夜空のベランダ
かなり甘い(つもり)です。注意!!
音を立てずに窓を開けたつもりだったけど、こいつはゆっくりとこちらを振り向いた。
「なにしてんの」
「ん? オリオン座が見え始めたなぁって」
「へえぇ! お前星座とか知ってんだ」
「オリオン座しか知らないけど」
「…‥そういう奴、結構いるよな」
成人を迎えた人間なのに情けないなぁ、と首を振ってみせる。そういう俺は星座なんて全然知らないんだけどな。
二人分の白息が、弱い北風にゆるりと流され消えていく。混じりあって解けることもなく。
こういうふうに、自然にこいつの中に入っていけたらいいのになぁ、って思う。普段から優しい人間じゃないと、ここぞ、って時に、困るな。
「んー…‥」
「?」
「…‥ホッカイロ、持ってこようか」
風はあまりなかったけれど、辺りはしんと静かに凍てついていた。
「ううん、いい」
「じゃあ、ココア、は?」
少し間を置いて、お願いしようかな、て言ったときのはにかんだ笑顔が弱々しくて。
あぁ、やっぱなんかあったんだな。そうは思うけど、かけるべき言葉も浮かんでこなくて。何も言わずに部屋の中に入ってしまった。
暖房が効いた部屋の中でも手はかじかんだまま。ティースプーンを挟んだ指が震えてココアの粉を少しこぼしてしまうほど。
なのに、あいつはずっとアルミの手すりを握ったまま。あぁ、もう、星なんて見てねぇじゃん。手元に顎をのせてうつむき加減に、手すりにもたれている。
窓を開けても、さっきみたいに振り向いてくれない。
「ありがと」
「うん」
指先や鼻の頭、それに目の縁まで赤くなっていて、痛々しい。それでも、俺に向けたのは笑顔だった。
いつもはふわりと辺りに漂う甘い香り、国道のクラクションにかき消されたのか?
「ねぇ」
「…‥おう」
「どうしたの?」
「え」
「泣きそうな、顔してる」
赤い瞳、柔らかくて真っ直ぐな視線。優しさの全てが俺に注がれていて。
泣きそうなのはお前だ、って返したつもりだったのに、言葉になってなかった。ただ、ぎゅぅっと抱きしめた。
「…‥あったかいね」
「お前」
「ん?」
「あったかいのは、お前」
何ソレ?と無垢な笑い声が腕の中で響く。
ベランダで二人きり。二人で夜空を占領したみたいだ。瞬く星とあいまって、世界がきらきらと輝いている。国道を行き交う車のランプさえ、今は名の付いた星座になる。
「好き」
「…‥うん」
ココアが冷たくなるころには、俺らの気持ちはもう十分過ぎるくらいにあったかくなってるよな?
そのときには、素直に聞こう。優しい人間になって。あったかい瞳で。
頭のてっぺんに口付けると、笑い声がまた耳をくすぐっていった。
恋愛は恥ずかしかったです…友人に冷やかされないか不安です;;
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