襲撃
その村は魔獣に襲われていた。
家畜は食い散らかされ、人々は悲鳴をあげ、逃げ惑っていた。
トカゲのような体に大きな牙と角を持っていた。
数は約三十体。
小さな村の自警団では手に負えない数だった。
なぜ村が襲われているのか。
それは数刻前に遡る。
のどかな農村があった。
一部、牛や豚といった家畜も飼育し、文字通りのどかだった。
そこに一匹の魔獣の子どもが迷い込んできた。
体長は三十センチほどの小さなトカゲ型の魔獣だった。
穏便に、森に帰そうと村人たちは魔獣の子どもを森へ追いやった。
だが、不幸が起きてしまった。
大勢の村人に囲まれた魔獣の子どもがパニックを起こした。
村人めがけて突進した。
慌てて避けようとする村人。
村人を助けようと、隣の村人が手にしていた棒を思いっきり振り下した。
魔獣の子どもは悲鳴をあげ、死んだ。
村人たちは焦った。
今の悲鳴を魔獣の親の耳に届いたら。
蜘蛛の子を散らしたように、村人たちは散り散りとなった。
家に立てこもる者、家畜を避難させる者、防具や武器を手に取る者。
魔獣の襲撃はその数分後だった。
逃げ遅れた一人の女性が躓いた。
「きゃっ」
その声と音に魔獣は反応した。
女性に向かって突進した。
「いやぁあああ!!」
女性は悲鳴をあげ、目を閉じた。
しかし、衝突は起きなかった。
「今のうちに逃げるといい」
女性の前に、一人の若者がいた。
トカゲの角を片手でつかみ、突進を止めていた。
「は、はい」
慌てて女性は立ち上がり、逃げた。
女性が逃げるのを確認した若者は、肩に下げた剣を抜いた。
「いくら子どものためとはいえ、ちょっとやりすぎたな」
剣を振り落とし、トカゲの頭を真っ二つに割った。
異常を察知した他のトカゲたちが集まってきた。
「こりゃ、骨が折れるかな?」
「いいや、オレで大丈夫だろう!」
何故か独り言をつぶやきながら、男はトカゲたちに向かった。
それから数十分後、勝負がついた。
三十体いたのうち、約十体ほどのトカゲは森に逃げて行った。
残りは全て、大地に沈んでいた。