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2.殺し屋の実行は大胆に

前回の続きです。

黒のアウディを走らせていたのはメイドに太郎と呼ばれていたあの少年だった。もっとも今の見た目が全くの別人ではある。物騒な彼の装備品とは裏腹にその運転はとても穏やかで丁寧なものであった。ギアチェンジの度にクラッチを丁寧に外しまた丁寧に繋ぐ。あまりにもその一連の動作が流れる小川のせせらぎのようで注意してエンジンの音に耳を澄ませていなければギアチェンジの瞬間がわからない程であった。

しばらくして彼が車を駐車したのは渋谷の中心部から少し離れた地下駐車場であった。彼は入口の受付の男に今回渡されたiPhoneのスリープを解除して画面を見せた。受付の男は全てを察して

「通んな。特等席を開けてある」

と言ってコンクリートでできた壁にある隠し扉を開けた。

Grazie(グラッチェ)

と囁きながらポケットから金貨を取り出し受付の男に渡した。

隠してあった駐車部屋に車を停めて部屋の扉を開けるとそこは地下のクラブハウスであった。喧々たる音楽が幾重にも重なりあい不協和音を奏でハロウィンで仮装をした若者が所狭しとひしめき合い踊り狂っていた。しかしここが彼の目的の場所ではない。人混みをすり抜けながら奥へと進んでいく。彼の目的の場所はさらにこの先のもう1つのフロアである。扉を開けるとすると横から

「待ちな。ここから先は貸し切りだ。わかったらとっとと回れ右をしな」

と横のカウンターにいた耳と鼻に大量のピアスをつけ髪を金に染めた1人の若者に制止された。すると彼は用意していたzippoを取り出しその模様をこのピアス男に見せつけた。

「実は僕も招待されているんです」

と言って更にセブンスターを取り出して一本タバコをピアス男に差し出し

「1本どうですか?」

と続けた。ピアス男はそれを受け取り彼がそれに火をつけた

「わりぃわりぃ。通んな」

とピアス男はタバコをふかしながら横を向いて言った。

「どうも」

と彼が返した瞬間彼はピアス男の頭に手を伸ばしその首は180度ほど捻り曲げた。

「まずは1人」

一瞬の内に絶命したピアス男は悲鳴をあげる隙もなく倒れた。周りの客は中央のDJに注意が向いているため誰も気づいていない。彼はこの屍をカウンターの下に隠してその先のフロアへと向かった。

そのフロアは1つ前のフロアとは違った雰囲気を醸し出していた。音楽が騒々しいのは変わらないが踊っている人間は先ほどより多くない。ソファに腰掛けている連中は皆一様に顔にピアスを開けたり、腕や肩にお揃いのタトゥーを入れていた。ストリートギャングのようだ。ここではドラッグの取引やギャング通しの会合が開かれているらしい。真ん中で踊っている過激な衣装の女性たちはさながら彼等のツレといったところか。そして彼は標的のギャングのメンバーが入れているタトゥーを見つけ気づかれないように近づいた。

周りに沢山の子分がいる。彼は腕時計の仕掛けを作動して革のベルトを伸ばした。子分の一人がボスに飲み物を取ってこようと離れた。柱の裏に子分が回り込んだ瞬間後ろからベルトを首にかけ振り返り背中合わせになり身体を屈めた。所謂地蔵背負いというやつだ。バタバタを暴れていた子分の脚はゼンマイが止まった機械人形のようにパッタリと止まった。この壊れた人形を床に下ろした。その時、なかなか戻ってこない仲間を不信に思ったのだろう別の子分2人が近づいてきた。彼はすぐさまジャケットからM92Fを取り出し子分が仲間の亡骸を認めるのと同時に彼等に向かい頭部に2発ずつ発砲した。

全弾それぞれの頭部に命中した。発砲音は囂囂たる音楽に掻き消されたがギャングの数人が倒れた仲間を見つけた。音楽が止まり、照明が点いてこのフロアが異常事態になった事が標的のギャングのボスに気づかれた。ほかのギャングもそれに気がついてクラブハウスから撤退し始めた。おそらく面倒事に顔を突っ込んで貴重な兵隊を失うのは少々値が張ると踏んだのだろう。彼は囲まれないようにその場を移動してジャケットの内ポケットからペンを取り出した。仲間を殺されたギャングの子分は熱り立って彼に殴りかかってきた。しかし彼はそれを軽くかわして子分の首下にペンを刺した。ペンを一度しまって痛がってる内にネックツイストをして殺した。次は2人掛かりでナイフを持って彼に襲いかかる。先に振りかかってきた子分の足の甲に銃弾を1発浴びせ動きを制止させたあともう1人の子分ナイフを振り払いその切っ先を足を撃たれた子分の方にいなした。勢いは止まらず同士討ちに2人の子分は同士討ちになった。2人が項垂れているうちに他のギャングは彼の背後に入り彼に向けて拳銃を突きつけようとしたがすぐに彼はそれを看破して同士討ちの2人の後ろに滑り込み銃弾の雨を肉の壁で塞いだ。しばらくして弾幕が止まった時にはすでにこの2人の命も止まっていた。彼は銃を持っているギャング達の上にある大きめのミラーボールをハンドガンで撃ち込みそれを彼等の上に落とした。そして弾倉を取り出してこの隙に彼の後ろに回っていた1人の子分の胸にそれを突き刺した。そしてすぐさまジャケットの袖から予備の弾倉を取り出して装填し、胸に弾倉を刺されて苦しむ男の頭部に2発銃弾をぶち込んだ。

「これで胸の苦しみは消えましたか?」

先ほどミラーボールで仕留め損ねた銃をもっている連中にも確実に2発ずつ頭部に射撃したのちに彼がこう呟いた。残ったのはボスとNO.2と思しき男の2人。彼等は対峙している男が只者ではない事に気がついて隣のフロアに逃げ込んだ。

さっきまで人がごった返していたそのフロアには人っ子一人居なかった。恐らく隣で殺し合いが起きていることに気がついて客はもう逃げたのだろう。2人はフロアの中央を走り抜け出口に急いだ。

「ターゲットが逃げます。全部の出入り口を塞いでください。」

彼はiPhoneでオペレータにそう要請した。

「了解」

と短く返事があった後に出口のシャッターが無情にも閉まり3人を閉じ込めた。

彼は2人に近づき拳銃を向けた。

ボスの男は命乞いを始め、NO.2の男は覚悟を決めたような顔立ちでボスの前に立ち塞がった。


彼がこの2人を殺すことは造作もないことだがそれが出来ない確かな理由があった。


前回連載を連鎖と間違えてました。

申し訳ございません

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