1.殺し屋の準備は繊細に
前回書いた短編小説「ある殺し屋の一仕事」の続編です。できればそちらを読んでからこちらを読んでいただければ幸いです。また連載は初めてです。至らない点がこちらにも多々あると思いますが続く限りお付き合いくだされば幸いです。
季節は秋。幾分肌寒くなってきた頃合いである。朝になり1人の少年が目を覚まし身体を起こす。年齢が16歳程度といったところか、何処かで見覚えのある顔である。そう彼こそが先日オフィスビルの一件で暴力団を次々に殺したあの男であった。彼はまずシャワーを浴びて身体を清めた。彼の身体は驚くべくほどに鍛え抜かれていてまるで円盤を投げる彫刻のようであった。風呂上がりの彼からはふわりと甘い香りが漂っていた。ミディアムショートヘア程の髪をドライヤーの髪で靡かせてご機嫌そうに日本のR&B歌手の曲を鼻唄混じりに歌っていた。髪を乾かし終わって彼はリーバイスの501に脚を通しトップスは肌着の上から白のオックスフォードシャツに袖を通した。そしてその上から無地でグレーのスウェットのプルオーバーを着た。左手に国産のクロノグラフ腕時計を身につけて時刻を合わせた。
その時彼の部屋のドアが3回ノックされた。
「今着替えおわりました。」
と彼が言うとドアの先から
「朝食の準備が整いましたのでダイニングでお待ちしております。」
と女性の返事があった。
彼はすぐに行くと返事をして一階のダイニングに降りた。
食卓にはバターロールが2つと卵2つ分サニーサイドアップにこんがりと焼けたベーコン、レタスとトマトのサラダそしてコーンスープ、飲み物はブラックコーヒー、デザートは柑橘系の果物とヨーグルトが用意されていた。彼はまずコーヒーに牛乳と大量の砂糖いれズッズッとそれを啜った。食事も佳境に差し掛かった頃ダイニングに先ほどの女性の声の主が現れた。
彼女は使用人のようで年齢は20歳前後のように見える。所謂メイド服を着ていたがそれは極めて簡素なもので装飾は無く、あくまでも彼女の仕事を遂行するために合理的で必要最低限なつくりになっていた。髪型は黒髪のロングストレートで前髪は右側に軽く流しては後ろ髪は仕事の邪魔にならないように束ねてあった。端整なな顔立ちで切れ長で奥二重の瞳に日本人の中では高めの鼻、唇は肉厚で口角はやや上がり気味である。
「おはようございます。早苗さん」
と彼はが挨拶すると
「おはようございます。太郎様。本日は仕事が一件入っておりますね。」
と挨拶を返したうえで確認した。
「昨晩すでに内容は確認済みです。あと早苗さん。様はやめてください。」
彼がこう返すと
「それでは面替え(つらがえ)の時間です太郎様。」
と彼の要望を無視して彼を一室に連れ込んだ。そこには映画制作のスタジオさながらの特殊メイクアップキットが揃っていた。
小1時間ほど経って彼の顔は全くの別人になっていた。
「おわりました。顔の具合はどうですか?」
と彼女は尋ね
「パーフェクトです。いつも完璧な仕事ありがとうございます。僕も早苗さん仕事に応えられるように精進します。」
と彼は返した。
「次は装備品の確認です。此方にどうぞ」
メイドと主人は次に隣の部屋に移動した。棚には大量の銃火器が並んでいた。彼はその中からM92Fを取り出し、それの先にサイレンサーを取り付けた。
「予備のマガジンはいくつ必要ですか?」
「3つお願いします」
彼女はそれを聞き弾倉に弾を込めて3つ渡した。
「時計もこちらのものに変えましょう」
と彼女は言い今度は海外産の三針の黒革ベルトの時計と付け替えた。
「これも持って行きます」
眼鏡とzippoそれにセブンスターのタバコそして最後に何時ぞやに見たあのペンと同じ形のペンをテーブルに並べた。
「上には何か羽織って行きますか?」
「グリーンのMA-1でお願いします」
MA-1の内ポケットに眼鏡とペンそれとハンドガンを納め、ボトムのポケットにzippoとセブンスター入れた。予備の弾倉はジャケットの袖に仕込んだ。そして最後に左の足首に小型ナイフを仕込み
「準備が整いました」
と彼が言うと
「ではこちらをどうぞ」
彼女はiPhoneと運転免許証を手渡し
「今回オペレーターと通信する端末はこちらになります。また今回の身分証明書はこちらをお使いください」
と続けて説明した。勿論彼の運転免許証ではないことは明確な事実である。
「わかりました。行って参ります」
白黒のスタンスミスのスニーカーに足を滑り込ませ彼はガレージに出て黒のアウディに乗り込みクラッチとブレーキを踏みエンジンをかけた。
連鎖は少しゆっくり目にやっていきたいと思います。