『みじかい小説』058 / 年末の食卓 ~1000文字にも満たないみじかいみじかい物語~
「悠馬、宿題はしたのー?」
1階からお母さんの声がする。
「今しようと思ってたとこー!」
僕は声を張り上げた。
本当に、今からしようと、さっきから思っていたのに。
それなのにお母さんがガミガミ言うものだから、すっかりやる気がなくなってしまった。
なんでうちのお母さんは、あんなにガミガミうるさいんだろう。
鞄から教科書とノートを取り出し、それを机の上に広げる。
国語と算数と理科と社会と英語と。
まったく、なんで世の中に宿題なんてものがあるんだろう。
なんで僕がこんなことをしなきゃいけないんだろう。
友達の湊君なんて、毎日5時間はゲームしてるって、学校で自慢してたのに。
なんで僕の家はこんなに厳しいんだろう。
宿題をしていると、三つ上の兄貴が、ドアから顔をのぞかせた。
「悠馬、ご飯できたって。母さんが呼んでる」
二人そろって食卓へと急ぐ。
すると、いつもは人数分のお皿しか出ていない食卓に、今日は大きな鍋や中くらいの鍋、小さな鍋や大小のボウルなどが並んでいた。
その中には色とりどりの食べ物が入っている。
「なになに?お母さん、何が始まるの?なんでこんなに食べ物があるの?」
僕はなんだかうきうきしてお母さんにたずねた。
「あら、年末年始の準備に決まってるじゃない」
お母さんが何かを仕込みながら言う。
「まだ早いんじゃない?」
兄貴がいつもの調子でぼそっと言った。
「あら、黒豆なんか一晩は水につけとかなきゃいけないのよ?大変なんだから。食べるのは一瞬なのにねぇ」
お母さんはなんだかすごくうれしそうだ。
「ねぇ、今年頑張ったことをひとりひとり発表しようよ。俺、ノート取ってくる」
兄貴がそう言って席を立った。
「あら、じゃあお父さんが帰ってきてからにしましょうよ」
そう言って、2階へ行こうとする兄貴を、お母さんが止めた。
「でも先に考えておこうよ」
と、僕が提案した。
「じゃあ悠馬は、今年一番何を頑張ったの?」
お母さんに指名され、僕はうーんと腕組みをして考え込む。
「そうだなぁ、全部かな。100点、いっぱいとった」
「すごいわよねぇ」
「悠馬は優秀だな。将来は学者さんかもなぁ」
二人から褒められて、僕はめちゃくちゃうれしくなる。
大人になって年末を迎えると、僕は必ず小さかった時のことを思い出す。
学者にはなれなかったけど、もう二度ともどらない、あのきらきらした時間は、僕の中で今でも熱をもって輝いている。




