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幻創の楽園  作者: 士宇一
幕間章 合戦編
91/195

捜索、精霊使い 3

《歌姫》のエピソードは第3章が終わってからでもお送りします

 

 +++

 

 

 アギは右手で《盾》を翳し、リュガの警棒を打ち払った。

 

「アギ?」

 

 リュガと同じく臨時の警備員をしていたアギ。リュガの騒ぎを聞いて駆け付けたようだ。

 

 呆気にとられる3人。アギの接近に全く気付かなかったのは以前ユーマを助けた時に使った謎の瞬間移動を使ったらしい。

 

「おいリュガ。仕事中に喧嘩して怪我人なんてだしたらブソウさんに絞られるぞ」 

「待てよアギ。俺は最初から当てる気なんてねぇよ。掠める距離で打ち込んだのに勝手にユーマが飛び込んできたんだ」

「ユーマ? ……ああこいつか」

 

 アギが飛び込んだのは咄嗟だった。それで彼は制服を着ていないユーマに気付かなかったようだ。

 

 そのユーマ。突き出そうとした拳が不発におわったので握り締めていた右手とアギを見ては不満そうな顔をしている。

 

 それから出番を取られた、とアギに小言を漏らした。

 

「アギはいつもおいしいところだけ持っていくね」

「はぁ? お前何言って」

「そうだな」

 

 ユーマに同意するリュガ。

 

「そうなんだよユーマ。こいつな、ブソウさんやヒュウナーとかに一目置かれていて昔から知る人ぞ知るって感じの奴なんだ。さらに昇級試験で一気に有名になったからな」

 

 《バンダナ兄弟》の相棒としてはアギに色々と思うところがあったらしい。

 

「なんだよ、リュガまで」 

「ちょっと調子乗ってねぇかと俺も思っていたところなんだ」

 

 

 それで最近のアギの活躍を振り返ってみる。

 

 まず昇級試験で《精霊使い》の猛攻を《盾》で防ぎ切って勝利。ランクCからAへと2ランクアップの快挙を成し遂げる。

 

 皇帝竜事件でも仲間たちを皇帝竜から守り抜き、特に3体同時の《カイゼル・バースト》を凌いだインパクトは全校生徒の知るところだ。

 

 エースである《精霊使い》の相棒として学外へ任務を請け負うことも多い。噂では学園最強の《剣闘士》、クルス・リンドの全力の剣を無傷で受け止めたことで《Aナンバー》の全員が彼に注目しているという。

 

 攻撃技をもたないアギはユーマに比べるとやりすぎたということもなく、良い噂だけが学園に広がっていたのだ。

 

 

 リュガはそんなアギに悲しそうな顔を向ける。

 

「アギ、お前変わったよ。俺を置いて1人だけランクAになってさ。最近付き合い悪いし」

「この二階級特進男!」

 

 友情とは何だろうなとリュガは思い、ユーマは叫ぶ。

 

「お前には時期エース候補とか時期自警部部長とかの噂もあって出世街道まっしぐらだよな」

「このブソウさん2号!」

 

 離れて行く親友をリュガは寂しく思い、ユーマは叫ぶ。

 

「去年が懐かしい。お前とつるんでいたあの頃が。ヒュウナーのグループと対立して、一緒にブソウさんに追いまわされていたあの日々が」

「この《焼きプリン事件》の主犯!」

「お前黙れよ!!」

 

 流石にアギはキレた。叫ぶユーマの首を絞める。

 

 

 焼きプリン事件。去年に起きた事件であの自警部部長を巻き込み、彼を停学に追いやった自爆事件はそれこそ知る人ぞ知るアギの大戦果である。

 

 

「ぐぇ」

「……リュガ。最近付き合い悪くなってるのは俺も悪いと思ってるが、原因はこいつや姫さんたちだぜ」

 

 アギはユーマを絞めながらリュガに向けて説得というよりも愚痴をこぼす。

 

「他校の事件に引っ張りまわされるわ訓練に付き合わされるわ。つーかお前は氷の姫さんの誘い断れるのか? 俺は断っていいのか?」

「いや」

 

 リュガは即答。彼はアイリーンの頼みなら喜んで引き受け、彼女の為になるなら喜んで親友を差し出すだろう。

 

 アギはどちらかというとアイリーンの体術指南よりもエイリークの剣を受ける『動くカカシ役』をすぐにやめたい。

 

「お前はむしろアイリーンさんの為に頑張れ」

「……はぁ。お前だって応援団やら何やら付き合いがあるくせに。それとブソウさん2号ってなんだよ。ああ?」

「……」

 

 さらに絞めあげられたユーマはアギの腕をタップ。それでやっと解放された。

 

「ぷはっ、……ごめんなさい。つい調子に乗りました」

「ったく。でもそのブソウさんから聞いたぜ。お前今日から謹慎だってな」

 

 ニヤリ、とアギ。ユーマが学園に来ていることは別に咎める気はないらしい。

 

「昨日はお前姫さんの姉さんとデートだったじゃねぇか。一体何したんだよ」

「いや、それに昨日はデートじゃ……」

 

 2人でこっそりスタジアムを消し飛ばしました。とは《精霊使い》の所業を見たシラヌイ君もいるので冗談でも言えない。

 

 デートと聞いてリュガの目の色が変わる。

 

「なんだそれは」

「リュガ、それ違うから。だいたいアギだって昨日は美人な人妻と一緒にいて……」

「サヨコ様に向かって何てこと言いやがる!!」

「ぐぇ」

 

 ユーマは再び首を絞められる。

 

「あー、ユーマ。砂漠の民に王妃の悪口は禁句だ。アギどころか砂漠の民全部敵に回すことになるぞ」

「……」

 

 訳知り顔のリュガ。彼もこの件でアギとガチの喧嘩をしたことがある。

 

 さっきより強く絞めあげられたユーマはアギの腕をタップ。

 

「ぷはっ、……ごめんなさい。アギはサヨコさんのエスコートをしていただけです。アギは紳士です」

「……まあいい。リュガ、見廻りに戻ろうぜ」

「ああ」

 

 リュガはもうどうでもよくなった。

 

 シラヌイ君は3人のやりとりを呆然と見ているだけ。エイヴンはもう空気だし。

 

「じゃあまた明日な。謹慎と言ってもどうせ運動会はでるんだろ?」

「もちろん。騎馬戦には絶対参加する」

 

 そこは譲らないと言うユーマに2人は笑う。

 

「ああ。俺達はチームバラバラだからな。勝負だぜ」

「おう」

「次こそ俺も大活躍だな」

 

 最後に3人で明日の健闘を祈り、アギとリュガはユーマと別れた。

 

 

 2人と距離が離れたところでユーマはアギに向かって叫ぶ。

 

 首を絞められた仕返しにと爆弾を投下。

 

 

「アギー! 《歌姫》のあの子から手紙来たー?」

 

 

「なっ!?」

 

 アギは驚いてユーマの方へ振り返る。

 

「何でお前がそれを知って」

「なぁ、アギ」

「……なんだよ」 

 

 アギは恐る恐る隣の親友を見る。

 

 そこには赤い鬼がいた。

 

「《歌姫》ってなんだ? お前あの時は彼女に興味ないって言ってたよな? なのに……手紙だと?」

「違う! それはお前の言うあの女じゃなくて」

「ほう。じゃあ誰だ?」

「げっ」

 

 墓穴を掘った次の瞬間、アギは全力で逃げた。凄みの増すリュガ。

 

「てめぇ、待ちやがれ」

「ユーマ! 覚えてろよ!!」

 

 見廻りの仕事そっちのけで鬼ごっこ開始。

 

 ユーマは赤鬼から必死で逃げるアギに手を振ってあげた。

 

 

 それはもう笑顔で。

 

 

「よし。仕返しはすんだし次に行こうか」

「……」

「シラヌイ君?」

 

 アギが登場してからしばらく放置されていたシラヌイ君。

 

 彼はユーマを見て今更この人何者だろうと考える。

 

「そういやエイヴんは?」

「……えっ?」

 

 

 そう言えばと2人は辺りを見回してみる。彼がいない。

 

 +++

 

 

 2人が目を離している間にエイヴンはいなくなっていた。

 

 相手にされなくて1人でまたナンパに行ったのだろうとユーマはシラヌイ君と2人で彼を捜す。

 

 

「あいつ本気で《精霊使い》を捜す気あるのか? 遊んでばっかりじゃないか」

 

 でも見つけられる気はまったくないその《精霊使い》。

 

「実際遊ぶ気で学園に来ましたからね。王子は」

 

 そう言って苦笑するのはシラヌイ君。

 

「国ではいつも『地味な修行ばかりで嫌だ』と愚痴をこぼしてましたから」

「ん? エイヴんの修行って?」

「それは」

 

 シラヌイ君が答えようとしたその時、ユーマはエイヴンを見つけた。

 

 エイヴンは数人の男女に囲まれている。

 

「いた。でも何やってんだ、あいつ」

「待って下さい」

 

 彼らに近づこうとしたユーマをシラヌイ君は止めた。

 

「あの人達は見覚えがあります。彼らは僕と同じ時期に来た編入生です」

「もしかして《会長派》か?」

 

 

 人目のつかないところへ連れて行かれるエイヴン。ユーマは彼らを追いかけてしばらく様子を窺うことにする。

 

 +++ 

 

 

 ユーマ達に放置された空気なエイヴンはしばらく1人拗ねた後、案の定ナンパに出かけた。

 

 それで3度目のアタックの時にうっかり編入生の女生徒に声をかけてしまい、エイヴンを見て集まった編入生のグループにそのまま絡まれてしまったのだ。

 

 

 彼らはエイヴンの駄目さ加減をよく知っていた。だから馬鹿にした態度で彼に接する。

 

「今日はお供はいないのか? おまけの屑王子」

「……」

 

 エイヴンは答えない。

 

「まだいたんだな。このランクE。とっくに自主退学してたと思ったぜ」

「……」

 

 エイヴンは答えない。

 

 卑下した笑い声に彼は下を向いたまま、感情を凍らせてただ耐えるだけ。

 

「何か言えよ。女の尻を追いかけるだけの駄目王子さんよ」

「鉄屑にまみれた北のヘボ国も、お前の代でとうとう終……」

「黙れ」

「ああ?」

 

 ここでエイヴンは顔を上げた。

 

 その目には怒りを宿し、編入生達を睨みつける。

 

 

「取り消せ。私の故郷を馬鹿にするな」

 

 

 エイヴンはどんなに自分を馬鹿にされてもそれだけは許せなかった。

 

 一国の王子としての誇りが彼を奮い立たせる。

 

「んだと」

「私の国、《凍坑の国》は北と東、2地方の業を併せ持つ素晴らしい国だ。貴様らに馬鹿にされる筋合いはない!」

「うるせぇ!」

「っ!」

 

 殴り飛ばされるエイヴン。一発で沈む。

 

「…………取り消せ」

「まだ言うか、てめぇ」

 

 編入生の1人が腰から長剣を鞘ごと抜いた。それを見た他の編入生が驚く。

 

「おい、いくらなんでもそれは」

「うるせぇ! その目が気に入らねぇ。馬鹿王子の癖に」

「……」

 

 軽い脳震盪を起こしたらしい。エイヴンは立ちあがれずにいる。

 

 でも彼は編入生達を睨むのをやめない。

 

「……ちっ、屑が。くたばれよっ!」

「っ」

 

 エイヴンに向けて振り下ろされる鈍器。

 

 そこに黒髪の少年は飛び込んできて――

 

 

「ふっ、ざけるなっ!!」

 

 

 ユーマが右の拳で鞘付きの長剣を殴り飛ばす。彼を知る人が見ればそのパンチは誰もが驚いただろう。

 

 今のユーマには精霊がいない。ガンプレートもなければ本当に普通の少年と変わらないはずなのだ。

 

 突然の乱入に驚いたエイヴンと編入生。

 

「……ユーマ?」

「やめろよ。お前」

 

 エイヴンに武器を叩きつけようとした編入生はユーマに睨まれると思わず怯み、一歩下がった。

 

 それは以前にブソウさえも怯ませた、感情を研ぎ澄ますことで透き通る黒の瞳。

 

 

 兄譲りの静かな怒りの瞳。

 

 

「そこまでです」

 

 そしてもう1人。従者の少年がエイヴンの前に現れる。

 

「シラヌイ……」

「王子の言うとおりです。凍坑の民の、彼らの業は世界に誇るものだ」

 

 シラヌイ君は刀を抜いた。そしてその刃の輝きを編入生達に見せつける。

 

「この刀は僕が王子から賜ったもの。そして毎晩王子自ら砥いでくださるこれは、何を斬っても刃毀れひとつできない。刃の輝きだって曇ることがない!」

 

 

 先程リュガと激しく打ち合ったばかりのシラヌイ君の刀。

 

 それは彼の言うとおり最高の切れ味を保ちながらも、その刃は曇りひとつなく銀色に輝く。

 

 

「この方は《銀匠》の王であるコロデの王子。数多くの刀匠を世界に送りだした王子の国を馬鹿にするな」

 

 エイヴンを庇うように刀を構えるシラヌイ君。

 

「これ以上王子の誇りを汚すのならば、不知火流の名にかけて僕が相手をします」

 

 彼の周囲で闘気のように揺らめく熱気。これは風属性と火属性の複合術式、《陽炎》だ。

 

 

 しかし編入生達はそれで怖じ気づくわけがない。

 

 シラヌイ君の実力では1人を相手するのが精一杯。数の上で編入生達が断然有利だからだ。

 

「シラヌイ。てめぇ1人でこの人数とやる気か?」

「……」

 

 シラヌイ君は答えない。彼はもう覚悟している。

 

「違う。2人だ」 

 

 代わりに編入生達に答えるのはユーマ。

 

「はぁ? たかがガキが2人になったところ……で」

「おい、あれって」

「えっ?」

  

 戸惑う編入生達。改めてユーマを見た彼らは目を見張った。エイヴンとシラヌイ君も驚きの目でユーマを見ている。

 

 なぜなら彼の肩にはいつの間にか、緑の髪をした小さな羽付き妖精がしがみついているから。

 

「まさかお前」

「誰だと思う?」

  

 編入生達に向けて不敵に笑うユーマ。

 

 ついでに風葉もにこー、と笑った。

 

 +++

 

 

「大丈夫?」

「ああ……」

 

 

 編入生達は追い払ったあと。ユーマは倒れたままのエイヴンに手を貸す。

 

 風葉を見た編入生達は何故かあっさりと退いたのだ。

  

「ユーマ君は僕達を騙してたいたんですか?」

「ん? 何が」

 

 静かな怒りに震えるシラヌイ君に対してとぼけるユーマ。

 

「だってそれ、精霊じゃ……」

「ああこれ。違う違う」

 

 ユーマはシラヌイ君にPCリングを見せ、偽造していた風葉2号をもとのピンク色に戻した。

 

「これはPCリングの幻創獣。よくできてるでしょ?」

「はぁ?」

 

 ユーマの思考操作でくるくる踊るピンクの風葉。

 

「はったりだよ。あいつらが騙されて潔く去ったのは意外だったけど」

 

 もしかすると生徒会長あたりに《精霊使い》のことは彼らに知らされていたのかもしれない。

 

 シラヌイ君は訊ねた。

 

「もしも精霊が嘘だと気付かれたらどうしたんですか?」

「事前にリングでアギ達に連絡しておいたからね。逃げたふりして挟み撃ち。それから一網打尽かな」

「……はぁ」

 

 シラヌイ君は編入生達と対峙してからずっと緊張していたので一気に脱力した。

 

「僕はやられる覚悟もしてたのに」

「あのくらいの喧嘩でそんなんじゃこの先学園でやっていけないよ。ところで」

 

 ユーマは先程の事を思いだして訊ねてみる。

 

「さっき言ってたけどシラヌイ君の刀ってもしかしてエイヴんが打ったものなの? それにトウコウの国って?」

「それは」

「シラヌイ」

 

 質問に答えようとしたシラヌイ君をエイヴンが止める。

 

「何か冷やす物を持ってきてくれ。喋るのも痛い」

「は、はい」

 

 エイヴンの頬は殴られてぶっくりと腫れていてる。見るからに痛々しい。

 

「でも王子」

「話はあとでいいよ。 エイヴんは俺が見ておくから」

 

 エイヴンの意図を察してシラヌイ君を促すユーマ。

 

「それとも皆で救護室に行く? セレス先生の湿布はよく効くよ」

「私はしばらく動きたくない」

「だとさ」

「……わかりました」

 

 不審に思いながらもシラヌイ君は氷かなにかを探しに走って行った。

 

「行ったよ」

「ああ」

 

 改めてユーマはエイヴンを見た。彼の軽薄で臆病な雰囲気が一転して引き締まったものに変わっているのがわかる。

 

「これで話せる?」

「なんのことだ」

 

 とぼけられた。本当に何もなかったかもしれない。

 

「じゃあいいや。聞かない」

「そうしてくれ。私は学園で馬鹿らしく遊びたいだけだ」

「……」

「もっとも、馬鹿で落ちこぼれであることは間違いないが」

 

 エイヴンは自嘲して笑う。腫れた頬が痛いのか笑顔が歪んでいた。

 

「私は剣も魔術も使えない技術士くずれの《鍛冶師》。それも未だなまくらしか打てない《銀匠》の息子だからな」

「その年で刀を打てるのに? シラヌイ君はエイヴんの刀を褒めていたよ」

 

 学園の生徒で武器職人といえば見習いしかいない。彼の刀を見る限りエイヴンは職人としては天才ではなかろうかとユーマは思いもする。

 

 ティムスでさえ武具を強化でなく作るとなると、既存品の《複製》しかできないのだ。

 

「シラヌイのあれもただのなまくらだ。そこらの武具店のものがよほど切れる」

「でも」

「あの刀は毎日《気刃》を砥いでおかないとシラヌイの腕についていけず折れてしまう」

「きば?」

「知らないだろうな。ブースターが主流となる今では廃れてしまった、古臭い職人の技さ」

 

 馬鹿にしたようにエイヴンは言う。でもユーマには自慢にも誇っているようにも感じた。

 

 

 《気刃》とは剣や刀のような鋼の刃に宿る魂のようなもの。古い文献では鍛冶師が刀剣に叩き込み、剣士が振るうことで刻む魂そのもの、『刃金の魂』と記されている。

 

 エイヴンの故郷である《凍坑の国》の鍛冶師達はその魂を砥ぐことができるのだ。凍坑の鍛冶師は昔から刀剣の心身を鍛え上げる刀匠として有名だった。

 

 彼らの技はゲンソウ術のなかでも古いもので、職人によって研ぎ澄まされた魂は刀身に影響を及ぼして切れ味と強度を飛躍的に上昇させる。

 

 ユーマは知らないがエイヴンのいう『古臭い技術』とは彼の国にしかないものだ。初代の《銀匠》であるコロデは400年前の勇者の1人である《刀》を極限まで鍛え上げたという逸話もある。

 

 ところがエイヴンはその刀匠達の王である《銀匠》の息子でいながら、故郷では落ちこぼれだといわれていた。彼は《気刃》を砥ぐことしかできなかったからだ。刀を打つ技量は並以下だった。

 

 エイヴンが物心ついた時から学んだ鍛冶師の技術は上達の兆しが見えず、彼はこの年で自分の才能に見切りをつけていたのだ。

 

 

 修行としてエイヴンの従者をしているシラヌイ君の推薦に乗じてエイヴンは自分の修行から逃げた。

 

 彼は逃げた自覚があるから誰よりも自分を卑下して馬鹿を演じる。自分を誇ることができないから。

 

 

 しかし彼の身に付けた《気刃》を砥ぐその技の価値を知る人がどれだけいるだろうか。

 

 鍛冶師としては最低でも、砥ぎ師としてならば彼は世界でも通用するのに。

 

 

 ユーマは訊ねた。

 

「あの時さ、馬鹿にされて悔しかった?」

「そんなことはない。あのくらいなら言わせておけばいい」

「本当に? 自分の国の事も?」

「……」

 

 エイヴンは答えない。

 

 自分は未熟だから馬鹿にされて当然。しかしいくら片田舎の小国でも故郷の職人は世界に誇れるものだ。エイヴンはそう思っている。

 

 エイヴンは何も知らない人間に故郷を馬鹿にされて何も言わなかったわけじゃない。ただ殴られて終わってしまった。

 

 ユーマには何も言わないエイヴンだが、ただ固く握り締めた拳は何も言わずとも彼の悔しさを伝えている。

 

「……よし。見返そう」

「ユーマ?」

 

 それでユーマは決めた。思い付きをエイヴンに提案する。

 

「明日の運動会でさ、エイヴんはあいつらを差し置いて大活躍しよう」

「無茶を言わないでくれ」

 

 エイヴンの個人ランクは戦士、技術士、魔術師、どのクラスでもランクE。普通科の生徒と混じっても並以下の能力でしかない。無理がある。

 

「大丈夫。エイヴんでも活躍できる種目が1つあるんだ。俺が協力する」

 

 その種目とは騎馬戦だ。ユーマが考案したこの種目ならばエイヴンにもチャンスがあるはず。

 

 ないなら策を巡らせて見せ場を作ればいいだけだ。

 

「しかし」

「チャンスだよ。全校生徒の前でチームの勝利に貢献すればエイヴんだって一躍有名人! 女の子にだってもてること間違いなしさ」

「だが」

「ノリが悪いな。だったらあとで知り合いの女の子を1人紹介するよ。多分エイヴンを気に入ってくれる」

「乗った!」

 

 エイヴンはやはり馬鹿だった。あと調子に乗るのが早い。

 

「いつの時代も英雄はもてる。そうだな?」

「そうだね。シラヌイ君が戻ったら作戦を立てよう。エイヴんのチームはどこ?」

「東軍だ。シラヌイもいる」

 

 本当ならユーマは東軍ではなかったが、謹慎中で運動会出場禁止の今となってはもうどこでもいい。

 

「問題あるか?」

「いいや。どのチームでも戦力はあまり変わらないよ。むしろ東軍の大将は融通が効くし」

 

 参加するなら彼、ブソウの所がいいとユーマも思っていたところだ。

 

「よし。俺達で東軍を勝たせよう」

「おお」

「声が小さい!」

「おおー!」

「もっと!」

 

 空に向けて拳を突き出して叫ぶ。

 

「天下獲るぞ!」

「おお! いいなそれ」

 

 エイヴンもユーマを真似してみる。

 

「目指すは学園最強、クルスさんの首!」

「それはいくらなんでも」

 

 ユーマも言ってみて無理があったと思った。

 

「……うん。俺も無理。でもルールがあるしあの人用の対策も一応あるんだ。だからやろう、エイヴん」

「お、おぅ」

 

 エイヴンは怖じ気づいた。

 

 

 

 

 このあとシラヌイ君を交えて打ち合わせをするユーマ達。

 

 事情が呑み込めないまま会議に参加するシラヌイ君は、作戦を熱弁するユーマとそれを聞き入るエイヴンの2人に「《精霊使い》はどうしたんですか?」と言えずにいた。

 

 

 この日はこれで終了。ユーマの狙い通りだ。

 

 +++

 

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