出会い
「どなたか知りませんが、ありがとうございました」
魔獣と対峙し、後姿しか見えないが、男に対して、女性は頭を下げた。
男は剣を振り払い、血を落とした。
他の村人たちが魔獣が倒されたのを確認し、出てきた。
剣を鞘にしまうと、そのまま立ち去ろうと歩き出した。
「あの、お礼をさせてくれませんか!」
女性が叫んだ。
その声に、他の村人たちも賛同しようと、男の行く手をふさぐように立った。
そして見てしまった。
男は黒髪の中肉中背で、まだ十代後半と思われるが、一部が異様だった。
顔の半分を痣が覆っていたのだ。
「呪いだ……」
村人の一人がつぶやいた。
「あれは死者の呪いだ。近づくとうつるぞ……!」
行く手をふさいでいた村人たちは後ずさった。
道ができたとばかりに、男は歩き始めた。
「早く、この村から出ていけ!!」
石が投げられた。
男は気にすることもなく、歩み続けた。
「待って、この人は村を救ってくれたのよ!」
女性の声が他の村人たちの罵声にかき消された。
男は黙って、村を去った。
「オレの力だけでも大丈夫だったんだ」
「確かに体勢を崩したが、まだ相手の攻撃には間があった」
森の中、男は一人でしゃべりながら歩いていた。
男が歩くと、周囲の木々がざわめく。
顔の痣は消えていた。
「覆面かぁ……怪しいけど、石は投げられなくなるかな」
男の独り言は続いていた。
歩いていると、水の音が聞こえてきた。
音がする方へ向かうと、そこには小川があった。
「ここで休憩するか」
川岸の岩場に荷物を置き、男は一息ついた。
川に近づき、水をすくった。
透明な水だった。
男は水を飲み、咽喉を潤した。
男の周りを水の精霊が飛び交う。
人間が珍しいのだろう。
この世界にはいろいろな精霊がいる。
精霊にお願いをする形で、その精霊の属性を使うことができる。
例えば、ここにいる水の精霊にお願いすれば、水がないところでも水を出してくれる。
だが、気まぐれな精霊は人間の願いをたまにしかかなえない。
人間と程よい距離で共存している、そんな存在が精霊だった。
静寂な時間が突如破られた。
森の奥から木が倒される音が聞こえてきた。
音はだんだん近づいてくる。
男は剣を抜き、かまえた。
女性の悲鳴が聞こえてきた。
「いぃいいやぁああああぁぁぁ!!!」
女性が全力で走ってきた。
ばしゃばしゃと小川を渡り、男に近づいてきた。
「そこの人も逃げてぇえええ!!」
向かいの川沿いの木が倒された。
巨大な躰を走らせ、イノシシに似た魔獣が突進してきた。
男は静かに剣を構えた。
一点を見つめ、集中した。
突進してくる魔獣をギリギリのところでかわした。
いや、かわすだけではなかった。
かわす際、剣を一線ひいた。
魔獣はバランスを崩し、川岸を滑るように倒れた。
「すごっ……」
岩陰に隠れていた女性がつぶやいた。
これが、これから旅をともにする二人の出会いだった。