祖父
「ハーラルトって、勇者ハーラルトと同一人物!?」
目を大きく開け、ティアナがクラウスに詰め寄った。
『よく御存じで!若いころ、そう呼ばれておった』
クラウスの背後で、ハーラルトがけらけら笑った。
「死者の呪いって、勇者に呪われたってことなの……?」
ティアナが信じられないと言わんばかりの視線を向けてきた。
「そうだ。あれはオレがまだ小さいころ……」
クラウスは村では数少ない子どもの一人だった。
周囲から可愛がられ、すくすくと育っていった。
そんなある日、村に魔獣がきた。
魔獣は村にたまたま宿泊していた剣士によって、倒された。
部屋の中からその光景を見ていたクラウスは興奮した。
がっしりした剣士が剣を振るう度に、魔獣が悲鳴をあげ、最後は倒される。
目に焼き付いた光景が、クラウスの何かを焚き付けた。
それから毎日素振りをやるようになった。
それからしばらくして、親の手伝いのため、先祖の墓を掃除することになった。
両親はあまり話さないが、おじいさんは何やら有名だったようだ。
静かに暮らすため、あまり話さないと小さいながらも察したクラウスは、両親に質問したりはしなかった。
「オレもいつか、あの剣士みたいに強くなろう」
墓を掃除しながら、考えることはいつもと同じだった。
早く掃除を終わらせ、今日の素振りをやろう。
『見ず知らずの剣士より、俺を目指さないのか?孫よ』
いきなり、墓から声が聞こえた。
顔を上げると、墓の上に赤い髪の男が浮いていた。
「だ、だれ!?」
突然の出来事に、クラウスは驚いた。
『俺はハーラルト!この大陸で勇者の称号を得た豪傑だ!そして、お前のじいさんでもあるぞ』
「おじいさん……本当に!?」
ハーラルトは腕を組み、顔を近づけてきた。
『疑うか、孫よ。では、お前が強くなる手助けをすると約束しよう。俺の孫なら強くなるぞ!』
にやりと笑うハーラルトの言葉に、拒否権はなかった。
両親から教わった。
死者と会話してはならないと。
死者に憑りつかれると、呪われると。
クラウスはまずいと思った。
「自分の力で強くなるから、手助けなんかいらない!」
『もう遅い。俺はお前とともに歩む。必要なとき、俺の力を振るうこともできるぞ』
遅かった。
ハーラルトの体が光った。
この日から、クラウスはハーラルトと一緒に過ごすことになった。
「そのあと、慌てて両親のところに助けを求めたけど、どうにもならなくてな……まさか、手助けが死者の呪いとは思わなかったよ」
『俺が力を振るうには、お前と同化する必要があるからな。ま、呪いと言われるとは思わなかったが』
笑うハーラルトに対し、クラウスは遠い目をした。
「ま、こんな不良物件だけど、一緒に旅をするかい?」
クラウスはティアナに改めて尋ねてみた。
死者の呪いは力を使うと、体の一部に痣が浮き出てくる。
クラウドの場合、顔に浮き出てくる。
一緒に旅をしようと言われたのは、初めてではない。
死者の呪いのことを話すと、手のひらを返された。
死者の呪いはうつらない。でも、うつるという伝承が根強い。
また一人の旅になると思った。
「私に害がなさそうだから、一緒でもいいんじゃないの?」
クラウスは嬉しさのあまり、泣き出しそうになった。