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みじかい小説

『みじかい小説』058 / 年末の食卓 ~1000文字にも満たないみじかいみじかい物語~

掲載日:2025/12/29


「悠馬、宿題はしたのー?」

1階からお母さんの声がする。

「今しようと思ってたとこー!」

僕は声を張り上げた。

本当に、今からしようと、さっきから思っていたのに。

それなのにお母さんがガミガミ言うものだから、すっかりやる気がなくなってしまった。

なんでうちのお母さんは、あんなにガミガミうるさいんだろう。


鞄から教科書とノートを取り出し、それを机の上に広げる。

国語と算数と理科と社会と英語と。

まったく、なんで世の中に宿題なんてものがあるんだろう。

なんで僕がこんなことをしなきゃいけないんだろう。

友達のみなと君なんて、毎日5時間はゲームしてるって、学校で自慢してたのに。

なんで僕の家はこんなに厳しいんだろう。


宿題をしていると、三つ上の兄貴が、ドアから顔をのぞかせた。

「悠馬、ご飯できたって。母さんが呼んでる」

二人そろって食卓へと急ぐ。

すると、いつもは人数分のお皿しか出ていない食卓に、今日は大きな鍋や中くらいの鍋、小さな鍋や大小のボウルなどが並んでいた。

その中には色とりどりの食べ物が入っている。


「なになに?お母さん、何が始まるの?なんでこんなに食べ物があるの?」

僕はなんだかうきうきしてお母さんにたずねた。

「あら、年末年始の準備に決まってるじゃない」

お母さんが何かを仕込みながら言う。

「まだ早いんじゃない?」

兄貴がいつもの調子でぼそっと言った。

「あら、黒豆なんか一晩は水につけとかなきゃいけないのよ?大変なんだから。食べるのは一瞬なのにねぇ」

お母さんはなんだかすごくうれしそうだ。


「ねぇ、今年頑張ったことをひとりひとり発表しようよ。俺、ノート取ってくる」

兄貴がそう言って席を立った。

「あら、じゃあお父さんが帰ってきてからにしましょうよ」

そう言って、2階へ行こうとする兄貴を、お母さんが止めた。

「でも先に考えておこうよ」

と、僕が提案した。

「じゃあ悠馬は、今年一番何を頑張ったの?」

お母さんに指名され、僕はうーんと腕組みをして考え込む。

「そうだなぁ、全部かな。100点、いっぱいとった」

「すごいわよねぇ」

「悠馬は優秀だな。将来は学者さんかもなぁ」

二人から褒められて、僕はめちゃくちゃうれしくなる。


大人になって年末を迎えると、僕は必ず小さかった時のことを思い出す。

学者にはなれなかったけど、もう二度ともどらない、あのきらきらした時間は、僕の中で今でも熱をもって輝いている。


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