愛し、愛され、また愛し
ふと思いついて書いてしまった作品ですが、結構気に入ってます。
殺したいくらいの愛情を持つ相手と永遠に心を結べないというもどかしさがこの短い話で少し分かってもらえたらと思います。
未熟な文ですがよければお読みください。
私とあの子は相思相愛。
あの子を愛したい。狂おしいほどに愛したい。
愛して愛されて、また愛したい。
「そーのーはーらーさんっ」
「えっと……」
「1組の吉村と申します。園原さんが休んでいる間に、図書委員長になりました」
「はぁ……で、その図書委員長がこの最果ての6組の陸の孤島である私に何の御用で……?」
「はい、園原さんが休んでいるのを良い事に、副委員長は園原さんに押し付けられました。というわけで今後についての打ち合わせをしたいのでこれからお昼を一緒に食べましょう!」
「……え。いや、えーと、あの?」
どうやったらこの真顔でハイテンションの彼女を止めることが出来るのだろうか。
初対面ながらに思わず考え込んでしまった。
「あ、もしかしてお昼ないんですか? でしたら購買に行きましょう!」
「ちょっと待った、あるある! ちゃんとお昼あるから!」
彼女のハイテンションについて考え込んだ時間が、「お昼ないけどどうしよう」と考えているように見えたよう。
勢いには勢いで返すしか知らない私はとっさに大きな声をあげてしまったため、クラス内にいる生徒は私を見て笑った。大笑いならいくらでも一緒に笑えたけど、くすくす笑いじゃどうしようもない。
そんな私の気持ちを知らないまま、彼女はにっこりと笑った。さっきの無表情からのこの笑顔は、本気で眩しかった。
「じゃ、どこか人けのないところにでもいきましょうか」
「んー……でもうちの学校、人けの無いところって少なくない? 寧ろあるんだろうか」
「大丈夫です!」
「うわっ?!」
素早い動きで腕を捕まれ、引っ張られるがままに走った。
正直高校生にもなって廊下を走るのは恥ずかしい。すれ違った先生にも変な目で見られた気がする。
階段を駆け上がって、屋上のドアの前まで来た。他の学校は知らないが、うちの高校は基本的に屋上へのドアは開放されていない。ドアの前に一応踊り場程度の空間は存在するが、誰も掃除していないから汚くてしょうがない。どこでお昼を食べる気だだろう。
「私、鍵持ってますから」
「え?」
「職員室でちょっとお借りしました」
「でもそれ反省文ものじゃ……」
「いいんですよ。……ここなら、誰も来ません」
「ん? なんか言った?」
「いえ、何も。さぁ、誰かに見られる前にどうぞ屋上へ!」
彼女に促されるままに私は屋上への扉を開けた。広がる青空、開放的な空間、誰にも邪魔されない快適な場所――ではなかった。
「なんでしょうね、これ?」
電波のアンテナのようなものがたくさん置いてあり、解放的とは呼べない空間。そして微妙に曇った空、時折吹いてくる寒いくらいの風。
屋上は小学校や中学校の時に経験しているが、やはり高校も同じだった。漫画のような青春を謳歌する場所ではない。
「ちょっと風が強いですねー……」
「でもお弁当なら食べれると思うし、あと30分だからそろそろ食べようよ」
「そうしましょうか」
彼女――吉村さんは綺麗だった。
話しかけられた時も、腕をつかまれて走った時も、私はあまり彼女の姿を直視してはいなかった。
改めて見ると、綺麗、の一言に尽きる。
幼さを見せるような低身長だが、肩まで伸ばされた艶と光沢のある黒髪、ニキビ一つなくそれでいて焼けすぎてない肌、時折見せる柔らかな笑顔が、彼女が人形のように綺麗な存在であることを教えてくれた。
そこで私は我に帰る。彼女とはまだ初対面で、本当に何も知らない。1組に吉村という生徒がいたことも知らない、図書委員会の日に居なかったから彼女が委員長になったのも今日初めて知った。
だがその現実と裏腹に、私の頭の中で誰かがそっと呟いているのだ。「私はあの子を知っている」と。
「園原さん?」
「へっ?」
情けない声が出た。首をかしげる彼女に私は軽く赤面しそうになりながら風があんまり来ないところで腰を下ろした。
「んで、うちあわへってなに?」
「そんな思いっきりほおばってから言わなくても、時間まだ大丈夫ですからゆっくり食べて下さい」
「あ、ごめん」
どうしてか長い付き合いをした友達のような感覚で話しかけてしまう。そういえば会ってすぐ、私は敬語でしゃべらなくなった。高校だし普通のことなんだけど、普段の自分の性格を考えると違和感が残る。
「園原さん、いつも水分持ってこないくせにすぐ頬張って食べるんですから……喉詰めないで下さいね?」
「あはは……うん?」
「どうしました?」
「なんで、私がいつも水分持ってこないことを?」
「あぁ、だって……いつも、見てましたから」
見てた?
私はゆっくりと復唱し、困惑の表情で彼女を見た。彼女は顔色一つ変えずに無表情のまま、教えてくれた。
「園原さんが入学してから、私ずっと見てました。単刀直入に言いますと、好きなんです。園原さんが」
「えっ、ちょっと待って、好きって、好きって!?」
「そういう、好きです」
吉村さんの顔が近くなる。白い肌がうっすらと桃色に染まっていくのが分かる。つられて私も顔を赤くした。
「待って待って!」
「無理です」
「というか顔近いからね!? お、落ち着こう?」
「私はとても冷静ですよ、園原さん。殺したいくらいにあなたが好きです」
「ひっ……」
私は無我夢中でフェンスの方へと逃げた。愛するが故の殺気。私は全身が震え、蛇ににらまれた蛙のように、彼女から視線をそらさずにじっと見つめた。
きっと彼女から見たら、私の顔は恐怖に歪んでいるだろう。でも彼女は無表情のまま、私を凝視した。
「私はこんなにもあなたを愛してる。あなたも私を愛してるのに」
彼女は何を言っているのだろう。私は今日初めて彼女に会って、綺麗だなとは思ったけど、愛してるとかそういう感情は一切ない。
私の心を置き去りにして、彼女は微笑んだ。
「良いんです、何も分からなくて。"今度は私があなたを愛します"」
私の体に寄り添うように彼女が近づいてきた。
「冗談はこれくらいにしておきましょうか。お昼ご飯、食べましょう」
くるりと向きを変え、私の姿を背にして彼女は歩き出す。私は歪む視界と体の中心から溢れる生暖かい血液に触れてようやく、自分が"殺された"ことを自覚し、絶命した。
「そーのーはーらーさんっ」
「えっと……」
「1組の吉村と申します。園原さんが休んでいる間に、図書委員長になりました」
知ってるよ。だって、入学してからずっとあなたのこと見ていたもの。
「はぁ……で、その図書委員長がこの最果ての6組の陸の孤島である私に何の御用で……?」
「はい、園原さんが休んでいるのを良い事に、副委員長は園原さんに押し付けられました。というわけで今後についての打ち合わせをしたいのでこれからお昼を一緒に食べましょう!」
「……え。いや、えーと、あの?」
彼女は可愛い。綺麗。美しい。
ずっと自分のものにしてしまいたい。狂おしいほどの愛を彼女にあげたい。
前回は彼女が私を愛してくれた、だから今回は私が彼女を愛してあげるんだ。
「園原さん?」
「あ、いや、なんでもない。どこでお昼食べる?」
「多目的室にでも行きますか?」
「あー……それもいいけど、私、屋上の鍵持ってるんだ。一緒に行こう?」
誰にも邪魔されない場所へ、ね。
愛の形や表現の仕方は自由。だけど私たちの愛の表現方法は相手の命を貰うこと。
彼女と私は相思相愛。
でもこの繰り返す時間の中で、その愛の記憶を持っているのはいつも片方だけ。
永遠に私たちはお互いを愛せない、だけどその愛を知っているから、愛を示すために何度も何度も屋上で想い人を殺す。
後で私が彼女を殺したら、次は彼女が私を殺す。
繰り返される悲劇?いいえ、私たちにとっては喜劇。
最も滑稽で最も陳腐な愛の喜劇。
読んでいただきありがとうございました。
よけれ誤字脱字の報告やや作品に関する批評などしていただけたらと思います。