騎馬戦 -進軍フェイズ- 2
『ジン戦記』再び
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進軍フェイズの中盤。
西軍の先陣を切り突破口を開くのは《旋風の剣士》、エイリーク・ウインディ。
彼女はアギ達男子生徒が担ぐ馬の上で、手にした棒を振るい《旋風剣》を使う。
「邪魔よ!」
覆いかぶさるように広がる網を風で吹き払い、衝撃波を利用して東軍の工作兵を攻撃。
嫌がらせの水風船もエイリークはまとめて吹き飛ばし、ぶつけ返す。
騎兵ユニットに並走する防衛兵達は側面をカバー。大盾で南軍の魔術攻撃を防ぐと、そこにヒュウナーが騎兵を率いて突撃。魔術師の生徒たちを蹴散らしていく。
「ある程度片付けたわね。ミサ、本隊に連絡して」
「う、うん」
エイリーク付きの偵察兵(役割的には通信兵なのだが、この騎馬戦のルールでは偵察兵と混同)をしているのはエイリークの親友兼専属侍女を自称するミサ。
彼女は「せっかく同じチームだからリィちゃんと一緒がいい」と志願したものの、そのせいで最前線に飛び込むことになりちょっぴり後悔している。
「近くに安全地帯があるわ。そこで馬を下ろして少し休みましょう」
「ああ。ヒュウ達にも言っておこう」
各地に用意された安全地帯は一定時間ながら休憩を許された非戦闘エリア。騎兵も人馬から降りることができる。
そこでエイリーク達先行部隊は後続の本隊を待つことにした。
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西軍は特別ルールもあって機動力があるかわり、女生徒で多くの騎兵を構成しているので持久力に難点がある。
大将であるリアトリスはそこで部隊を2つに分けて本隊を温存。体力のある男子生徒を中心に結成した先行部隊に露払いをさせながら強行突破を図ることにしたのだ。
前哨戦といえる進軍フェイズから激戦を繰り広げる西軍。
このチームは敵工作兵を正面から打ち破りながら最短距離を進軍している。
馬を下ろして一息つけるようになったアギは、先程の戦闘を思い出して疑問を口にした。
「しかしおかしくないか? 東軍が仕掛けて来たと思えば次は南軍、それからすぐに東軍。ずっとこんな調子だ」
「東と南が連携して妨害してるとでもいうの?」
「そうかもな。敵の敵は味方だって。……なぁ、姫さん」
アギはエイリークに訊ねた。
「俺達(西軍)で姫さんが知ってる奴はどのくらいいる?」
「はぁ? ……戦士科の2年生は大体わかるけど、あとはミサの友達とリア先輩の騎士団の人くらい」
「だよなぁ」
アギも似たようなものだ。全生徒の顔なんて覚えているわけがない。
「それが何?」
「ユーマが言ってたんだろ? 《会長派》の編入生が各チームにいるって。そいつらのせいかと思ったんだが確認がとれねぇ」
「考えすぎよ。大体そのくらい悪質でもなんでもないわ」
「そうなんだけどなぁ」
無意識にアギは近くで彼と同じように休む《鳥人》の方を見たが、それだけだった。
確かにヒュウナーは《会長派》のエース。でも疑うのは楽しくない。
「リィちゃん。もうすぐ本隊の人達が来るって」
「そう。休憩はおわりね」
ミサの報告を受けてエイリークは立ち上がると、ぐぐっと背筋を伸ばす。正直人馬は乗り心地が悪い。
「ねぇミサ。他のチームの情報、入ってる?」
「うん。南軍は何人か脱落してるけど騎兵の損害はなし。今は正門付近を通ってるって」
「正門か。なら南区に入ったこっちが先を進んでるな」
相手チームを視察する部隊がPCリングで送ってくる情報。分析班がまとめたものをミサは掻い摘んで話す。
「北軍はチームを分割して広がって進軍してる。南軍から《霧影》の先輩が足留めに参加してるらしいけど、半数はもう突破されたみたい。東軍は大きく迂回して屋外演習場の方へ向かってる。わたし達と違って工作兵の妨害を避けてるのかな?」
今現在目的地である主戦場に近いのは西軍。順に南、北、東の各チーム。このままいけば決戦フェイズで大きなアドバンテージが得られる。
しかし、チームの損耗具合考えると西軍は騎兵をもう15騎も失っている。
南軍の騎兵は無傷の40騎。ミストによって足留めされている北軍は、このまま半数しか残らなかったとしても100騎の半数、50騎は残る計算だ。
「西軍の騎兵は残り45騎。これ以上減るのはマズイわね」
「せめて温存してる本隊の30騎は無傷で送り届けないとな」
「そうね。さぁ、そろそろ行きましょう」
西軍の先行部隊は本隊と合流。進軍を再開する。
西軍騎兵:60→45
備考:温存した30騎の体力は十分。決戦フェイズに備える。
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エイリーク達が西軍本隊と合流する少し前。
南軍の本隊では副将のマークが人馬に揺られてのんびりと、歌いながら進軍していた。
マークの隣では人間レーダーと化した南軍大将が鋼鉄の檻の中、むっつりとして瞑想中。
「マーク」
「なんだい? 僕らの大将」
周辺の《気》を探るのを止め、クルスが口を開いた。
「その歌はなんだ?」
「前にユーマ君が教えてくれたんだ。こんな時に歌う歌なんだって」
「どんな時だよ」
それは、市場に売られていく子牛のうた。子牛の部分がクルスになっている。
「さぁ。でもどこか哀しくて、虚しくなる歌だね」
「俺がな」
学園の誇るツートップはいつもこんな感じ。なおものんびり歌い続けるマーク。
その間、クルスはずっと黒衣の魔術師を睨んでいた。
クルスの殺気が渦巻く南軍。
敵工作兵はその気に当てられ、迂闊に攻められずにいた。
そんな彼ら南軍を待ちかまえているのは《射抜く視線》の弓使い。ジン・オーバ。
彼は待ち伏せの隠蔽工作や追跡など、遊撃として単独で行動する能力が非常に高い。
南軍を尾行していたジンは途中から進軍ルートを先読みして先行。敵偵察兵の目を掻い潜って狙撃ポジションを確保し、今は近くにある校舎の2階に潜んでいた。
ジンは久しぶりの感覚に緊張している。なにせ狙撃する相手は学園最強の《剣闘士》だ。
クルスに気配を探られる度に全身に寒気が走る。狙撃する前からジンは格の違いを見せつけられていた。
それでもジンは今もクルス達に存在を気付かれていない。それは彼の過去、戦場での実戦経験に因るところが大きいのだろう。
ふとジンは東軍工作兵を指揮するティムスの指令を思い出した。
(東軍の強みはブソウが前線指揮を執ることだ。用兵術ならあいつが学園一だろう。だが《剣闘士》に陣形や戦術なんて関係ない。正面から叩き潰されてるのがオチだ)
学園のバランスブレイカー。クルス1人でチームを1つ潰しかねないとティムスは言っていた。
(檻に入ってようが枷を嵌められていようができるなら相手にしたくない。お前に頼む狙撃は成功すりゃ恩の字ってくらいだ。期待してないから気楽に撃ち落としてこい)
頼まれた時もそうだったが、思い出してもう1度苦笑するジン。成功しなくてもいいのかどうだか。
「ティムス君もなんだかな。でもどうする?」
南軍の部隊が来るまであと数分。ジンは考える。
騎兵が失格になる条件は以下の通り。
1、馬に乗る騎兵が地面に体をつけた時
2、馬を人が乗れないほど破壊された時
3、a 制限を超える術式を使うことでハチマキが切れてしまった時
b 戦闘行為等によるハチマキの紛失
4、悪質な反則行為(殺傷行為等)
クルスの馬? は鋼鉄の檻。ジンの《幻想の矢》で破壊するのは無理だ。
となるとジンが狙撃でクルスを失格に追いやるには、彼のハチマキを撃ち落とすしかない。
「……駄目だ。頭を掠めるように矢を撃つなんて危険すぎる」
ルール上、ブースターは使用禁止なのでジンは《ボウ・ガンプレート》を使うことができない。
《アローモード》の精密狙撃や《バーストモード》の破壊力があればとジンはつい考えてしまう。
せめて進軍の動きが止まれば……
「ジン・オーバだな」
「!?」
不意に声をかけられてジンは咄嗟に《幻想の弓》を構える。
振り返った先にいるのは見知らぬ男子生徒だ。
「誰だ」
弓を構える時、普段は穏やかなジンの視線は、冷たく鋭いものになる。
必殺必中である視線を向けられ、慌てて両手を上げる男子生徒。
「ま、待て。味方だよ味方。ハチマキを見ろ。俺は東軍の偵察兵だ」
「え? ……す、すいません」
ハチマキの色はジンと同じ黄色。ジンは慌てて謝る。
「驚きました。でもよくこの場所がわかりましたね」
「これでもずっとお前を探してたんだ。見つけたのは偶然、1年のくせにたいしたもんだよ」
「いえ、そんなことないです」
男子生徒は先輩らしい。ジンは弓の構えを解くと、彼に向かって安心したように微笑んだ。
まだ少年の幼さが残る爽やかな笑顔。それでいてどこか儚げで、憂いを帯びた瞳。
「……成程。これが《射抜く視線》……女殺しか」
「? 何か言いましたか」
観察する彼の呟きをジンは聞き取れなかった。
「何でもない。それよりも聞いてくれ。お前の任務は聞いている。俺達はその援護に来た」
「援護?」
聞き返すジン。
「この先で仲間の工作兵と偵察兵が10人待ち伏せしてある。一斉に仕掛けて場を撹乱させるからそこを狙ってくれ」
「陽動ですか?」
「ああ。俺は号令係さ。タイミングは狙撃するお前に任せる」
絶好の狙撃ポジションを捨てるかどうか。ジンは少し悩んだ結果、味方である先輩を頼ることにした。
「……わかりました。すぐ移動しましょう」
ジンは先輩の偵察兵と共に攻撃ポイントへ移動を開始。
「頼むぜ。『俺達』で学園最強を討ちとるんだ」
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再び南軍本隊。
正門の大通りを抜け、南区へ向かう道を進む。
「……いるな。11人だ」
クルスは敵の気配を察知した。
「うん。確かに仕掛けるならここだろうね」
「お前が変な歌を歌うせいで気が逸れた。かなり近いぞ」
早期発見できなかったのは痛い。今いるところは校舎に挟まれていて見晴らしが悪く、大人数で進むには道が若干狭いのだ。
隊列も密集するのを避けたので縦に伸びてしまっている。
「どうする? 騎兵は小回りが効かないから引き返すには時間がかかる。偵察を出して捕まえる?」
「もう遅い。来たぞ」
部隊の正面から来るのは直軽3メートル程の大玉。連続して2個、勢いよく転がってくる。
大玉は中身が詰まっていて思いのほか質量がある。このままだとボウリングかドミノ倒しだ。
「あれってもしかして玉入れのやつ?」
「マーク先輩、指示を」
「そうだね。……防衛兵は『左右』に展開! 騎兵の側面を防御して」
「えっ? 左右にですか」
マークの指示に思わず聞き返す通信担当の女生徒。
「陽動の可能性が高いから伏兵に備えて。正面は僕が止める」
「は、はい!」
偵察兵のPCリングを通して全軍に通達。即時に防衛兵が動き出す。
マークは《黒鋼術》を発動すべく術式に集中。そこへ見計らったように東軍の工作兵が姿を現し、偵察兵と共に強襲を仕掛けてきた。
最後に、無音で飛ぶ《幻想の矢》が放たれる。
矢は南軍の大将が閉じ込められた檻に向かって――
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「3……2……1、今です」
「攻撃開始だ」
向い合う校舎を繋ぐ渡り廊下の中間地点で、ギリギリまで南軍を引き寄せたジンは《幻想の弓》を構えたまま合図を送る。
ジンの合図に合わせ、先輩の偵察兵が散開して待機する偵察兵に連絡。陽動の強襲作戦が開始された。
まずは正面からの大玉転がし。
作戦としてはこれで部隊の前方に防衛兵を集中させ、周囲の守りを甘くさせるつもりだったが、《黒鉄》の魔術師であるマークがこれに対処。
彼が《黒鋼壁》でUの字に曲面を描く鋼の壁を展開すると、大玉は壁にぶつかり曲面に沿ってループ、進行方向を180°変えてしまった。
マークがUの字の壁を作ったのは術式に制限がかけられて大玉を跳ね返すほどの分厚い壁を創れなかったからだ。薄い壁は大玉の衝撃に負けて倒れる可能性があった。
彼は鋼の壁を曲げることで全体の強度を上げ、大玉の衝撃を受け流し利用する工夫をしている。これはユーマもよく使う既存術式に変化を与えるゲンソウ術の《幻操》、《補強》の技術だ。
大玉攻撃に南軍が完璧に対処したため、強襲部隊の作戦第2段階、挟み撃ちによる撹乱はほぼ不発に終わっている。左右に展開した防衛兵に拘束される奇襲部隊の10人。
南軍は周囲の警戒を固め、偵察兵を走らせる。
ジンの隣にいた偵察兵の先輩は作戦が失敗したことがわかり舌打ち。
「くそっ、あいつら失敗しやがって」
「まだです」
しかし、ジンは諦めていなかった。
なぜなら警戒の為に南軍の足は止まり、マークが《黒鋼術》を使ったからだ。
ゲンソウ術を連続使用すれば、その分負荷がかかってハチマキが切れやすくなる。
もしもマークがクルスを守るために《黒鋼術》を使えばハチマキが切れて失格、南軍は大将を守って副将を失うことになる。マークだって瞬時の判断になれば躊躇うはずだ。
先輩たちがくれたチャンス。今、撃つしかない。
覚悟を決めたジンは『矢をつがえて』『弦を引く』。
《射抜く視線》で狙いをつける。
ジンが『見る』のは南軍部隊の中心、黒衣の魔術師の隣にある担がれた檻の中。
鋼鉄の柵の隙間から見える、赤茶の髪をした囚われの剣士。
彼の額、その緑のハチマキを、
「――見えた」
ジンは《幻想の矢》を放つ。
無属性の特性を持つ不可視の矢。
ジンの視線に誘導され、《幻想の矢》はクルスの額に巻かれたハチマキを掠めるように――
(――えっ?)
矢を放った瞬間。不意に、ジンの視線とクルスの視線が重なった。
「まさか……」
偶然じゃない。見られている?
ジンがそう思った時にはクルスは両腕を上げ、手首に嵌められた枷で柵の隙間を抜けた《幻想の矢》を防いでいた。マークが驚いている。
それ以上に驚愕するジン。いくら《射抜く視線》の副作用、『強すぎる視線』に感づかれたとしても矢は放たれた後だ。
視界の悪い檻の中で、音も色もない攻撃に瞬時に反応できるのはどうしてもおかしい。
そしてジンは戦慄する。
ジンの視線の先、彼には届かない《剣闘士》の呟く声。唇はこう言っている。
――12人。もう1人いたか
最初から待ち伏せに気付かれていた。位置を特定されていたから防がれたとジンは悟る。
「……先輩、すぐ逃げて本隊に合流して下さい」
驚愕と戦慄が抜けきれないまま、僅かに震える声でジンは偵察兵の先輩にそう言った。
「お前は? 狙撃は失敗したんだろ? だったらもう」
「僕が時間を稼ぎます。懐に飛び込んで、できれば捕まった人達に逃げるチャンスを……」
「何を馬鹿な! たった1人で突撃なんて無駄死にだ」
「でも!」
ジンの瞳は揺るがない。
その意志は彼を射抜く。
「僕に協力してくれた先輩たちを、仲間を僕は見捨てたくない」
「っ」
偵察兵の先輩はジンのまっすぐな目を見ることができず、視線を逸らす。
彼はうしろめたい気持ちに押し潰されそうだった。ジンは気付かない。
「……急いでください。僕たちの位置はとっくにあの人に気付かれてる」
「待て。……行くというならこれを持って行け」
差し出されたのは小さな球体が2つ。
この玉は攻撃が禁止されている偵察兵が使える唯一の妨害アイテム。
「俺がついて行くよりよっぽど役に立つはずだ」
「そんなことないです。でも、ありがとうございます」
ジンは喜んでこれを受け取り、彼にお礼を言った。
「行きます。先輩、また会いましょう」
「ああ。……すまなかった。今度会う時にちゃんと詫びを入れる」
「先輩?」
「今は気にするな。南軍の奴らに一矢報いてこい、ジン!」
「……はい!」
先輩に背中を押され、ジンは渡り廊下の窓から飛び降りた。
……別に突き落とされたわけじゃないですよ。
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一方、ジンに狙撃されたクルスにマークは話しかける。
「いやぁ、驚いたよ。僕が助ける隙なんて全くなかった」
「嘘つけ」
「あはは」
睨みつけるクルスにマークは笑って誤魔化す。助ける気はさらさらなかった。
「まあ、クルスは11人て言ってたのに10人しかいなかったからね。1人くらい見逃しても問題ないかなって」
「いや。12人だった。狙撃した奴が12人目だ」
「……へぇ」
これにはマークも感嘆の声を漏らす。
「天下の学園最強、《剣闘士》様が攻撃されるまで気付かなかったなんて凄いじゃないか。もしかしてミスト君以上?」
「どうかな。あいつはふざけなければ一流の《忍者》だからな」
「だよね。3年生でクルスに負けてないのは彼だけだし」
変態マフラー、最強説浮上。
「違う。あいつとは闘ってさえいない。こっちから仕掛けても煙に巻かれる」
「賢明な判断だよ」
嘘だった。
「それで誰だい? クルスの暗殺を企み、学園最強の座を狙う物騒な相手は」
「お前の発言が物騒だ。……最初は《気》の感じから《黙殺》かと思ったが違った。男だ」
クルスは一瞬視線を合わせた少年を思い出す。
「3年じゃない。見覚えはあるんだが2年でもなかったと思う」
「まさか1年生? 編入生じゃなくて」
「多分。実力があっても詰めの甘さがいかにもといった感じだ」
「詰め?」
マークは狙撃された状況を思い出し推理してみる。
「ああ。狙撃した彼の近くに『11人目』がいたんだね。クルスそれを警戒していたから余裕で狙撃に対応できた。そういうこと」
「というわけだ。1人だけ気配を消してもあれだと無意味だ。……まあ、不意を突かれても俺は負けんが」
クルスは自信を持って答える。
「……実は結構ヤバかった?」
「ハチマキだけを狙われた。大した腕だ」
マークの問いにクルスは答えなかった。
「ふーん」
「……なんだよ。いくら腕が立っても千載一遇のチャンスを奴は凡ミスでしくじった。それだけだ」
「そうなんだけど、僕はますます興味がでてきたね。そろそろ偵察兵が彼を見つけると思うんだけど……」
「ジン!?」
「ジン様!?」
突如聞こえてくる驚く少女達の叫び声。
「何だ?」
「クルス、上だ」
見上げれば3階の渡り廊下から黒髪の少年が飛び降りて、部隊の中心めがけて飛び込んでくる。
「うわ。特攻?」
「あいつが狙撃手だ。……そうか」
飛び降りたジンを見てクルスは思い出した。
皇帝竜事件。あの時も狙撃手の少年は空を飛んでいた。
学園最強の《剣闘士》は思い出した少年の名を呟く。
「《射抜く視線》」
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ジンは3階から飛び降りながら先輩にもらった玉を投げると、『弓を構え』、『矢をつがえる』。
《幻想の矢》に射抜かれた玉は空中で爆発。
この爆発から、南軍の部隊すべてを相手にジンの『一矢報いる』戦いがはじまる。
(先輩達の戦いを僕は……無駄にはしない!)
ジンが射抜いたのは、煙玉だ。
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