を入れて、花の種を入れ花水をかけている。
むしろ水を‘かける’というよりも‘いれる’だ。
やりすぎではないだろうか。
ライアは花が可愛そうで、花が枯れてしまうのではないかと慌てる。
「あらあら…王立図書館で植物の本を借りてきてくれない?」
「わかったわ!」
王立図書館に来た。しかし。
植物の本をこの膨大な数の棚から見つけ出すなんて、無理ではないか。
ライアは茫然と立ちつくした。
「やあ、また会ったね」
「貴方は…ヴェレーユ様?」
(また会うことになるなんて、驚いたわ)
図書館で大声を出すわけにもいかないため、ライアは両手で口をおさえた。
なぜ、貴族が図書館にいるのか。
ここは王立図書館。
貴族がいても変ではないだろう。
自問自答するライアに、ヴェレーユは微笑んだ。
「もしや、なにか探しているのかい?」
ヴェレーユはちらりちらり、本とライアを交互に、視線をゆっくり移動させた。
手伝うと、いわんばかりの素振りを見せた。
「手伝うよ?」
「ええ…ですが」
ライアは困った。
貴族の子息相手に、本探しなど頼めるはずがない。
「ねっ!?」
しかし、ライアから見れば平民の自身から貴族の彼の好意を無下にするのも失礼にあたる。
「ええと…」
ヴェレーユは、顔をずいずいと近づけ、ライアをじっと見る。
「ヴェレーユ。自分の立場を考えろ」
「リベクターさん」
リベクターはライアにずいずいと迫るヴェレーユを、ひき放した。
「お前風に言えば、レディに軽々しく近づくのは失礼じゃないのか」
リベクターにいわれ、ハッと何かに気がついた様子のヴェレーユは、顔を真っ赤にした。
「お二人はお知り合いなのですか?」
「そうだよ、なあ?」
「ああ、いわゆる幼馴染だ」
ライアから視て、両者の仲は良くも、悪くもない雰囲気だった。
「リベクターさんも貴族なんですよね?」
ライアは彼が、ヴェレーユと砕けた話し方で接していたことから、そう推測した。
「いや、違う。そんなことより、何か探しているんだろう」
「あの、植物の本を…」
ライアは本を借りて帰宅した。
平民の子が貴族の子とどう友人になったのか、ライアは気になっていた。
しかし、はぐらかされる。
詳しいことは、おしえてはもらえなかった。
――――――――
―――早朝、またもや屋内が騒がしいので、いつもより少し早めに目を覚ました。
「大変だ!!」
「あなた、どうしたの」
「また事件が起きた…!」
ライアの父は、新聞に目を通しながら、血相を変えている。
「まあ、怖いわ」
「…またあの伝説の殺人魔の仕業?」
ライアは見たことのないスコーピオンの姿を思い浮かべ、震えあがる。
「いたっ」
新聞を手にとろうとし、ライアは、軽く指をきってしまった。
「まあ大変!先生に診てもらいましょライアちゃん」
「少し切った程度だから平気よ母様」
「傷から菌が入ったら大変だものいきましょ?」
さすがに診療所で手当てするような怪我ではない。
ライアは苦笑いを浮かべる。
(心配してくれるのはありがたいけど)
母が納得するように、ライアはサエルの元へ、行ったフリをすることにした。
母親は玄関からライアを見送っている。
完全な嘘は見抜かれるので、診療所に行くだけはいった。
「…が…だ…」
「…さ…ろ……ね…」
(サエル先生と、患者さん?)
話し声が聞こえた為、立ち止まる。
「おや、今日は」
まもなくドアが開き、驚いて、逃げ出しそうになるライア。
「用があるなら入りなよ」
薄茶色の長い髪の青年は、一瞬口の端をつりあげるとライアの腕を掴んだ。
(なに…)
青年は綺麗な顔をしている。
しかし、彼からおぞましい空気が感じられ、気味が悪くなる。
「きゃっ」
そのまま持ち上げたと思うと、サエルの方へ、つき飛ばした。
「…大丈夫ですか?」
サエルは肩と腰を抱き止めて支える。
「はい…」
サエル、ライアは青年の行動に、唖然とした。
「じゃあ、僕は帰るよ」
いつの間にか先程の笑み、気味の悪い雰囲気は消え、青年は空虚と云うほど、無表情になっていた。
「もう来なくていいですよ」
「あの…」
サエルはなぜあの青年と話していたのか、ライアは気になって仕方がない。
ただの患者には見えなかったと、彼を思い出す。
「すみません」
「いえ…サエル先生が謝ることでは…」
なぜここを通りかかったか、サエルにたずねられ、いきさつを話す。
ライアは手の傷を見せた。その場で軽めの治療してもらうと、二人は別れる。
――――――
――――次の日の昼。
「ライアちゃん、ママ、今日はアップルパイを焼こうと思うの」
「母様の作るアップルパイ、久しぶりね。楽しみだわ」
「でもリンゴが無いのよ…買ってきてくれないかしら?」
「わかったわ」
ライアは近くの市場でリンゴを3つ程買う。
寄り道はせずにまっすぐ家に帰ることにした。
(アップルパイ、早く食べたいなあ)
道中、出来上がったパイの甘い匂いや味を考えていると、通行人とぶつかってしまった。
「いって!」
「いたた…」
ぶつかった衝撃で、少年は、後ろに倒れ、尻餅をついていた。
「すみません…」
ライアは手を差しのべる。
「ああどうも」
通行人の少年は照れ臭そうにうつむいたまま、ライア手をとり、立ち上がる。
「ほんとうにごめんなさい怪我してませんか?」
「こっちこ…そ!?」
少年は、ライアの顔を見て、何かに驚いた様子になり、そのまま静止した。
「どうかしました?」
「お前ライア?」
「そうですけど…もしかして!」
ライアはハッとして、少年を指さす。
「‘アレン’だよ。昔よく広場で遊んだろ?」
「久しぶりね!元気そうでよかったわ」
偶然にも、ぶつかった相手は、ライアが幼少の頃、この町に住んでいたときの、遊び相手だった。
「お前は田舎のほうで暮らしているって聞いたけど、こっちに帰ってたんだな」
「ええほんの最近家族で来たの」
帰宅の最中、二人は互いの日常のこと、こちらに来た経緯などを語る。
「オレん家は向こうだから」
「またね」
ライアは帰宅して、母のジャクリーンにリンゴを渡す。
父・クリストフも、芳ばしい匂いにつられ、仕事部屋から出てきた。
「はーいできましたよ」
家族三人が椅子に座り。
焼きたてのアップルパイを仲良く食べるのだった。
――――
「今日は楽しかったわ」
ライアは部屋に戻ると、換気のために窓を開けていたことを思い出した。
「?」
窓の近くに行くと、どこかで見たような人影が通りすぎるのが見えた。
薄暗くても街灯があり、サングラスをかけていて、髪の長い男だったことだけはわかった。
(なんとなく暗くてよくわからないわ…)
ライアはきにせず、窓をしめて、寝台に向かい、すぐに眠りにおちた。
――翌日になり私が本を返してきたところで、知らない人が家にきていた。
「彼は私の弟の子で~あなたの一つ上だから、従兄にあたるのよ~」
「はじめまして~僕はルジェドっていうんだ~」
「は、はじめましてライアです」
挨拶をされたので、困惑しつつも返す。それにしても母と彼は話し方や雰囲気がにている。
母の弟、私にとって叔父にあたる人とは会ったことがない。
だがきっと母と彼を足して2で割った感じなのだろうと思う。
ルジェドは仕事できていて、しばらくこの近くに滞在するらしい。
★これからどうしよう。
【ヴェレーユに会いたい】
【王立図書館へ】
【アレンにあいたい】
【博士が心配】
【診療所にいく】