図書館
「ティアナ、ずいぶんと大きくなったな」
ティアナの頭をポンポンと軽く叩きながら、男は笑った。
「もう、子ども扱いしないでよ!」
頬を膨らませ、むくれた。
「そう、膨れっ面になるなよ。それで、そっちの人を紹介してくれないか?」
「途中から一緒に旅をしたクラウスよ。クラウス、紹介するわ。私の父、オスヴァルト。治安維持部隊の隊長をしているの」
ティアナに紹介され、クラウスは慌ててお辞儀した。
「は、初めまして。クラウスと申します!昔、オレの村を救ってくれてありがとうございました!それからずっと憧れていました」
「何よ、クラウスの憧れの人って、お父さんだったの!?」
ティアナは驚いた。
二人は知らず、同じ人物に憧れていたのだ。
「これも何かの縁だな。腕っ節もいいし、どうだ、治安維持部隊に入らないか?」
オズヴァルトから思いもよらない勧誘を受けた。
小さいころに見た、憧れの人と一緒の仕事ができる。
とても魅力的な誘惑だった。
『おい、俺の方がこいつよりも強いぞ。孫、俺に憧れろよ』
ハーラルトの声が、クラウスを現実に戻した。
死者の呪いを解かない限り、ハーラルトがずっと憑いてくる。
治安維持部隊でうっかり、ハーラルトの力を使ってしまって、痣が出てしまったら追い出されるかもしれない。
ティアナのように理解がある人間ばかりではないのだ。
「お誘いはとても、とっても嬉しいのですが、まだやることがあるので……」
クラウスは泣く泣く、誘いを断った。
図書館の場所を教えてもらい、ティアナとオズヴァルトと別れた。
「ここが図書館か……」
巨大な石でできた建物がそびえていた。
中に入ると、ひんやりとした空気と本の匂いが空間を埋めていた。
広い内部に、本棚が並び、本がびっしりと並んでいる。
「こりゃ、探すのにどれくらいかかるか……」
クラウスは早くもくじけそうになった。
『そんなの、精霊にやらせればいいだろう』
ハーラルトが簡単に言った。
初めてハーラルトが憑いていて良かったと、心から思ったかもしれない。
クラウスは近くの机に座り、うつぶせになった。
「ハーラルト、精霊にお願いして、死者の呪いを解く方法を探してくれ」
『探してください、だろ。ま、俺は心が広いから気にしないけどな』
体の中心から力がふわっと抜ける感じがした。
精霊と交信しているのだ。
『死者の呪いに関する事が書かれている本が居れば、俺の声に応えてくれ』
その状態で数分が経過した。
ふわふわした状態から、体の体重が戻った感じがした。
精霊との交信が終わったのだ。
『孫、ここにはないようだ』
「そんなぁ……」
ハーラルトからの残酷な宣言に思わず天を仰いでしまった。
近くに座っている人たちからざわめきが起こった。
「あれ、あの痣は死者の呪いじゃないか」
小さなざわめきが、だんだん大きくなってきた。
『やばいんじゃないのか?』
「お前がいうな……逃げるぞ」
下を向いたまま、クラウスは図書館を後にした。
王都の通りも人が多い。
クラウスの痣に気付いた人から小さな悲鳴が聞こえる。
ここも、死者の呪いはうつると思っている人がたくさんいたということが、悲しかった。
足早に王都の外に出る門に向かった。
門には、二人の人影があった。