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変恋!

変恋! ~変態に恋されて恋してしまいました!~




自分でも、身体能力は高くはないと思っているんです。

でも、階段を転げ落ちるようなドジは踏まないと思っていました!

「きゃああ⁉」

「あ、みゆみゆが落ちてきてる、っぶねぇ……」

がしっと私の腰あたりを掴んで引き寄せられる。

かちっと眼鏡の縁が当たる。なになになになになんなんですか!

「へへへへへんたいッ! 触らないでよ!」

「違うんですその浅野さんが階段から滑って転びそうだったから落ちて顔面衝突して変形する前に危ないから支ていただけですああぁ今日もいい匂いですねえマジ堪んねぇはうぅぅ……」

語尾にハートを付けて喋るのやめてくれないかな、割と本気で気持ち悪いです‼‼

心の中で絶叫したけれど、確かに助けてくれた人だ。そのやり方がどうであれ。

「やめて。離して」

冷静を装ってやっとのことで言うと、名残惜しそうに手が離された。その手を見ると、何か……こう、わきわきと動かしている。嫌な予感しかしない。

その方を睨んでいると、

「……すみません」

しゅん、と効果音が付きそうな程頭を下げてとぼとぼと歩いて行ってしまった。

その姿が見えなくなるのを確認してから、階段に座り込んだ。今日は厄日かもしれない。

「……ん?」

そういえば、私の名前をどこで知ったんだろう。正確に、“浅野さん”と呼んでいた。

え、何、つまりどういうこと? ……ストーカー? 

背筋が凍りつく思いがした。






「あ、浅野さあん♪」

ぴょこん、と立ち上がって、満面の笑みで全力で手を振られる。いやだきもちわるい。

その上にこやかにスキップしながらこっちに来たので、来られた分下がる。

あれから、あの変態のことを少しだけ調べてみた。同学年、教室は二つ隣。

名前は、篠田翔太。びっくりした。正直に言うと、確実に名前負けしてる。だって“翔太”とかそんな雰囲気欠片もありませんもの! 

何あの人、こいつと知り合いなの? 的な雰囲気が流れる。とても気まずい。

こんな変態と一緒にされてたまるか!

「この前のセクハラは許さない」

「そんなあ、みゆみy……げふんっ、ただのスキンシップじゃないですかぁ……」

「どの口がそんなことを言うのかな。あれは明らかにスキンシップじゃなくてセクハラです」

「ちぇ……」





「じゃあ参考書230ページ開いて……」

参考書は机の中だった。結構キツキツで、取るのにも一苦労する。

やっとのことで引っ張りだすと、カタン、と小さな音がした。何だろう。

どうやら中から何かが落ちたらしい。机の下、椅子の下を屈んでみる。

丸い赤い光が点灯している。教室に似つかわしくないものを誰が持ってきたのか……。と思ったけれど、誰もそんなものを探している気配はしない。ということは机から落ちていったのはこれか。

そっと拾い上げてみる。

「…………か め ら ?」

小型の。カメラ。らしきもの。こんなものを仕掛けるのはあの変態しかいない。

チャイムが鳴り終わるのも待たず、二クラスをひとっ跳びとはいかず、駆け足で向かう。

「変態ぃ‼‼」

「「「あ、こいつですー」」」

数人の男子生徒から背中を押されて変態が出てきた。なぜかはにかんでいる。

「「「彼女? こんな変態とだと大変だろうなあ」」」

「いいえあの人とは赤の他人です。それで、あの……」

「はいっ! はいっ♪ あの、これはあれですよねっ、定番の呼び出しからの告はk……」

「告白するのは君の方だから」

ずいっとカメラを差し出すと、途端に青ざめて教室に戻ろうとする。

「逃げないで!」

「……はいっ‼逃げません!」

なんだこいつ。気持ち悪い。

「これは何でしょうか。何を撮っていたんでしょうか。動機は何ですか。通報してもいいですか」

「はいっ、これはカメラです! 男のロマンについて研究していました! みゆm……げふんっ、あなたを見てると動悸が激しいんです。救急車を呼んでくれますか」

「お分かりでしょうか、盗撮は犯罪です」

「いえあの、盗撮するつもりはないんです。普段の貴方をもっと見ていたくて」

「一遍地獄落ちろ」

「え……じゃあ、告白は……?」

うるうるした目で私を見下ろさないでほしい。

「100%在り得ないから安心してください。ってか消えろ」


その後クラスの親切な男子によって小型カメラは破壊された。




「あ、日誌忘れた」

その日は生憎日直で、太陽も傾きかけた午後六時。

駆け足で教室まで戻る。

一クラスだけ電気がついていて、この時間まで勉強とか偉いなあとか思いながら足を進める。

「失礼しまぁす……」

控えめに言いながら、ドアを開ける。

自習している勤勉は誰だろ………………ガシャン。どさっ。ばさばさばさ……。

鍵と、鞄と、手に持っていた参考書類が、落ちる。

「あ……違うんです、あの、これは男のロマンを研究していてですね、あの……」

机の上。というか私が使っている机の上に。段ボールが所狭しと二箱。

中身はお察し、全部同じジャンルの、多分アニメだろうけど、それの派生品とか、同人誌? みたいなものとか、コスプレ? の衣装的なものとか、果ては下着まで落ちていた。いわゆるしまぱんってやつ。

「なんなんですか、そのコレクション……」

「こ、これはですね! 魔法少女☆みゆみゆというギャルゲー派生のアニメのグッズなんですけど唯のアニメじゃないんですアニメではみゆみゆが悪魔を倒していくという単純なストーリーは若年層に受けるだけじゃなくみゆみゆの出生の秘密や魔法のことを秘密にしなければならないという葛藤更にはみゆみゆを魔法少女にする力を与えたリボンという架空の生物がどのような意図をもってみゆみゆを魔法少女にさせ危険にさらしているのか等考察は尽きないのであり俺みたいな高校生や大人まで楽しめる作品となっていてその最たるものがグッズの豊富さである主人公のみゆみゆに限らずその親友のあかりんやななたんやモブにも名前がついて彼ら独自のグッズやコスプレ用の服がそこまで高くない値段で売っていてまあつまり俺はみゆみゆ推しだし全種類持ってr」

「いやもう結構です、あなたの収集癖というか……その性癖には全く興味がないけど、一つだけ言わせてもらうわ」

日誌を手探りで探し当て、本を鞄に無理矢理詰め込み、肩にかける。目にかかった横髪を左手で払いのけて、一喝。

「私の視界に金輪際入って来ないで‼お願いだから!」





「……って言ったのに。もう、くっつくな変態が移る‼‼」

「だってみゆm……げふんげふん、何でもありません。あ、今日は収穫がありました、嬉しいことです」

何故か私の横にいる変態(篠田)はにこにこしながら私に話しかける。その笑顔が怪しすぎる。

「あの、一つお聞きしてもよろしいでしょうか」

「何ですか! 何でも聞いてください!」

「それ、何ですか?」

恐る恐る、変態が手にしている可愛らしい袋を指差す。変態は眉を寄せて、ぎゅっと袋を胸に抱きかかえた後、にこりと笑った。絶対何か裏があるな。

「再利用です」

「何ですかと聞いたんですけど」

詰め寄ると、目をきょろきょろさせて、困った顔をした。怪しい。怪しすぎる。

「……あ、あなたが捨てたものの再利用です! エコですよ」

「ばっちい‼‼ 捨てて‼」

「やだ!」

「捨てろ‼‼ ってかどこから拾って来たのよ!」

「いろんな……所から……? お願いしますから、今度からはゴミが出たら俺の所に持ってきてくれませんか……!」

小首を傾げた後、手をぎゅっと握り締められた。反射的に振りほどく。

「手離してください離さないと今すぐ通報します」

「ごごごごめんなさいいいいい‼‼‼」





コンコン。

夕暮れ時、生物準備室のドアをたたく。

「失礼します。鍵を返しに………………何でもありません、帰ります」

「待ってください!」

なんという、運の悪さに溜息をつく。

生物準備室の奥の方に人体模型があるのは知っていた。知ってはいた、けれども……‼

「人類の造形美に思いを馳せていただけなんです、お願いですからみゆみゆを処分しないでくださっ…………あ、…みゆみゆ……?」

変態は私を誰か別人と勘違いしているようです。恐る恐るもう一度準備室に入ると、

「うわあ……これはちょっと、ちょっとどころじゃなく引くわぁ……」

“みゆみゆ”らしき人の顔が書かれた、多分等身大の、人体模型に、中途半端に制服が着せてある。

スカートが捲れていたり、ボタンがあきすぎていたりするのはもうこの際無視しよう。

「これ、先生に言った方がいいよね」

ぱっと後ろを向くと、変態が跪いて私のスカートを掴んでいた。

「俺のっ……俺の大事な嫁なんです‼‼‼‼」

「何が嫁だ! 目を覚ませこの変態が‼‼‼」

ドガッ、と鈍い音がした。変態が廊下の端まで飛ばされてしまったようだ。

「……ってぇ……酷いなぁ……食べたいくらい好きなのに! あ、みゆみゆが見える。お迎えかな……」

「目を! 覚ませ! 変態が!」

三発蹴りを入れてやると、びくびくと痙攣した。……大丈夫かな。主に頭。

「……いったいどこから入ってきたんですか」

「どこからでしょう……」

ふざけてる場合じゃないのに。先生がいないのに鍵を開けて(というか、鍵を開けることができて)、準備室に入る生徒とか聞いたことがない。本当に神出鬼没だ。

「でもさ、俺、二次元に行きたい訳じゃないんです」

“でもさ”? 何の脈絡もなく逆説を持ってこられても困るだけだ。しかも私はこんな変態に関わっていたくない。さっさと帰りたい。

「みゆみゆのことどんだけ好きでもイベントもグッズも制覇してても、みゆみゆにとって俺はただの村人Aみたいな、もしかしたら村人Fとか微妙な立ち位置程度にしかなれないし。だから俺にとってみゆみゆは憧れとか、そういうもので、別に、二次元に行きたいとか思ってる訳じゃないんだ」

ぶんぶんと腕を振って言う。

そうですか。はっきり言って心底どうでもいい。

「だから俺が今一番食べたいのは、“みゆみゆ”、浅野美優みゆうさん、あなたです♪」

「悪い冗談のようですけど私には冗談に聞こえません! 鍵先生に返しててください気分が悪いので先に帰ります‼ あと私変態とか大嫌いですから‼‼」

足早にその場を去る。

後の方で変態が、みゆみゆ筆箱とか言ってきているけれどもう無視。心底関わりたくない。

それに私は架空のキャラクター“みゆみゆ”じゃない。






あれから一週間、ぱったりとセクハラやら盗撮やらは止んだ。

二つ隣のクラスは怖いくらい静かで、ああ待ちに待った平穏! と思ってはいたけれど。

なんだか怖い。こんなに音沙汰がないことが怖い。

廊下ですれ違うこともない。二つ隣の知り合いがいないクラスを覗き込むのも不自然だから、できない。

なんなんだろう。この気持ち。

「あのっ……」

蚊の鳴くような声がした。

扉の前に立っていたのは、変態だった。

思わず椅子を引いて教室から出ようとすると、猛ダッシュしてきた変態が私にタックルした。

「きゃあっ⁉」

がたん、椅子が倒れる。

「ああああの、すみませんみゆみゆ、その、筆箱を……」

「そんなのどうでもいいから退いてくれる」

私を見下ろす顔が近くて気持ち悪い……じゃなくて、なんだか変な感じがする。

「ごめんなさい……俺、あの、すみませんでした、もうみゆみゆの机の上でグッズを愛でるのやめます」

「あれからまだやってたの⁉」

「はいっ! やってました!」

きらきらした目で言う。

「……変態」

「違います! 少し特殊なだけで、輝かしい個性です! こせい! だから変態なんかじゃないんです」

ぶんぶんと腕を振って強調する仕草もなんだか懐かしい。変態じゃないとかいうキチガイじみた発言はこの際スルーしておく。

「……大人しいとなんだか寂しいと思ってましたよ」

「……えっ。それはつまりみゆみゆは俺に告はk」

「何でもありません忘れてください気のせいでした」

つい口をついて出てきた本音にふたをした。

「ふふーん、嬉しいですね! 許可取れたので早速……」

変態はそう言って、段ボールから何かを取り出して私の机に置き始める。

白いシャツ。赤のチェックのスカート。紺のブレザー。同じ色のセーター。黒のリボン。白で校章のようなマークがついた靴下。厚底のローファー。ピンク色のレースがたくさんついた下着。桃色のウィッグ。パールが入ったマニキュア。魔法のステッキ。何かのぬいぐるみ。頭に大きなリボンがついている。

生き生きした顔で並べ終え、私を指差した。

「どうぞ!」

「……はあ?」

「着てください!」

「断る‼‼ 私はその二次元の“みゆみゆ”じゃないんで」

「そこらへんのレイヤーよりクオリティ高くなれるんだよ! その容姿と、小ささを生かさない手がどこにあるだろうか、いや無い!」

反語法である。

……でも、何なんだろう、私。アレが“みゆみゆ”ついて語っている姿が、なんだか輝いて見えるなんて、完全にこの変態に毒されてる。

ああもう、好きです、……この変態。










読んでくださってありがとうございました。


実は、変態(篠田くん)→→→→→→(←)浅野さん

こんなふうにしたかったです。

続きを考えていますので、どうぞご期待ください。



最後になりましたが、作中に登場する科白、描写の一部に、お題サイト“確かに恋だった”様の、

変態に恋されてしまいました5題

変態に恋してしまいました5題

変態なんかじゃないんです5題

変態を全力で拒絶しました5題

からの引用部分があります。ありがとうございました。



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