精霊の森
「ここ一、二年で規模を拡大した教団だが、教主が不老不死の術を探しているらしい。こんな老いぼれのところに来ているのは、どこかで私なら知っていると言った者がいるらしい。いい迷惑じゃ」
そこまで言うと、ヨハンナは茶を飲んだ。
「そうそう、話が逸れてしまったが、呪いを解く方法じゃったな」
「あ、はい!」
「私は術を知らない」
その言葉に、クラウスとティアナはがっかりした。
クラウスはハーラルトをにらんだ。
「知っているんじゃなかったのかよ!」
『知っているかもと言ったんだ!』
言い争いを始めようとした二人をヨハンナが止めた。
「待て、私は知らないが、精霊王なら知っているはずじゃ。ハーラルト、最初から精霊王のところに訊きに行けばよいものを……昔のことは忘れているぞ」
『あいつらにとっては、数十年前のことは最近の事だ。まだ根に持っているはずだ』
精霊王とハーラルトには何か確執があるようだ。
だが、呪いを解く方法の手がかりが精霊王にあるとしたら、行くしかない。
「じいちゃん、オレたちは精霊王のもとに行くからな」
『ちっ、仕方がない……だが、あいつのところに着いたら、俺は隠れるぞ』
妙な宣言をしたハーラルトは、煙のように消えた。
「まったく、ハーラルトは頑固なんじゃから……」
ヨハンナが苦笑しながら言った。
「精霊王との間に何があったのか、訊いてもいいですか?」
ティアナが心配そうにヨハンナに尋ねた。
「なに、それほど悪いことじゃない。精霊王の求婚をあいつが突っぱねて、私と一緒になっただけじゃよ」
ヨハンナの笑い声が部屋に響いた。
ヨハンナに地図を書いてもらい、クラウスとティアナは精霊王が棲む精霊の森へ出発した。
「精霊王って、どんな人だろうね」
「じいちゃんに求婚するんだから、ばあちゃんみたいな人かな」
二人は道中、精霊王について想像を膨らませていた。
途中、何度か魔獣たちに襲われた。
いつも通り撃退していったが、ハーラルトがよくでしゃばった。
精霊王のもとに行くのがそんなに嫌なのだろうか。
八つ当たりするかのように、攻撃をしていった。
そんなハーラルトの暴走を抑えつつ、地図に書かれた森の入り口までやってきた。
「この森だね」
再度、地図を見て、合っていることを確認した。
一歩、森に踏み込むと、空気が変わった。
濃厚な酸素に包まれた。
木々が鬱蒼と生い茂り、森というよりも樹海だった。
道を進めど、風景が変わらない。
木々だけがあった。
「なんか、同じ場所を歩いているみたい……」
ティアナが弱々しく言うと、クラウスは頷いた。
「そうだね……」
奥に進んでも、同じ風景が続く。
本当に進んでいるかもわからなくなった頃、突然ハーラルトが出てきた。
『見てらんねぇな!精霊よ!俺だ。道を開いてくれ!!』
「ハーラルト、なんだよ急に……」
『精霊が警戒して、空間を歪めて、同じ場所を歩かせていたんだ』
急に花の匂いが濃くなった。
今まで続いていた木々が途切れ、切り開いた場所に出た。
『ここが、精霊王が棲む森の中心部だ』
そこには小さな精霊たちがたくさんいた。
うっすらと光を纏い、色とりどりの精霊たちがざわめいていた。
「ハーラルト様、お久しぶりです。精霊王がお待ちです」
黄色い光を纏った精霊に先導され、奥にある建物へと向かった。




